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4 不敗神話

「馬鹿な、なぜ当たらぬ!?」


 魔族ギラスはコクピットの中で叫んだ。


 次第に焦りが募っていく。


 彼は魔界最高の武人と誉れ高いアッシュヴァルトに師事し、数多いる弟子たちの中でも五指に入る腕にまで成長した。

 武術の腕も、龍王機の乗り手としての実力も。


 もちろん、師であるアッシュヴァルトには及ばないが、それでも魔界でトップクラスだと自負している。


 第三層のような低階層を任せられているのが歯がゆいくらいだ。

 自分の今の実力ならば、第五層か第六層辺りに着任してもいいはずなのに。


 そんな折、勇者の一行が第一層と第二層を突破し、ギラスのいる第三層までやって来た。


 チャンスだ、と思った。

 ここで勇者を討てば、自分の名は上がる。


 当然、もっと高階層を任せてもらえるだろうし、尊敬してやまない師匠アッシュヴァルトの名も高まるだろう。


 だからこそ、ギラスは必勝の思いでこの戦いに臨んだ。

 勝てるはずだと信じていた。


 それが──。


「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」


 ギラスの繰り出す攻撃は、かすりさえしない。

 信じられなかった。

 悪夢だった。


「人間ごときにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 絶叫とともに渾身の一撃を繰り出す。

 フルメタルオーガのパワーとスピードを全開にした、まさしく最強最速の一撃である。


 それすらも、易々と避けられた。


 まるでギラスの動きが前もって分かるかのように。

 彼が攻撃態勢に入ったときには、すでにエルシオンは動き始めていたのだ。


「まさか、こいつ俺の動きを全部見切って……!?」


「終わりだ、魔族」


 勇者が凛と告げる。

 エルシオンが一歩踏み出す。


「くっ……!」


 回避動作を取ろうとするものの、オーガは金棒を振り下ろした動作の直後だ。


 いわゆる硬直状態で、次の動作に移るまでのタイムラグが発生していた。

 ──致命的なタイムラグが。


 いや、そのタイムラグを生み出すことさえも、勇者の計算どおりなのだろう。


 一体どこまで自分の行動を読んでいるのか。

 一体どこまでが勇者の思惑だったのか。


 背筋が凍りつくような戦慄を覚える。


「がっ……!?」


 次の瞬間、カウンターで繰り出されたエルシオンの斬撃が、オーガの動力部を切り裂いていた。

 すさまじい衝撃がコクピットを襲い、そして完全に自機が沈黙する。


 もはやレバーを押そうと、ペダルを踏もうと、オーガはぴくりとも動かなかった。


「……俺では、勝てぬか」


 ギラスは嘆声をもらした。


 ここまで手も足も出ないのでは、認めるしかない。


 確かに勇者は強い。

 第一層から第三層まで数々の魔族が挑み、ことごとく返り討ちに遭ったのも、今なら納得できる。


 不敗神話を誇る、勇者の実力──それを垣間見た思いだった。


「くく……ははは……ははははははは……」


 いつしか、ギラスは笑っていた。


 すでにオーガは動力部を破壊されて動けない。

 すべての計器類から光が消えている。


 真っ暗になった操縦席で、ただ笑い続けていた。

 敗北の悔しさと、自分の未熟さを突きつけられた絶望と。


 そして──希望と。


「アッシュヴァルト様なら、勝てる」


 いくら勇者が相手の動きを見切ろうとも、関係ない。

 アッシュヴァルトには『アレ』があるのだから。


「俺では敵わなかったが……あなたならば。信じています、師匠の勝利を──」


 ギラスは、いつまでも哄笑していた。


        ※ ※ ※


「やりましたね、冥」


「やっぱりすごいね、勇者さま」


 冥がエルシオンから降りると、ユナとシエラが笑顔で駆け寄ってきた。

 左右から彼に寄り添う美少女二人にドキッとなる。


 が、冥を挟んでどことなく視線の火花を散らしているような彼女たちには、思わず苦笑してしまった。

 これではまるで彼を取り合っているようだ。


「村を救ってくれて礼を言います。やはりあなたは神の使い」


 巫女の少女が冥に向かって頭を下げた。


「村が無事でよかった。それにこれで、第三層の魔族は四人とも倒せたし」


 と、完全に沈黙したオーガを見据える。


 そう、第三層の東西南北を治める魔族たち全員に勝利することができた。

 後は東エリアの紋章を手に入れれば、この階層を人間の手に取り戻すことができる。


「……冥?」


 ユナが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。


「険しい顔をなされて。どうしたのです?」


「順調すぎる……」


「いいことじゃない」


 と、これはシエラだ。


「それにあたしだって強くなったし。勇者さまは万全のエルシオンで戦ってるんだし。楽勝でも当たり前だよ」


「だといいけど……」


 どうにも嫌な予感がぬぐえなかった。


 もちろん、先ほど洞窟で目にした壁画のこともある。

 だが、それだけではない。


 本当に危険な相手は、まだこれから現れるのではないか──。

 冥の勘が、そう告げていた。

更新再開以来、ちょこちょことブクマやポイントが増えているようです。ありがとうございます(´Д⊂ヽ ぼちぼち続けていきますので、お気に召しましたら引き続きよろしくお願いします~!

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