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007 承(2)

 そして次の日。決勝トーナメント当日。決勝では予選のルールとは違い、相手チーム全員をヒットすると勝ちとなる。レンカのチームは順調に勝ち進んでいった。勿論、ヨツグのチームもだ。誰もが予想していた通り、決勝戦はレンカチーム対ヨツグチームとなった。


「決勝戦、レンカチーム対ヨツグチーム。司会は私、ヒバリ・ダリアが務めさせて頂きます。解説は〈冒険者()サポート()センター()〉社長アリサさんの知り合いで、実は元シヴィリアの〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉、リッド・ステイバーさんです。よろしくお願いします」

「おう、よろしく」


 対決フィールドのレンカチームスタート位置でアリサ達はホール(西門の近くでヒバリやリッドがいる場所)の会話を聞いていた。ルールやスタート合図はヒバリが声で言い、フィールドにいる六人は耳につけた通信機から聞いてスタートする。スタート以降はチーム内での通話に使う事が出来る。


(なるほど、だからあの時リッドさんは出場を断ったのか)


 少しだけアリサは納得出来た。緊張を無くそうとしていると、レンカから作戦の最終確認をすると言われたのでレンカの方へ近寄った。


「作戦を確認する。モチャは遠くから敵を狙う。出来るだけ相手のスナイパーをヒットするんだ」

「了解!」

「次にアリサ。気配を察知次第、ドカドカ撃て。それがアサルトの良い所だからな」

「分かりました」

「俺は出来れば近寄ってから撃つ。“ブラスト特有の特別ルール”がこの大会にはあるからな」


 するともうすぐ始まるアナウンスが流れた。三人は銃を構え準備した。三十秒になるとヒバリのカウントダウンをする声が聞こえた。アリサはその声を集中して聞き、スタートの瞬間を待った。


「あと三十秒で開始します。……二十秒前……十五秒前……十秒前……九、八、七、六、五、四、三、二、一……決勝戦。レンカチーム対ヨツグチーム。スタート!」

「行くぞ!」


 ヒバリの声とレンカの声を合図にアリサは森の中へと飛び出して行った。







 ヒバリのスタートと同時に飛び出したレンカチーム。モチャが隠れて遠い所からの狙撃でアリサは後ろから周りを見渡す。レンカは木で弾に当たらない様に隠れながら、どんどん前へと進んで行く。

 すると、上から気配がしたアリサ。枝と枝をジャンプして進んで行く人影が見えた。


「……アリサ!」

「分かってます!」


 アリサは銃口を上に向けドカドカと撃ちまくった。枝を飛びまくっていたのはホタルの様だ。


「うわっ! おっとっと……ふう。流石ですアリサさん! その勘の良さ!」


 純粋に敵を褒めていたホタルの頭をヨツグが軽く殴る。


「こらホタル! 何で相手を褒めるんだよ、後にしろ後!」

「痛っ! だからって殴らなくてもいいじゃないですか! ……と、いう訳で一旦失礼しますっ!」


 ヨツグが撃ちーー彼の武器はアサルトーー二人が避けた隙にヨツグとホタルは一旦退避した。


「……あのヨツグさんって人、かなりやりますね。恐らく一番厄介な相手になりそうです」

「……そうだな。『モチャ、アサルトとブラストが俺たちから離れた。そっちに行くかもしれない。気を付けろ』」

『分かったっ。今、近くに相手のスナイパーいるからさっさと倒しちゃうねー』


 モチャはそう言って通信を切った。それを聞くとアリサは何かムカついてきた。相手のスナイパーと聞いてユキトの顔を思い浮かんでしまったようだ。


「……すみません、レンカさん。私、モチャの方に走って行ってきます」

「分かった」


 アリサはレンカに許可をとると、走ってモチャがいる方に向かった。







 木と木の間の茂みに隠れているモチャ。すぐ近くにユキトの気配を感じている。


(んー じれったいなぁ。おっ、いーコト思い付いた!)


 一方ユキト。彼はモチャが感じた気配とは少し離れた所にいた。


(相手のスナイパーが動いた。たぶん、さっき僕がわざと(、、、)置いておいた銃の方だね)


 スタート直後、ユキトはバレない様にモチャの近くに行き囮の銃を茂みにーー銃口を少しだしておくのがポイントらしいーー置いた。モチャは気づいていないのか、どんどん囮の銃に近づいていく。そして囮の銃の後ろに回り込んだモチャはユキトの姿がない事に少し驚いた。

 その時、ユキトが持っているもう一つの銃のーールール上は銃は二つまで許可されるーー銃口がモチャの後ろに近づき、モチャが身動きとれない状態になってしまった。


「君って確かフィオラルの〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉だよね? そんな君が、こんな古くさい手にかかっちゃってさ。恥ずかしくない? まぁ、でも君は「戦闘」専門。僕は「サバゲー」専門。別に恥ずかしくないよねぇ……」

「うん、ぜーんぜん恥ずかしくないよ? だってさぁ……誰がこんな“古くさい手”にかかったって? もしかしてさ、お兄さんはモチャをヒットさせる事しか頭になかったのかな?」

「ーー!」


 ユキトが気づいた時にはもう遅かった。右の奥の方にアリサが構えてもう撃つ直前だった。


「ダメじゃん。スナイパーがこんな堂々と出てきたら。ここで戦闘専門のモチャからアドバイスあげるよ。スナイパーはね……囮になれる人が“一流”って言うんだよ?」


 ユキトはアリサによってヒットされながら、モチャの行動を思い出していた。そして同時に、自分の甘さを後悔した。


(思い出した……何で疑問に思わなかったんだ。あのスナイパーがわざと罠に引っ掛かったなんて。しかも遠回りしていたなんて……。ゴメン、ヨツグ)

「……ヒット」


 モチャは遠回りをし、急いで来たアリサを待っていたのだ。

 モチャ、アリサ対ユキト。ユキトがヒットされ、レンカチーム後三人。ヨツグチーム後二人となった。




「ユキト選手ヒット! これでレンカチームは一歩リードとなりました!」

「これで三対二。このまま順調にヒットされるのか、まだまだ見所はあるって事だ。だが……」


 リッドが言葉を少し止めた事に気づいたヒバリは「どうしたんですか?」と聞く。


「モチャって奴はさ、元フィオラルの〈塔支配者〉だったんだよな? それだけであんな度胸あるのかって思ったんだ。例えば……昔、今話題の〈初心者狩り〉をやっていた、とかな」


 リッドのその一言ーー大間かは本当の事だがーーにより会場内は少しざわついた。リッドはすぐに笑って「冗談だ。ただそれくらいアイツは以外とスナイパーとして無謀な事をしたって事だ」と言った。


「リッドさん驚かさないでくださいよ……」

「悪い悪い」

「それでは、続きを見てみましょうか」




 ヨツグとホタルは一人残ったレンカの近くにいた。そんなレンカは一旦引いた二人を探していた。だが二人はレンカの近くに潜んでいる。二人の方がかなり優位な立場ーーホタルが枝を踏むなど、ドジをしない限りーーにいる事は、間違いなかった。

 レンカは気づいていない。撃つなら今だ、と思った二人は少しずつ動いていく……がホタルが地面の枝を踏んでしまった。そのパキッという音で、レンカは二人の居場所を特定出来た。


「ーー! そこっ!」

「うわぁ! 何やってんだよホタルーっ!」

「すみませんヨツグさんっ!」


 いくら初心者用とは言えどやはり高威力で人気と言われるブラスト。木一本軽く吹き飛んだ。二人は爆発に巻き込まれない事で必死だ。




 会場内ではやはりヒバリとリッドが解説をしていた。


「流石高威力で人気のブラスト。かなりの威力で避けるのも大変そうですね」

「そりゃそうだろうな。ブラスト独自のルールで爆風はセーフだけど爆発はアウトだからな」


 リッドは言った後、少し考えた後レンカに心の中で「ドンマイ」と言った。同情……ではなく、哀れみの意味で。


(こりゃあ、アリサにこっぴどく叱られるな)



 リッドが思った事は、レンカも分かっていた。


「木を巻き添えにし過ぎたな。これは……後で覚悟しとかないとヤバイな」


 木をかなり倒した癖にーー毎年木を育てているのは「サポートセンター」の皆だーー二人ともヒット出来なかった。これは二時間説教コースだ。


「流石ブラスト。威力がスゲェな。しかも俺らが巻き添えになりやすい位置に撃ちやがった。これは……しっかりお返ししなきゃな、ホタル」

「そうですね、ヨツグさん。……レンカさん、しっかりお返し(、、、)させてもらいますっ」

 

 ホタルは一息深呼吸をすると目を見開く、そして同時に撃つ。


「ーー! なっ!?」


 消えたと思ったらレンカの後ろで構えていた。そして正確に弾丸を撃つ。ブラスト特有の威力が木を巻き込みながらレンカを襲う。間一髪、何とか避ける事が出来た。


「どーだ! ホタルの瞬発力はっ」

「何でヨツグさんが威張ってるんですかっ!」


 ホタルとヨツグが言い争っている時レンカは少し冷たい目ーー決して暖かい目ではないーーで見ていた。


(……別にどうでもいいんだが。と言うかアイツ(ホタル)木を五本倒しやがった。さらに説教の時間が増えるな)


 正直レンカは相手の瞬発力よりもアリサの説教を気にしていた。数秒経つとレンカは頭を振り一旦考えをリセットした。とにかく今は優勝する事だけを考えよう、それだけを考える事にした。

 そしてレンカは足元の石コロを相手に向かって蹴り飛ばした。一瞬驚いたのか、ヨツグがアサルトで石コロを撃った。レンカはその隙を狙っていた。木の枝を足場に渡ってヨツグの後ろに回り込んだ。


(まずは一人!)

「ホタル、アレ使えっ!」


 反応が一瞬早かったホタルは「は、はいっ!」と大きく返事をすると、弾ーーバレット、とも呼ばれるーーを変えて撃つ構えをした。その時、レンカの目線の奥の方にアリサの姿ーーちなみにモチャはさらに後ろーーがあった。


「アリサ! 相手のブラストを撃て!」


 言われたアリサは「はい!」と返事してホタルの方に銃口を向け構えた。

 アリサとホタルが撃ったのはほぼ同時だった。ホタルの撃った弾はレンカに当たり、それと同時にアリサが撃った弾はホタルに当たった。ヨツグはホタルの撃った弾の爆風で遠くーーモチャよりも遠くーーへと飛んで行った。


「ヒ、ヒットです」

「ヒット」


 これで残りはヨツグ対アリサ・モチャとなった。




「レンカ選手ヒット! 続けてホタル選手もヒット! これでヨツグチームは崖っぷちとなってしまいましたね」

「まー やっぱ最初にヒットになったのがスナイパーだったのが痛手だったろうな。意外とスナイパーがいるかいないかで安心感が違うだろうしな」


 するとリッドは自前の調査書ーー選手のプロフィールが書かれた紙ーーを見ながら言う。


「あのヨツグって奴結構強いな。モニターを見てても分かるぜ」


 紙にはこう書いてあった。


『ヨツグ・グラッゼ、男、二十一歳。武器→アサルト。「撃たれる前に撃て」がポリシー。装備はアサルト二丁。一丁の時には本気を出していない』


 これを見てリッドはボソッと呟く。


「……ったく、どんだけザバゲーマーなんだよ」

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