023 転
あれから一週間、事件当日。毎日街中を探してみたが見つからなかった。「他の街に行ったのでは?」と思ったがイズチが「当日まで待つ」と言ったので待ってみることにした。
「イズチの言う通り待ってよかったな」
「じゃろ? じゃろ!」
「ハイハイ」
「クルル、マルル……」
「コウタ、平気か?」
「はい。……大丈夫」
墓地。五人の目の前に双子がいる。後にアリサとイズチの命を奪う悪魔族の双子が。
「どうしてここがわかったんだろーね?」
「……さぁ?」
「えっと、イズチさんにーコルマさん。……で? そこの三人のおにーさん達は誰?」
過去のケトラ姉妹だから三人のことを知らない。それでも、レンカはここにいる理由を言った。
「俺たちは未来から来た。お前らが悪魔族だということも知ってる。大切な人を殺された。お前らを倒して……未来を変える!」
「その証。確かに未来から来た証拠にはなるね。……私たちにとってはどーでもいいことだけどね。ねークルル姉」
「……敵討ち。……つまらない」
言動と行動からかなり挑発しているのがわかる。双子は武器を構える。同時にレンカ達も武器を構えた。
「私たちを倒して未来を変える。……やれるもんならやってみなよ!」
「……出来るものなら」
「やってやる!」
レンカの叫び声と同時に全員が動いた。
「……まず、お手並み拝見」
クルルが〈死者〉を生み出す。とてつもない量だ。
「レンカ気合い入っとるのー」
「イズチも気合いだせって。……少しマズイから」
「離れるのは馬鹿のやることだ。……ま、レンカは元から馬鹿だけどな。だけど……今のお前はらしくねぇな」
どんどん〈死者〉が倒されていくのにケトラ姉妹はとても落ち着いていた。
「クルル姉、そろそろ来ちゃうよー! 急いでっ」
「もうすぐ」
クルルは何かを作ろうとしていた。
「……出来た」
「流石クルル姉! よーし、いけっ!」
マルルの掛け声でとある〈死者〉がレンカに向かっていった。そんな気配を感じていたレンカは早めに迎撃体制をとっていた。
「そこっ!」
〈死者〉だらけだったが仕向けてきた〈死者〉の位置はわかっていた。ちょうどいいタイミングで剣を振る。周りの〈死者〉も巻き込んでいく。
「ーー」
「……!?」
思わずその〈死者〉の首筋のとこで止まってしまった。思わず後ろに下がる。
双子がレンカに仕向けたのは今のレンカにとって十分過ぎるくらいのトラップだった。
「……レンカ、さん」
「ア、アリサ……」
アリサだった。ーーいや、正確に言えばアリサではない。クルルがレンカの記憶を便りに作った偽物だ。
「これは……〈死者〉? ……あ、あぁ。絶対そうだ。今の双子がアリサのこと知らないから作れるはずが、ない。そ、そう……だ」
レンカだって頭ではわかっていた。でもレンカの動きを制限するには問題はなかった。〈死者〉はレンカを虚ろ虚ろに呼びながらどんどん襲いかかる。レンカはまだ動揺しているのか避けるのに精一杯。
「レンカ、さん」
レンカは避けながら気持ちを切り替えていた。そして〈死者〉の動きを見きり一気に剣で切り裂く。
「あーあ。止められたのは少しだけかぁ」
マルルが残念そうな表情でレンカに歩み寄る。ゆっくり歩み寄っているところを見るにとても余裕なのだろう。マルルの後ろには絶対の信頼をおける姉のクルルがいる。クルルがいることでマルルに余裕が生まれるようだ。
「レンカ! くそっ、コイツらが邪魔だな」
「……行かせない」
「さすっがクルル姉だね! 一人で三人も止めるなんて!」
ふとマルルは違和感を感じた。
三人ーーリッドとコルマとイズチ。クルルと向き合っているレンカで四人。じゃあ、あと一人はどこに? 確か五人いたはずだ。自分達のことを知っている感じな少年がいない気がする。いつからいない?
「ーー! 危ない、マルル!」
クルルがマルルを突き飛ばす。同時に銃声が聞こえた。
「クルル姉……? どうして……?」
クルルはマルルを庇ったのだ。撃ったのは残りの一人のコウタ。アサルトは一回で数発撃てるからクルルは致命傷をおった。
「俺は未来でお前達とつるんでたんだ。それなりに考えはよめるっての」
リッド達を足止めしている〈死者〉を撃って倒しながらコウタはリッド達と合流した。
「クルル姉! クルル姉!」
これには五人とも驚いた。しばらくこんな感じなのだ。
弾はちょうど心臓のところに当たっていた。悪魔族に“死”の概念があるのならばクルルはもう死んでいる。このマルルの様子を見る限りあると考えられた。
「……私たちが未来でしたこと、謝らないよ」
「あぁ」
「私たちは、私とクルル姉が揃って“姉妹”。クルル姉がいないと、私は駄目だよ……っ」
マルルはゆっくりとレンカに近づく。先程の様な余裕そうな表情ではなく、マルルの目は「全てを諦めた」様な目だった。
レンカも、コウタも、リッドも……イズチも、コルマも、マルルが何をしてほしいのか、何となくわかった気がした。
「俺はさ、未来の双子しか知らないけどとても楽しそうだった。本当に双子は仲がいいんだなって思ったよ」
「……ありがとう」
こんなにあっさりと勝敗が決まるなんてレンカだけじゃない、みんな信じられなかった。でも、目の前のこの光景は現実だ。レンカは、最後にみんなの顔を見る。みんな頷いた。
「じゃあ……いくぞ」
「あぁ」
「……はぁっ!!」
剣を思いっきり振り下ろす。
……勝負は終わった。勝因ほコウタが双子の片方を倒したことだとみんな思った。コウタも、そう思っていた。
戦いは、終わったのだ。