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008 転

 ヨツグは森の中を走っていた。一人になった今、挟み撃ちにでもされてしまったら迎え撃った所で返り討ちになってしまうからだ。


「せめてスナイパーの位置が解ればいいんだけどなぁ」


 ヨツグはそう呟くと東方面へと向かった。







「ねぇ、アリサー。もうモチャが倒しちゃってもいいよねーっ」

「モチャさん……。チームなんですから協力して……」

「協力したってさぁ。どうせ敵は一人なんだからさぁー」


 一方、レンカチームの二人は仲間割れの喧嘩中だった。モチャは「自分一人で倒せる」と言い、アリサは「協力しないと駄目だ」と言う。この光景を見ているリッドはかなり呆れた。







「ありゃあ駄目だな。ヨツグの勝ちかもしれないかもな」

「り、リッドさん……」


 そう言うヒバリも画面を心配そうな表情で見ている。


「確かに、勝てばいい。それは俺もモチャの意見に賛成だ。だけどな……こうとも言うぜ?」


 リッドはヒバリや観戦している他の〈冒険者〉の目線が自分にくるのを一瞬だけ確認すると続きを言う。


「“協調性がないと勝ち負け以前の問題だ”ってな」







 ヨツグは音をたてない様に東方面を歩いていた。サバゲーフィールドは、狭い、とは言えないが広いとも言えないくらいの広さだ。だから、簡単に見つからない。


「やっべぇ……。意外と見つからねぇ。大まかでも良いから場所がわかればなぁ」


 ヨツグの不安はそれだけではなかった。レンカチームの方には、まだスナイパーがいる。まだ油断は出来ない。

 するとふとヨツグは思い付いた。アサルトを上にあげーー正確に言えば“銃口”をーー六発程度撃った。そして素早い動きで奥の方に隠れた。


ーー“見つからない”なら、こちらに“誘い込めばいい”……。


 二人ーーまだ喧嘩中だったーーはその銃声を聞くとその方向を向く。


「もういいっ! モチャ一人で行っちゃう! あそこにいるんだよねっ!」 

「ーー! 駄目ですよモチャさんっ」


 モチャはそんなアリサの言うことを聞かずに行ってしまった。諦めたのかアリサも銃声が聞こえた方へと走っていく。







「あーあ、こりゃあ本当に負けちまうぞ。モチャが先走るのが二人にとって最悪、逆に言えばヨツグにとっては最高のパターンだからな」


 リッドが珍しく怖い顔をしていた。


「社長……頑張ってください」


 リッドの横でヒバリは祈るばかりだった。







 東方面にモチャは着くと周囲を警戒した。木の影に隠れながら進んでいく。その時だった。モチャは不思議な体験をした。

 気がついたら銃声が聞こえて右肩に撃たれたのかピリッとした痛みがきて、地面に弾があった。前を見ると奥の方ーーいくら〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉でもピントが合わせるのが難しいと言われている所ーーにヨツグが銃を構えて立っていた。


「え……? モチャ……撃たれた?」

「あぁ、撃たれた。だから、ピリッと痛み、きただろ? 違うか?」


 モチャは静かに首を横に振る。そして静かにーーモチャらしくなかったーー「ヒット」と言った。


 残り、アリサ対ヨツグ。最後の戦いとなった。







「モチャ選手ヒット! リッドさん。ヨツグ選手は何を……」

「何もしてない」

「へ?」


 リッドが静かに、はきはきと言った為、ヒバリはとても驚いた。


「何もしてない。ただ罠を仕掛けおびき寄せ、狙いを定めて撃った。ただ、それだけだ」


 会場内はざわざわしていた。「そんな事出来るのか?」「もしかしてアイツ(ヨツグ)が勝つんじゃないのか?」とヒソヒソ声が聞こえてきた。


「ただ、まぁ……アリサをあの三人(レンカチーム)で一番下だと思ってたら、痛い目に会うかもしれないぜ?」







 アリサはモチャが通った道を始めは走っていたが、一発の銃声が鳴った瞬間、横の茂みに身を隠した。


(あの銃声はどっちかはわからないけど、終了のアナウンスが流れないという事はモチャさんが……?)

「『モチャさん。今の銃声は……』」


 アリサが通信機で連絡すると、モチャの声が聞こえた。


『アリサ、ゴメン。ヒットされちゃった。アイツ、強いね』


 悔しかったのかーーもしくは独自の判断で行動した事を後悔しているのかーー今にも泣きそうな声だった。


「『モチャさん。説教は後です。必ず、私がヨツグさんに弾を当ててみせますっ!』」


 アリサは決意のこもった目ではっきりと言った。

 アリサは横道(茂み)を通りながらモチャが向かった場所へと行く。すると一瞬だけーーすぐに消えてしまったがーー人の気配があった。恐らくヨツグだろう。これでは見つかるのも時間の問題、早く手をうたなければ。


(どうしたら……。駄目だ、判断している時間はない。あの二人(ホタルとユキト)をまとめているだけあってただで当てられる訳がない)


 進んでいくと広い所に出た。アリサはここで最後の戦いに出来ると思ったのか、少し止まって考えだした。すると何か閃いたらしく、ヨツグが来ないうちに行動した。







 会場内ではリッドが何故かーーとても不気味にーーニヤニヤしていた。


「へぇ、アリサの奴。面白い事し出したな」

「リッドさん、これにヨツグ選手が引っ掛かるとは思えないのですが……」

「それはアリサ次第だな。アリサがヨツグをどうやって誘導するか、それが鍵だな」







 森の中。アリサは立って銃を構え、心を落ち着かせていた。奥の方から来る気配がした。閉じていた目を開け、前を見るとヨツグがアリサと同じアサルトを持ち立っていた。腰には拳銃が一丁あった。すぐホルダーから抜ける位置にある。こちらも注意しなければならないと直感した。


「アンタが残るとは少し驚いた。俺は正直レンカが残ると思ったよ」

「それはよかったです。ヨツグさんが驚いてくださるとは、残ったかいがありました」


 二人は雑談ーー無駄口とも言えるーーをしているが目線はお互いの手元にいっているのがわかる。


「…じゃあ、やりましょうか」

「あぁ。後悔しない様な戦いを、しよう……ぜっ!」


 先制攻撃をしたのはヨツグだった。発言が終わると同時にアリサに向かって五、六発撃った。アリサは即座にかわし、アサルトでお返しの十発ーーアサルトが連射出来る弾数ーー撃つ。ヨツグは右にあった木で弾を避け、ホルダーにしまってあった拳銃でアリサを狙い撃ちながら木の影に向かって走る。

 木の影を移りながら拳銃で撃つ。とても慣れた動きだ。流石二連覇したチームのリーダーだろう。







「アリサ選手、ヨツグ選手の戦いはますます激しくなっていきます!」

「……おっと、アリサついに仕掛けたばかりのアレをやるつもりだな。警戒心バリバリのさっきのヨツグには絶対効かなかった。でも今なら、運が良ければ……いける」

「リッドさん。まともな顔つきになりましたね」


 ヒバリが素直に言ったら、リッドに「空気読め」と言われてしまい少ししょぼんとしてしまったが、戦いはまだまだ終わらない。







 撃ち合いが続いているサバゲーフィールド。アリサが木で避けながら撃ち続け、ヨツグがどんどん近づいていく。


「いいのか? どんどん俺が近づいていくぜ?」

「……大丈夫です。奥の手がありますから」


 アリサは周りの人が見れば強がりに見える態度だが、ヨツグは本気で彼女がそう言っていると直感した。

 アリサの強がりーー周りから見ればーーな発言から一分、二分経った。その時ついにヨツグがすぐ横までたどり着いた。


「おれで終わりだっ!」


 ヨツグがアサルトで撃つーー直前にアリサは、横へ飛んだ。ヨツグが追いかける。その時、アリサは地面に散らばっているワイヤーをナイフで切る。その行動に一瞬反応が鈍ったヨツグ。アリサの目線が自分ヨツグの頭上に行っているのに気づきヨツグは上を向く。


「これで終わりなのは……貴方の方です!」


 上にくくりつけてあり、木の枝で隠れていたアサルトが見えた。(ナイフやワイヤーなどの武器は無数に持てる)アサルトはワイヤーによってヨツグに向けて撃たれる。アリサも横から撃つ。砂煙がかなり舞っていて会場のカメラじゃ何も見えない状態になった。会場が静かになる。砂煙が晴れ、アリサの姿が見える。かなり疲れている表情だ。

 全員の注目がヨツグとなった。いくら初心者用と言えど肌に当たれば若干の傷はつく。すぐにバレる仕組みとなる。


「あっぶねぇ……」


 ヨツグは無傷だった。背中を地面につけていて寝転んでいる状態だから、本当に危なかったのだろう。右手には拳銃を構えており、アリサの方を向けていた。


「……これは、本当に、完敗ですね」

「いやはや、俺はスゲー楽しかったぜ?」


 そう言うとヨツグはアリサの肩を撃つ。アリサは悔しそうなーー悲しそう、とも言えるが泣いてはいなかったーー表情をし、「ヒット」と言った。そこでブザーが鳴り、通信機からヒバリの声が聞こえた。


『試合終了です! アリサ選手ヒットにより、レンカチーム全滅。優勝は……ヨツグチームですっ! 三位までのチームには金貨一万枚、一位のヨツグチームのお三方にはニッカさんからちょっとしたレア武器が貰えるとの事です!』

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