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002 承

 ベンチに座りながらアリサは少し考えていた。久しぶりに思い出した。レンカと初めて出会った時の事を。理由はコウタと会ってからだった。コウタと会ってから、何故か彼とレンカは仲良くなれる、というかオーラみたいな雰囲気が似ていたのだ。そのせいで、レンカとの出会いをふと思い出したのだ。


 レンカと出会ったのは二年前。彼がセンターへと依頼しに来たのが、出会いの原因だった。彼が〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉になったのはおよそ二年三ヶ月前。その時から三ヶ月経てばシヴィリア内で知らない人はいないくらい有名になっていた。

 彼の依頼は金貨三十枚、難易度中クラスの依頼で内容は「五十階層のフロアボスが急に暴れたから倒すのに手伝ってほしい」だった。フロアボスが相手だと、並みの〈冒険者〉じゃなかなか倒せない。いつもこういう依頼が来たときは社長であり元〈塔支配者〉のアリサが担当していた。


「五十階層のフロアボス……〈ゴブリン王〉でしたね?」

「あぁ、何故だかは知らないが暴れたと報告があった……ってアンタ〈塔支配者〉だったのか」

「かなり前になった“元”ですけれど」


 ダンジョンの五十階層へ行き、初めて一緒に戦うにしてはかなり息の合ったコンビネーションであっという間に〈ゴブリン王〉を倒した。それから二人はアリサの仕事とかでダンジョンに行く際、レンカもよく一緒に行っては魔物と戦っていたのだ。


 ふと意識を現実に戻し奥の方を見るとレンカが走っていた。時間を確認すると午前十時二分、待ち合わせ時間は午前十時ピッタリ。彼は二分遅れていた。


「レンカさん、二分遅刻です」

「悪い……いつも時間には厳しいんだよなアリサは」


 アリサはベンチから立ち上がり、レンカは息を整えお互い準備が出来た所を確認すると街中へと向かった。こういう時頼りになる人に会いに行くのが今日の目的だ。道を歩いている時は基本二人は無言、だから二人の周りは何やら黒いオーラが漂っているとの噂がある。


 アリサは歩いている時もコウタが何者なのかを考えていた。嫌な気配が漂っているのを感じては、その気配を出しているコウタ自身は結構明るい人だと感じた。一度レンカに言って聞いてみるべきなのか?と思ったアリサ。


「あの、レンカさん」

「何だ?」


 知らなかったらどうしようとか思っていたが、決心したらしく思いっきり聞いてみた。


「コウタ・リバティって人、知ってます?」

「ーー!!!」


 普段(と言うか大体いつも)レンカの気持ちは表情で読める。今の彼の表情は完全な「動揺、驚き」だった。「マズイ事を言ってしまったのかもしれない」と察したアリサはとにかく目的地に行くことを促し、少し落ち着いたレンカもアリサの後に続いた。







 広場から一・二分歩いた所にあるバーの裏側にある路地裏にある建物が今日の二人の目的地だった。ここはいわゆる「情報屋」であり、金貨は少々高いがかなりの情報を持つプロが経営している。彼の名は「リッド・ステイバー」。性格はチャラいが、情報屋としての腕は一流の男だ。


「よっ! アリサにレンカ。久しぶりだな」

「こんにちはリッドさん。久しぶり、と言っても一ヶ月でしょう。そんなに久しぶりじゃないですよ」

「アリサは相変わらず毒舌だな……ってどーしたレンカ」


 レンカの表情はとても暗かった。リッドから声をかけてようやく話に入ってきた。

 少し雑談を交えたら、さっそく仕事の話に取りかかる。アリサはリッドに聞きたい情報を言った。


「……〈初心者狩り〉のリーダーとアジトの場所かぁ」

「ーー? どうかしたのかリッド。問題でもあったのか?」


 レンカの質問にリッドはすぐに「いんや」と首を横に振って口ごもった理由を話す。


「変な言い方になるけどな、「言えない」じゃなくて「言いたくない」んだ。リーダーが誰なのかとかアジトの場所は何処なのか、とかは俺にかかりゃすぐにわかる。けどなぁ……。俺の情報屋としての勘が言ってるんだ。「言っちゃ駄目だ。言わない方が良い」ってな」


 リッドは一呼吸おいて「それでも聞くか?」と聞いてきた。アリサはどうするか考える。レンカをチラッと見たら向こうも気づきこっちを見た。レンカは「アリサに任せる」とだけ言った。

 レンカは窮地に立たされた時、アリサの判断が何時も正しかった事を知っていた。初めて会った時からそうだったし、今でもアリサのとっさの判断は信頼している。今回もアリサを信じる事にした。


「……聞かせてください。リッドさん」

「OK」


 二人はまだ知らなかった。リッドが「言わない方が良い」と言ったのはレンカに向けてだった事に。信じたアリサの判断でレンカにとって、驚愕の事実を知ることになるとはーー。







「いいか? よく聞けよ。リーダーの名前は……“コウタ・リバティ”だ」

「ーー!?」

「なっ……! 何でアイツが……」


 この反応で、アリサは「コウタとレンカは知り合い」という疑問が確信へと変わった。あの時の路地裏で出会った青年があの〈初心者狩り〉のリーダーとは考えにくかった。レンカを見ると、アリサ以上に驚き、ショックなのかがわかった。


「レンカさん。少し休んできてはどうですか?」

「……わかった。悪い」


 レンカは「広場に行く」とだけ言って建物を出た。リッドの方を見ると「言わんこっちゃない。だから言ったろ」とでも言いたげな顔をしていた。


「……私が聞きたいと言いました。責めるなら私だけにしてください」

「責める気はないけどな。てか俺の思ってる事よくわかったな」

「レンカさんのお陰で顔で表情や考えてる事を読む能力みたいなのが上がったのかもしれません」


 リッドは「そりゃそうか」とすぐに納得するとパソコンを操作しだす。とある画面をアリサに見せながら、レンカとコウタの関係を話した。


「コウタ・リバティ。十七歳、アリサやレンカと同い年だな。〈冒険者〉でもなく〈職人〉でもない、つまり〈街人〉の母と妹一人。武器はアサルト。アリサは同じでレンカはブラストだったか? ちなみに俺はスナイパーな」

「そんな事聞いてません。二年三ヶ月前にレンカさんにやられて〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉じゃななくなった癖に」

「アリサはホント厳しい……」


 軽い口してるが、彼はアリサの言う通り二年三ヶ月前までは〈塔支配者〉の地位になっていた男だったのだ。つまり「証」所持者。ロングブレードにスナイパー、シールドのセットを武器にしている。アリサの冷たいツッコミを受け、リッドはもう少し真面目に説明した。


「あー。今まではレンカとタッグを組んでいたようだな。レンカが前衛、コウタが後衛って感じらしいな。一年位前か、突然連絡出来なくなったらしい。あ、ちなみにーー」

「リッドさんが情報屋開く一ヶ月前、ですよね」

「よく知ってたな。もしかして……」

「えぇ、「タッグ組んでた奴が急にいなくなってな。ちょうどリッドが情報屋始める一ヶ月前位だった」って」


 リッドは頷き「なるほど」と返した。次の情報はかなり重大らしい。


「ソイツが連絡とれなくなって二ヶ月後に〈初心者狩り〉が次々と出始めたな、んでアジトの場所は……ここだな」

「リッドさんの後ろにあるモニター……監視カメラですか」

「おう、ハッキングした」

 アリサは「その内捕まるぞこの人」と言いたげな顔をした。リッドはそんな目線に気づいたのかとあるモニターを見るよう促した。するととある建物が見えた。


「この建物が〈初心者狩り〉のアジトだ」

「ーー? 誰かが中へ……え!? レ、レンカさん!」

「へぇ、どうやらアイツ自分で突き止めたのか」


 アリサは凄く慌ててしまった。リッドに「落ち着けよ」と言われても落ち着く事が出来なかった。自分がリーダーの名前を聞かなければ、もっとレンカは冷静に動けたかもしれない。そう思ったからだ。リッドに水を貰い飲むと、少し落ち着く事が出来た。


「……私も行ってきます」

「おう、行ってこい。情報料は今回は特別にタダでいいぜ。黒幕がまさかのレンカのダチだったなんてさ、アイツに金を要求なんて死んでも出来ねぇぜ」

「ありがとうございます。また、よろしくお願いします」


 アリサはリッドに見送られながら、勢い良く走りだした。







 広場から情報屋方面とは逆に進み、走り続けるとリッドがモニターで見せてくれた場所に着いた。一見すると普通の廃工場なのだが、奥に進むと地下へと続く階段が見えた。アリサは階段を降りドンドン先へと進んで行く。

 しばらくすると、横たわっている男がちらほら見えた。横たわる男はみんなこう言っていた。

ーー〈塔支配者(ダンジョンマスター)〉が攻めてきた。

 明らかにレンカの事だ。アリサは嫌な予感しかしなかった。


(早くレンカさんの所に行かないと……! 何だろう、とてもやな予感しかしない!)


 アリサはとにかく走った。長い一直線の廊下を走り数秒経つとまた階段があり、さらに進んで行く。すると何か音が聞こえた。剣を交える音、銃声。戦闘音だ。


「まさか、レンカさんが戦っているの……?」


 音のする部屋のドアを開けると、予想通り。レンカが沢山の男と戦っていた。アリサも急いで武器を構え、銃形態にして男達を撃って倒しまくった。(勿論、殺してはいない)

 全員倒し終わると奥にあった木箱のフタが開き、人が出てきた。〈初心者狩り〉のリーダー、コウタだった。

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