010 起
〈イヅチ祭〉から二週間以上経った八月三十一日。朝早くからーー正確に言えば八時三十分辺りーーアリサとレンカは中央ドームに向かっていた。街からドームまでは約三十分の短い道のりだった。毎年この〈五塔会議〉の時は〈塔支配者〉の縛りである「街から出られない」がなくなる。ただし、街から中央ドームの間のみだ。
「久しぶりにココに来ました。相変わらず大きいですねぇ……」
「あぁ。俺も三回目だが何時も驚かされるな」
二人は中央ドームの入り口から上を見上げていた。中央ドームは現実世界で言うサッカースタジアムーーリベール世界ではサッカーみたいなメジャーなスポーツはないーーや、野球場位の大きさだ。リベール世界の人にとってはこの位の大きさはダンジョンくらいなので滅多に見ない大きさの建物にとても驚いていた。
すると、入り口から管理人の「エスナ・カロル」が出てきた。紫の腰まである髪に薄い紫の目ーー少し目付きが悪い感じに見えるーーをしている彼女は、一人でこの中央ドームを管理している。もう三年目で十八歳の強者だ。一人で管理している為かとても動きやすい服装をしている。
「どうぞ。既にヴァンジーク・ローズ様がお越しです」
二人はエスナの後ろについていくと、エスナがぶつぶつとーー本人はそう思っているが、実際は二人に普通に(ガッツリと言っても良いくらい)聞こえていたーー呟いていた。
「まったく、どうしてヴァンジーク様はアリサ様を呼んだのかしら。負けて地位を下ろされた人を、本来〈五塔会議〉の日は〈塔支配者〉以外は入ってはいけないというのに。……私には信じられないわ」
どうやら彼女はかなりの毒舌の持ち主の様だ。恐ろしいオーラがアリサには感じられた。
少し歩くと会議室があった。机が円状に並べてあり、会議室の入り口から一番遠い所に一人男性が座っていた。彼がヴァンジーク・ローズ、フォレストの〈塔支配者〉だ。
「無茶言って来させて悪かったなアリサ」
「手紙の内容を見るには、私に拒否権が無いような感じでしたので」
「いや、ホントに悪いな。レンカも今日はよろしく頼む」
「ああ」
レンカはヴァンの隣ーーと言っても距離は少しあるがーーに、アリサはレンカの隣に座った。そして数分すると他のメンバーも集まってきた。
「あら、もう来てたの。早いわね。……あら、アリサじゃない。久しぶりね」
「はい、お久しぶりです。サヤさん」
ソリビアの〈塔支配者〉「サヤ・クラウズ」
「何でお前がいるんだよ。リッドに負けただろ」
「仕方がないじゃないですか。ヴァンさんに呼ばれたのだから」
ヨツグ達がいる街・フォレストの〈塔支配者〉「ソーマ・フリジッド」
「全員揃いましたね。アリサさん、始めまして。去年〈塔支配者〉になりました。ルシエです」
「よろしくルシエさん。始めまして」
パルテナの〈塔支配者〉「ルシエ・スイレン」
これで全員揃った。ヴァンが話を始める。
「これから〈五塔会議〉を始める。今回はちょっと特例でな。俺の希望でアリサに来てもらった。まぁ、〈冒険者サポートセンター〉社長として来た。と考えれば問題はないだろう。……議題は今回も、〈初心者狩り〉についてだ」