022 承
聞いてはいけないことを聞いてしまったと慌てているコルマをよそにイズチはとても真剣な目をしていた。自分に関わることだからだろう。レンカ達三人は顔を見合わせ、誰か説明するのか押し付けあいをしていた。
そんな雰囲気を察したのかイズチはレンカに訊いた。なので強制的にレンカが説明することになった。残りの二人はこっそりガッツポーズをしたとか。レンカはそんな二人に恨みの目をし、どう説明するか考えた。
(まぁ、まずはこれを言わないと駄目だよな)
「信じてもらえないかもしれないけど……俺たち、未来から来たんだ。嘘じゃない」
正直信じてもらえないと思った。でもイズチの反応は思っていたのとは違った。
「コルマ。今日はツキカゲとホシカゲはダンジョンにいる予定じゃな?」
「そうだけど。……なるほど、生憎お茶しか出せないけどいいか?」
「うむ。……さてお三方。続きはコルマの家で話そうぞ。どうやらこんな大勢いる所で話す内容ではないらしいからな」
「信じてくれるのか?」
「未来から来たなら知っているとは思うが〈時止めの塔〉で時が止められるくらいじゃからの。未来から過去に来る、あながち出来ないワケじゃなかろう」
コルマもイズチの話で少し納得したらしい。普通に案内してくれた。
コルマの家は未来とは違って街中にあった。椅子に座るとコルマが温かいお茶を出してくれた。
「マジでお茶しかないけど、どうぞ」
「コッチ来てから飲まず食わずで助かったー!」
「飴食べたろ」
「飴は別腹っスよ。あ、さっき飴たくさん買ったんでどうぞ。お茶のお礼です」
「ありがとうな。アイツら好きだから喜ぶよ」
「何味いります? イチゴ、グレープ、マスカット、レモン、マグロ、ピーマン、ウナギ、アナゴ、ワサビ、芋ようかん……」
「まて後半不思議な味ばっかだぞ」
「飴には無限の可能性があるんだ」
「専門家になれるんじゃねぇの?」
「マジっスか?」
そんなのんびりとした話が一段落するとイズチが話の続きをレンカに促した。レンカは続きを話し始めた。
自分とリッドが〈塔支配者〉であること、事件の詳細は伏せた。イズチが死ぬことはもう本人に知られてしまったので伏せずに話した。
「ーーと、いうことだ」
「ようするにあの双子のせいでアンタとアリサは死ぬことになってしまったって訳だ」
「……なるほどな。イズチ、よくわかったか?」
「あぁ。よーくわかったぞ。ようするに、じゃ。レンカ、お主アリサのこと好きじゃろ」
イズチの意外な発言にコルマは思わずつっこむ。
「どこが「よーくわかった」んだよ。何でギャグにいくんだ。今はシリアスだろ」
「こういう空気だからこそギャグにいかいないといけないんじゃ。……で、どうなんじゃ?」
レンカは考える。その様子を親友で元相棒のコウタや個人的に気になるリッドの二人は見守っていた。
「よくわからないけど、アリサが側にいると楽しいな。とか隣にいると落ち着く。とかそんな普段とは違った気持ちにはなる。……たぶん、アリサじゃなかったら過去に行こうとか思わなかったかもしれない」
「それが恋じゃ」
「へー レンカが恋かぁ」
「確かにいつも一緒だもんなぁ」
「青春だなー。……じゃなくて、これからどうするか考えようぜ。イズチも自分の命かかってるんだからちゃんと考えろよ」
イズチに「それが恋」だと言われたがレンカはよくわかっていないらしく、首をかしげた。アリサも鈍感でレンカも鈍感。だから気づかないのだろう。一番リッドが納得出来た気がした。
「どうするかって言ってもやっぱ探すしかないんじゃないスか?」
「でもシヴィリア中を探したんじゃろ?」
「コウタはわからないのか? 双子とつい最近までいただろ?」
ケトラ姉妹としばらくいたコウタなら何となくわかるのではないかと考えたリッド。だけどコウタは首を横にふった。
「神出鬼没って言うの? いきなり現れていきなり消えて。だから全然わからないっスね」
「手がかりなしか……」
レンカが呟く。時間だけが過ぎていった。
「まだ一週間はあるんだろ? だったらいつでも対策はとれる筈だ。それより、寝床どうすんの?」
三人はコルマにいきなり現実を突きつけられた気がした。過去から来たってことは家はない。運がいいのか通貨は同じだがホテルの一泊はそれなりにする。また沈黙が生まれてしまった。
お金がないわけではない。レンカは〈塔支配者〉でリッドも元だがなっていた。それなりにどころかかなりある。コウタは悪いことなのだがまだ〈初心者狩り〉だった頃、〈冒険者〉から奪って節約しつつ生きていた。それなりに不自由はなかった。だから一週間の食事代は一応あった。
寝床。これだけが問題だ。
「お金あるなら隣街の〈フィオラル〉のホテルに泊まるのはどうだ? あそこならシヴィリアより安いけど」
「悪い。それは無理だ」
レンカがすぐに却下した。リッドとコウタも珍しいことだったので驚いていた。
「理由、訊いても?」
「あぁ。……そこの〈塔支配者〉は俺の父さんだと母さんが言っていた」
現在〈フィオラル〉の〈塔支配者〉は「ヴァンジーク・ローズ」だ。レンカが言うにはこの四十八年前の〈塔支配者〉は父である「アストラ・クロヴィン」らしい。
「確かに、レンカの言う通りあそこはアストラがマスターじゃ。……そうか、お前の父親なのか」
「じゃあ、レンカは生まれは〈フィオラル〉だったのか」
「そうだな。もっとも、俺が生まれる前に負けたらしい。それに生まれてすぐ死んだって」
「そうだったのか……。悪い」
コルマが謝るとレンカは少し焦って「謝らなくていい」と言った。そもそも父親の顔を覚えてないし、すぐに死んだから思い出ないから別に悲しくない、と。それでもコルマは悪いと思っているらしく、
「妹達いてうるさくても大丈夫なら僕の家に泊まってくれ」
流石にこれにはコウタとリッドもかなり驚いた。流石にそこまで面倒はみなくていい。そう言ったがイズチを守ろうとしてくれる礼だ。と言われてしまい二人は何も言えなかった。結局、一週間キグルミ家に泊まることになった。ちなみに食事代は自分で出すことを条件にしたらしい。
コウタに呼ばれレンカは近くによる。リッドも呼ばれたのか近くによった。コウタは二人にひそひそ話しだした。
「武器。隠したままだけど、どーするの?」
「あ、やべぇな」
「やばいな」
「どこがヤバイんじゃ?」
「おいイズチ。また人の会話聞いたのか? そろそろ止めとけよ」
三人は顔を見会う。出来れば〈塔支配者〉だとは知られないようにしたいと言ったのはリッドだ。レンカとコウタは「お前が説明しろ」という目線をリッドに向ける。またもやそれを察したのかイズチの目線もリッドに向けられた。
観念したのかリッドは説明をすることにした。
「実は俺とレンカは〈塔支配者〉なんだ」
「俺が現でリッドが元な」
「あっさり言ったよこの人」
「色々混乱するかもって思ってさ。ほら、武器見れば一発でわかるだろ。〈街人〉とかにばれたらヤバイかもって」
そんな心配をしていたリッド。混乱するかもと思っていたが二人は特に混乱する様子はなかった。街の人達にバレなければいいと言われ、夜にこっそりと取ってくることになった。