7 伝えたい想い
戦いが終わり、その数時間後──。
静かな森の中で、冥はシエラと向き合っていた。
彼女から呼び出されたのだ。
ちなみに、ユナは少し離れた場所で待っている。
「ねえ、勇者さま。約束通り、お話するね。あたしの気持ち──」
シエラが冥を見つめる。
戦いの前に、彼女は『勇者さまに伝えたいことがある』と言っていた。
一体なんだろう、あらたまって──。
怪訝に思いながら、冥は彼女を見つめ直した。
「えへへ、やっぱり照れくさいなー」
「シエラ……?」
頭をかきながら照れ笑いを浮かべる彼女を、冥はますます怪訝な思いを抱く。
伝えたいことというのは、いったいなんだろうか。
「あのっ」
「う、うん」
「えっとっ」
「あ、ああ」
「きゃぁぁぁぁっ、やっぱり恥ずかしいっ!」
いざとなると中々踏ん切りがつかないらしく、シエラは真っ赤な顔で身もだえしていた。
そんなところがまた可愛らしい。
なんだか微笑ましくなって、冥は口元を緩めてしまう。
と、
「勇者さま、あたしっ……!」
いきなりシエラがしがみついてきた。
しなやかで、けれど出るべきところはちゃんと出ている女らしい体が冥の体に密着している。
彼女に抱きしめられたまま、冥は驚いて立ち尽くした。
さらに、
「ん、うぅっ!?」
気がついたときには、シエラに唇を奪われていた。
突然の口づけに冥は目を白黒とさせる。
ユナとコーデリアに続き、人生で三人目の女性とのキス──。
蕩けるようなシエラの唇の感触に、胸の中が甘く疼いた。
さらに、ギュウッとしがみついてきた彼女の、豊かな胸が彼の胸板に押しつけられている。
その密着感にもドギマギとしてしまう。
「ふうっ」
長く、ぎこちないキスを終えて、シエラは深い息を吐き出した。
「ご、ごめんなさい……言葉で、上手く言えなくて……つい」
恥ずかしそうにつぶやくシエラ。
その顔は、今にも火を噴きそうなくらいに赤い。
もっとも、たぶん冥も鏡で見れば同じような顔をしていることだろう。
キスの余韻が、心臓の鼓動を痛いほどに速めている。
「いつも勇者さまの傍にいるユナちゃんが羨ましくて……」
シエラは震える声で告げた。
「勇者さまにいきなりキスしたコーデリアにヤキモチを焼いたりもして……」
「シエラ……?」
「それで気づいたの。あたし、自分の気持ちに」
はにかむんだ笑顔で、シエラ。
「ううん、本当は最初から気づいていたのかも。でも、あたし──こんな気持ち、初めてで。認めるのが少し怖くて」
シエラの独白──いや、告白が続く。
「だから、コーデリアとの戦いに勝てば、その気持ちを認める勇気が湧くんじゃないかな、ってなんとなく思ったの」
恋心の機微には疎い冥にも、はっきりと伝わる純粋な想いだった。
「僕は──」
シエラのことをどう思っているんだろう。
初めてのキスまで捧げてくれた少女に対し、いい加減な返事はできない。
「あ、今はいいの」
だが冥がそれ以上の言葉を継ぐ前に、シエラは慌てたように手を振った。
「ユナちゃんに抜け駆けする気はないから。だけど、いつか──」
二人が戻ると、ユナが険しい表情で待っていた。
「……話は終わったようですね」
ユナはますます険しい顔でシエラを見据える。
なまじ美少女だけに、こういう顔をすると迫力がすさまじい。
「私も、負けませんから」
「あたしだって」
シエラはにっこりとした笑顔で応じる。
「ライバル、だね」
「そうですね」
ユナの表情から険がやわらぎ、微笑みが浮かんだ。
二人の美少女が同時に冥を見つめる。
「え、えーっと……」
「いつか答えを聞かせてくださいね、冥」
ユナが先ほどのシエラと同じような言葉を告げる。
二人とも、想いは同じということか。
別に打ち合わせをしたわけでもなく、自然と一致した意志なんだろう。
そんなユナにシエラが笑みを深くする。
「どっちが勝っても恨みっこなしだからね、ユナちゃん」
「ユナ、シエラ」
冥は真剣な表情で二人に向かってうなずいた。
今はまだ答えを出せない。
すべてはクレスティアに平和を取り戻した後のことだ。
だから、今は。
「──行こう、次のエリアに」
まだまだ先行きは、前途多難だ。
戦いも、少女たちへの想いの行方も。
冥は戦い続ける。
大切な──今は愛おしささえ感じる、二人の少女とともに。
俺たちの戦いはこれからだ! エンドで恐縮です。
第八層まで書きたかったのですが、ぶっちゃけ力尽きました(´・ω・`)
今まで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
……気が向いたら続きを書くかも、書かないかも。
17.2.19追記:不定期更新でちょこちょこ続きを追加するかも……とりあえず完結設定外しました(´・ω・`)