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2 預言の壁画

 ──手始めに南エリアを奪還した冥たちは、続いて北を、南を、それぞれ守る魔族たちをあっさりと打ち倒した。


 第一層や第二層であれだけ苦戦したのが嘘のようだ。

 それだけシエラの成長が大きかったのだろう。


「あとは東エリアだけか」


「順調だね」


 冥とシエラは顔を見合わせて笑う。


 一行は現在、最後のエリアである東エリアへと向かっていた。

 そこを守るのは、第三層の筆頭魔族であるギラス。


 他の三エリアよりは強敵だという情報だが、しょせんは今の冥たちの敵ではなさそうだ。




「今日はこの村で休息を取りましょう」


 東エリアを進む途中、ユナが言った。


 目指す魔族の居城まではあと一日足らずの行程だ。

 村人たちも、すでに冥たちの噂は聞いているらしく、歓迎してくれた。


 例によって、冥とシエラは神様の使い扱いだ。


「預言の通りですね。ようこそいらっしゃいました」


 と、村の巫女だという少女が言った。


「預言……?」


「神様の使いがこの世界を解放する。使いは残る五つの世界も解放し、最後に世界の根源と立ち向かう──」


 謳うように告げる巫女。


「世界の……根源?」


 何の話だろう、と冥は首をかしげた。


 自分たちの最終目標は言うまでもなく、魔王を討つことだ。

 そして魔族に支配された八つの階層すべてを取り戻し、クレスティアに平和をもたらすこと。


 だが──まるで、その後にまだ戦いが残っているかのような預言は気になった。


「こちらへどうぞ。神の使いを描いた壁画があります。あなたたちに見てもらったほうがいいかもしれません」


 巫女の少女に案内され、冥たちは村はずれの洞窟に入る。


「世界の根源……ユナは何か知ってる?」


 暗い洞窟を進みながら、冥がたずねた。


「いえ、私も初めて聞く話です」


 と、ユナが首を振った。


「でもなんだか強そうな感じだよね。いかにもラスボスって雰囲気で」


 シエラはあっけらかんとしていた。


「強敵などいないに越したことはありません。ただでさえ、魔王という強敵が最後には控えているのですよ」


「今のあたしと勇者さまならへーきへーき。絶対勝てるよ。ね、勇者さま?」


 微笑むシエラに、冥はつられてうなずく。


「まあ、よほどの相手じゃなければ今は確実に勝てるっていう手ごたえはあるけど──」


 嫌な予感がする。

 この感じは以前にも一度味わったことがある。


 そう、あれは確か──第一層でのこと。



 龍王機に乗って対峙する冥とユナ──。

 二人はともに憎しみや怒りをぶつけあい、階層世界のはるか上空で戦っている──。



 そんな光景を幻視したのだ。

「……冥?」


「あ、ううん。なんでもない」


 不審げなユナに、冥は慌てて手を振った。


 彼女と戦うなど、あり得ない。

 三年前と、そして今も。

 ともに旅の仲間として、もっとも信頼する相手として、傍にいてくれるこの少女と──。


「これが壁画です」


 洞窟の行き止まりで、巫女が告げた。


「これは──」


 冥たちはいっせいに息を呑む。


 翼を備えた、白い騎士。

 そして同じく翼を備えた、黄金の騎士。


 騎士たちは龍王機を連想させるデザインだった。

 その二体が、空の上で剣を交えているのだ。


 まるで、仇敵同士のように。


「エルシオンに似ています……」


「もう一体はディーヴァかな……?」


 つぶやくユナとシエラに、冥はギクリとした。


 ちなみにディーヴァとは、もともと勇者専用に用意されていた最新鋭の龍王機だ。

 本来なら冥が乗るはずだったのだが、第一層の魔族メリーベルに強襲され、彼が乗りこむ前に破壊されてしまった。


 現在も修理を進めているものの、希少な材料を使っていることもあり、遅々として作業がはかどっていないそうだ。


 ともあれ、今は壁画のことだった。


 幻視した光景と同じだ。

 エルシオンに乗った冥と、ディーヴァに乗ったユナ。


 二人が激しい戦いを繰り広げていた、あの光景と。


「先ほどから私を何度も見ていますが、どうしたのですか?」


「……もしかして姫さまに恋しちゃってるとか」


 シエラがぽつりとつぶやく。


「え、恋?」


「やっぱりそうなんだ……うう、さっきから姫さまを……ユナちゃんを見つめすぎだもん」


 がくりとその場に崩れ落ちるシエラ。


「あ、あのー……?」


 急な態度の変化に冥はついていけない。


「そりゃ、ユナちゃんは美人だけど、あたしはユナちゃんに比べたら全然可愛くないんだろうけど……うう、やっぱりあたしじゃ勝てないよう……」


「シエラ、落ちこまないでください」


 ユナが彼女の傍にしゃがみこんだ。


「冥は別にそのような意図があるわけではないと思いますよ」


「そうそう、誤解だよ。そんなつもりでユナを見ていたわけじゃないから、全然ちっともまったくっ」


 冥も慌ててフォローを入れた。


「全然ちっともまったく……?」


 今度はユナが冷ややかな目をする。

 なまじ美少女なだけに、こういう顔をすると迫力満点だ。


「そこまで思いっきり否定されると、私も傷つくのですが」


「あ、ごめん……」


 思わずたじたじとなる冥。


「……初めての口づけを捧げたのに」


 ぽつり、と小さな声でつぶやいた。

 冥にだけ聞こえるような、本当に小さな声で。


 第一層を解放したとき、ユナと交わしたキスのことを思い出す。

 冥にとっても、ユナにとってもファーストキスになった、甘美な口づけのことを──。


「い、いや、ユナに恋してないってわけじゃなくて、つまり、その……」


「結局どっちなの、勇者さま」


 シエラが拗ねたように口を尖らせる。


 洞窟を激しい震動が襲ったのは、そのときだった。

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