013 結
これから行くカフェはとても女子に人気で他の四つの街に支店がある。一番のオススメはアリサより少し年上の女性が淹れる珈琲だろう。彼女が淹れる珈琲は、ミルクなしでブラックでも飲めてしまう。
アリサとレンカはここに来て、一息ついた後、話した。だけど、「双子の姉妹を使えば出来たのではないか。と言ったら気配が変わった」ーーこの事については言わなかった。
レンカは一言も喋らずにアリサの話を聞いた。
「……これくらいです」
「そうか。それにしても、よくコウタを見つけられたな。凄いな」
「いえ、ただ単にここに居るんじゃないかって思っただけです」
「そうか」
本当は少し違った。「ここに居るかと思った」とは感じたのは嘘ではない。だが、それだけでは居場所は絞れない。彼女は直感で向かった。コウタが居たあの場所。ーーアリサとコウタが初めて出会った路地裏だったのだ。
「だからと言って、私があそこで抜けるべきではなかったと思います。みなさん魔物との戦いで疲れています。レンカさんも怪我をしてしまいました」
「いや、これはただのちょっとした傷で……」
「傷に『ちょっとした』もありませんっ」
「そ、そうか……」
アリサはとても真面目に悩んでいた。レンカは何も言えなかった。ただ、これだけは言えた。
「とりあえずは帰ろう。明日から九月だ」
レンカはそれだけ言うと会計ーー誘ったのはアリサだったのだが全部レンカが払ったーーを済ませ、店を出る。アリサも慌てて出る。
「あ、あの。今日は、大変でしたね」
「……そうだな」
「なぁ、アリサ」
帰り道、レンカが急にアリサを呼ぶ。ずっと無言で歩いていたのでアリサは少し驚きながらレンカの方を見る。
「一日、暇な日はないか? 半日仕事の手伝いを頼みたい」
「その、もう半日は?」
「……秘密だ」
「ーー? はぁ……。分かりました。暇な日を見つけたら連絡致します」
「頼んだ」
それだけ言うとレンカとは別れた。アリサは何がなんだか分からないまま帰った。
〈冒険者サポートセンター〉兼アリサの家に着くと、レジーナがいた。
「お帰りアリサ。ヒバリとミムラがいるから」
「分かりました。……あの、レジーナさん」
「どうしたの?」
アリサはレジーナさんにさっきレンカに言われた事を話した。「半日仕事。半日秘密」ーー「一日暇な日」を理由と共に訊いた。話しているとヒバリとミムラが来たので四人で座り、二人にも話した。
「アリサ。それってもしかして『半日デート』なんじゃない?」
「レジーナさん。僕は違うと思いますね。もっと真面目に考えて下さい。どうしてそうすぐに結論づけてしまうんですか」
「ミムラ君は真面目だね。アリサ社長に似てる。……私もレジーナさんの意見に賛成です! デートですよデート!」
男が一人だけだからなのかミムラは若干の緊張気味の様だ。そして〈冒険者サポートセンター〉の社員でもある。眼鏡をかけているので、頭良いかと思われがちだが、実際はとんでもなく普通だ。
「ヒバリさんにレジーナさんはどうしてそんなに目をキラキラしてるんですか。ミムラは正論をちゃんと言ってます。もっと自信を持って下さい。良いですね? 自信ですっ!」
アリサにガッと言われたミムラは「はいっ!」と思わず頷く。
「それに、レンカさんがこんな時にデートだなんてあり得ません。それに半日は仕事です。さらにあり得ないです。ドン引きしますよ。気遣いに決まってます。……それで、何時大丈夫でしょうか?」
「アリサはそういう事を平気で言うからある意味怖いのよねぇ」
レジーナはそう言いお茶を一口飲む。するとミムラが提案する。
「明日で良いんじゃないですか? 明日なら簡単な依頼しか予約来てませんし。それなら僕でも出来ますので」
アリサは「本当に大丈夫ですか?」と心配そうに訊く。ヒバリとレジーナもミムラの発言に賛成らしい。コクッと頷いている。
レンカに連絡して言うと、「九時に待ち合わせ。広場で」とだけ言ってきられた。三人に言うとレジーナとヒバリは何か企んでそうな顔で、ミムラは真面目ーーとんでもなく真面目ーーに「いってらっしゃい」と言った。アリサは「お休みなさい」と言い二階の自宅に戻って行った。
三人も帰るーーミムラは帰ろうかとしたがヒバリによって阻止されたーーと思ったが帰らず話していた。
「明日、九時に広場らしいわ。私たちは、尾行しましょう!」
「良いですね。レジーナさんっ!」
「ちょっ、ちょっと。本気ですかっ!?」
ミムラは止めようとしたが女性二人の本気の目だったーー火が見えるかもと思ったくらい本気の目だったーー久しぶりのレンカとアリサの「日常」を尾行する事になった。