011 承
「今年も議題は〈初心者狩り〉についてだ」
「〈初心者狩り〉……」
アリサは静かに呟いた。レンカの方をチラリと見てみると、彼は特に表情を変える事はなかった。
「一応全部の街で殲滅作戦みたいな事したのよね」
「えぇ、ですが黒幕はまだ見つかってない様です」
サヤとルシエが七月の事を振り替える。全員話し合いに夢中の隙にアリサはレンカに話しかけた。
「……レンカさん。言わなくても良いんですか?」
「いや。……言った方が良いと思う。その為のコレだから」
レンカはアリサにそう言うと席を立った。アリサ以外の全員の視線がレンカに向けられる。
「黒幕の名前は……「コウタ・リバティ」だ。そして幹部がクルル・ケトラ、マルル・ケトラの姉妹」
「……何で知ってるんだ?」
ソーマが静かに訊く。サヤが「もっと優しく訊けないのかしら」と言うがソーマは聞いてない様だ。
レンカはソーマの問いに答える。
「……会った。でも逃げられた。その前に名乗っていた」
“知り合い”とは言わなかった。アリサはそれで良いんじゃないかと思った。知り合いだと言うことがバレたら、何を言われるかーー主にソーマにーー分からなかったからだ。ソーマはそれ以上は何も訊かなかった。
「だとすると……恐らくシヴィリアにはもういない可能性がありますね」
ルシエが言う。サヤが同意するかの様に「そうね」と言った。
「レンカ、そのコウタって奴の画像とかあるか?」
「ある。……アリサ、みんなに」
「はい。みなさん、この人がコウタさんです」
ヴァンに言われ、レンカに頼まれたアリサはコウタの写真ーーレンカが写ってる写真が多く、唯一見つけたレンカが写ってない写真ーーを見せる。
「この写真を撮った人によると、この頃……約二年と少し前までは新人〈冒険者〉を指導していたそうです」
アリサはレンカから聞いたコウタの昔話を少し変えながらーーレンカが関わった所は伏せたーー話した。
するとヴァンがふと口にする。
「もしかしたら、まだシヴィリアにいるのかもな」
「どういう事? レンカに見つかったのなら街から離れていると思うのだけれど」
サヤがヴァンに訊いた。確かに、とアリサも思った。
「ポイントはコウタが新人を“指導”していた、というところだ。もしかしたら……誰かがいるから、離れたくない。誰かと決着をつけたいから街に留まってる。かもな」
ヴァンはそう真面目に言ったあと、笑顔で「おっさんの戯れ言かもしれないけどな」とも言った。
「……コウタ」
レンカは小さく黒幕である彼の名を呟く。もしもそうだとしたら、彼が何故あんな事をしているのか余計分からなくなる。
ーー現在の時刻は既に十一時を過ぎていた。会議が始まってから一時間半が経過していた。
「そろそろ昼かぁ。お腹減らない?」
「ヴァン。会議中なのにそんな間抜けな事言っちゃ駄目よ」
お腹が空き、時間を気にしだしたヴァンを注意するサヤ。アリサは会議中の彼女の発言から、
(サヤさんはこの〈塔支配者〉達のお姉さんポジションでヴァンさんはきっとお兄さんポジションですかねぇ……)
とつい考えてしまい、アリサは少しほっこりした気持ちになった。
だけど、そんなほっこりした気持ちはすぐに途切れた。レンカがヴァンの発言からかなり悩みだしたからだ。
「お昼休憩にしませんか? お腹空いていたら良い考えを浮かばないと言いますし……」
勇気を振り絞って提案してみると、意外にーーソーマも普通に賛成したからーーみんなに賛成され、しばらく昼休憩になった。
中央ドームに食堂があり、そこで昼食にする事になった。
「アリサ、ちょっといいか?」
食べている最中だったアリサの横の席にレンカが座る。
「……コウタさんの、事ですか?」
「アリサは、どう思うんだ? もしもヴァンの言う通りの理由でまだシヴィリアに残ってるとしたら……」
「恐らく、レンカさんが理由でしょうね」
「俺……なのか?」
「はい。高確率でそうでしょう。コウタさんはレンカさんを一番に信頼しています。それに私も知ってますし、コウタさんも知っていますが。レンカさんであれば友人だろうと敵なら殴ってくれます。全力で戦って、負けるなら、レンカさんが良い。私がコウタさんの立場でもそう思います」
言い終わるとアリサは昼御飯を食べる。中央ドームの食堂には和食や洋食どちらもある。アリサは蕎麦を頼みーー支払いは全員ヴァンの奢りーーレンカは食欲がないのか、小さなミニうどんを頼んだ。
レンカもしばらく考えていたが、さすがに空腹には耐えられず食べ始めた。
ーー約一時間後。午後一時十分。会議が再開された。
「みんな、一つ頼みがある。〈初心者狩り〉の黒幕……コウタの一件を俺とアリサに任せてほしい。アイツは、俺の元パートナーなんだ。頼む」
「いつ知った?」
レンカが言葉を終えた直後、ソーマが訊いてきた。レンカは「約一ヶ月前。アリサもいた」と言った。アリサは頷く。
「お前はそんな元パートナーと戦えるのか?」
他の〈塔支配者〉のみんなもそう思っていただろう疑問をソーマが代表したかの様だ。
「だからです」
レンカが答えようとしていたが、それよりも先にアリサが答えた。
「だから、コウタさんは残っているんです。レンカさんと決着をつける為にっ」
周りは静かだった。ソーマもそれ以上は訊かなかった。
サヤはヴァンの方を向く。ヴァンは席を立ち、〈塔支配者〉のリーダーとして結論を出す。
「〈初心者狩り〉の黒幕、コウタ・リバティ。及び、幹部であるケトラ姉妹の確保、処分はシヴィリア〈塔支配者〉レンカ・クロヴィン。そして現パートナーの〈BSS〉社長アリサ・アルケミス両名に一任する!」
「一任……ですか? それに私が現、パートナー……って」
「事実だろ? 今、コウタ以外にアイツの癖や考えてる事。お前一応わかるだろ」
「えぇ。大体は」
「だからだ。レンカにアリサ。任せたぜ!」
「はい!」
「……任された」
これで今年の議題は終わった。みんな、それぞれの街に帰ろうとした……その時だった。
ドームの外の方から大きな音が聞こえてきた。全方位ではなく、一点に集中している感じだった。すると、現在その大きな音が出ている場所にいるらしいエスナから放送がはいる。
『魔物の大群が現れたわ。数はざっと数百体はいるようね。〈塔支配者〉の方々、出来るだけ至急応援を要請します。私では……全部は無理だと判断致しますので』