5 最強との対峙
ひさびさの投稿です(´・ω・`)
ついでにタイトルも変えてみました。ちょっと気分一新的な。
第三層東エリアにある魔族ギラスのアジト──。
その攻略戦はあっけなく終わった。
すでに主であるギラスを倒しているため、残っているのは魔族の兵士たちのみ。
当然ながら冥とシエラの敵ではない。
「ひ、ひいっ、勇者だ──」
「ギラス様があっさりやられたらしいぞ!」
「む、無理だーっ!」
ギラスの敗北は兵たちにも伝わっているらしく、冥たちを見たとたんに魔族兵たちはパニック状態になった。
量産機で立ち向かうことすらせず、逃げ去ってしまう。
「さすがに弱腰すぎじゃないかな……」
冥は思わず苦笑した。
ただ戦わずに勝つことができれば、それが一番いい。
エルシオンも燃料などの無駄な消耗をせずにすむ。
──というわけで、冥たちは戦闘することもなく、アジトの最深部までたどり着くことができた。
ギラスのアジトは天然の洞窟を流用しており、目的の紋章が安置されているはずの最深部は巨大なホール状になった場所だ。
「──あれは」
冥たちは足を止めた。
一人の男が、いた。
野生の獅子を連想させる、精悍な顔をした武人だ。
「待っていたぞ、勇者」
「あいつは、確か第二層で──」
冥は思い出す。
名前はアッシュヴァルトと言ったはずだ。
「覚えていてくれたとは光栄だな」
剛毅な顔に笑みを浮かべるアッシュヴァルト。
「我が弟子ギラスを敗った実力、さすがと言っておく。だが私は他の魔族のようにはいかんぞ」
その声がホール全体に響き渡った。
いや声というよりも、まるで野生の獣の咆哮だ。
強烈なプレッシャーが肌を粟立たせる。
「……順調に行きすぎると思ったよ」
冥はため息をついた。
表情がこわばるのを抑えきれない。
「冥、どうしました?」
「勇者さま……?」
怪訝そうなユナとシエラに、冥は硬い表情で告げる。
「あいつは強い。気配で分かるんだ……今までの相手とは違う、って」
「確かに強そうだけど……」
生身での戦闘能力は、以前に見た。
だが、それだけではない。
この男の真価はおそらく──龍王機を駆っての戦闘だろう。
「来い、相棒よ」
アッシュヴァルトがつぶやく。
同時に背後の壁が崩れ落ちた。
その向こうから現れる、巨大なシルエット。
金と黒に塗り分けられた装甲。
三つの顔と六つの腕を持つ、異形の龍王機だ。
「これは世界で唯一の第八世代龍王機──煉獄阿修羅」
アッシュヴァルトが朗々と告げた。
「第八……世代」
冥はごくりと息を飲んだ。
以前にも何度か、最新鋭である第七世代機と戦ったことがある。
旧型機であるエルシオンとの性能差は圧倒的だった。
だが、目の前の龍王機はさらにもう一世代上──。
世界最高峰の、龍王機ということか。
「二対一でも一向に構わんぞ。せめてものハンデだ」
煉獄阿修羅に乗りこんだアッシュヴァルトは、傲然と言い放った。
「さあ、かかってくるがいい──」
ホール内の空気が急速に張り詰めていく。
戦いの前の、独特の緊張感を孕んで。
「シエラ、やろう」
「うーん、二対一か……あんまりそういうの、好みじゃないけど」
「いや、躊躇している場合じゃない」
冥は険しい顔でシエラを促す。
「あいつは、強い」
「……勇者様がそう言うなら」
うなずくシエラ。
「冥、シエラ。気を付けて」
心配そうなユナに、冥は微笑みを返した。
「ユナは巻き添えを食わないように下がっていて」
言って冥はエルシオンに乗りこむ。
その隣にシエラの乗ったサラマンドラが並んだ。
白と赤の機体が、三面六臂の龍王機と対峙した。
「いいぞ、昂ぶってきた」
アッシュヴァルトが喜悦の声をもらす。
「まずは──お前だ」
六つの閃光が、交差した。
「シエラ!」
冥は思わず叫んでいた。
煉獄阿修羅が六本の腕から斬撃を繰り出したのだ。
龍王機の常識を超えた、信じられないほどの超高速で。
「えっ……」
呆けたような、シエラの声。
次の瞬間には、サラマンドラは四肢を切断されて、その場に崩れ落ちていた。
「そ、そんな……!?」
四肢をもがれたサラマンドラの操縦席から、シエラの呆然とした声が聞こえた。
彼女に怪我はなさそうだが、機体が腕も足も失っては、もはや戦闘不能だ。
まさに──一瞬。
「ふん、勇者とともに戦う少女……どれほどのものかと思えば、この程度か」
アッシュヴァルトが鼻を鳴らした。
「私の見立て違いか。勇者よ、お前はもう少し歯ごたえがあるのだろうな? 私を楽しませてくれよ──」