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4 龍の瞳、炎の瞳

「思い出すんだ、勇者さまに教わったことを──」


 シエラは自分自身に言い聞かせていた。


 明け方近くまで、冥から受けた特訓をもう一度思い起こす。


 なぜ彼が強いのか?

 なぜ魔族の最新鋭機を相手に、性能で圧倒的に劣る旧型機体で勝ち続けることができるのか?


 それは、冥が身に着けている究極ともいえる先読み能力──『龍心眼(ドラグーンアイ)』にある。

 未来を見通せるといっても過言ではない精度で、彼は相手の動きを見切る。


 攻撃を。

 防御を。

 斬撃を。

 砲撃を。


 そしてそのすべてを防ぎ、避け、相手の隙に致命の一撃を与えることができる。


 ゆえに、竜ヶ崎冥とエルシオンは無双にして無敵。


 シエラが冥から教わったのは、この龍心眼(ドラグーンアイ)だった。

 とはいえ、一朝一夕に身につくような技法ではない。


 冥の説明によれば、彼が元いた世界にはロボット格闘ゲームというものがあるらしい。

 機体も、操縦方法も、龍王機に酷似したものを駆使して、相手と戦うゲームだ。


 冥はそのゲームの王者だった。


 ゲームの中で数限りなく対戦を繰り返してきた彼は、いわば龍王機の戦いを疑似的に何千何万と経験しているようなもの。

 信じられないほどの膨大な戦闘数だった。


 そして、その経験こそが、龍心眼の予測ベースになっている。

 だから、同じ真似をシエラが実行するのは不可能だ。


 冥とは経験が圧倒的に違うのだから。


「やっぱり、だめなの……? あたしには」


 モニターを見据えながら、彼女は唇を噛みしめた。

 相手の動きを予測しようとしても、コーデリアの動きは予想外のタイミングで、角度で、放たれる。


 一撃、また一撃と攻撃を受け、サラマンドラの機体が激しく揺れる。

 装甲のあちこちが破壊され、フレームが軋み、駆動系が悲鳴を上げる。


「あたしには、勇者さまと同じことはできない」


 イカロスの砲がまた一発、サラマンドラをかすめた。

 すでに全身の装甲はあちこちが焼け焦げ、黒煙を上げている。


 サブモニターに表示された機体の状態図は、両手両足を始め、各部に警告表示が並んでいた。

 文字通りの満身創痍だ。


「あたしは、勇者さまにはなれない──」


 悔しさと無力感が、シエラを苛む。

 レバーを握る手が震える。

 と、


「予定変更して、あなたから殺そうかな? 私を差し置いて冥くんの初めてを横取りした報いを、受けさせてあげる──」


 イカロスの砲がユナに狙いをつけているのが、見えた。


「やめてぇっ!」


 無我夢中で、シエラは愛機を加速させる。


 勝算なんてない。

 彼女には冥と同じ戦法を使うのは不可能だ。


 だけど、それでも守りたいものがある。

 勝ちたい相手がいる。


「だから──あたしは、あたしにできることを」


 フットペダルを踏みこみ、満身創痍の愛機をさらに加速させた。


 内部フレームのあちこちが軋む。

 下手をすれば空中分解するほどの、高速機動。


 それでもシエラは躊躇なくペダルを踏む。


「まだ動けるというの!?」


 コーデリアの驚いたような声が聞こえた。


 イカロスの翼の付け根に備えられた砲が、こちらを向く。

 刹那、シエラの中で何かが弾けた。


 砲口が輝く。

 砲弾が放たれる。


 サラマンドラがそれを避けるために身を屈めたのは、彼女の思考とほぼ等速だった。


「──えっ!?」


 戸惑うコーデリアの声。

 砲弾を避けたサラマンドラは、そのまま低い体勢からのタックルでイカロスを吹き飛ばす。


「ちいっ、今のをかわした──!?」


 舌打ち混じりに、コーデリアは自機を飛翔させる。


「勇者さまも、ユナちゃんもやらせない!」


 空中のイカロスに向かって、シエラが凛として叫んだ。


 どくん、と心臓の鼓動が異様に速まるのを感じる。

 今までとは違う何かが、自分の中で目覚めているのを感じる。


 きっとそれは冥との訓練で芽生え、ユナの危機を見て、覚醒したもの。

 シエラの、真の力。

 今まではセンスだけで行っていたそれを、今は方法論としてはっきりと自覚し始めた証──。


「皆は、あたしが守るんだから!」




「今の動きは──」


 冥は呆然とシエラの戦いぶりを見つめていた。


 ほんの少し前までは、なすすべもなくコーデリアにいたぶられていた彼女が。

 突然、見違えるような機動で砲撃を避け、イカロスに逆襲を始めたのだ。


 偶然なのか、あるいは──。


「ちいっ、これなら!」


 イカロスが砲撃の雨を降らせる。

 だが、サラマンドラは全身にダメージを負っているとは思えないほど滑らかな動きで、上空から放たれる火線を次々とかわしていった。


「すごい……まるで冥のエルシオンを見ているようです」


「確かに、今までと動きが違う」


「まさか、シエラは会得したのですか。あなたの龍心眼を」


「──いや、違う」


 冥の動きによく似ているが、厳密には違う。


 彼の場合は、龍王機の挙動に酷似したゲームで遊んでいた莫大な経験値が、先読みの予測に活かされている。

 しかし、それは現代世界の住人である冥だからこそ可能な戦法だ。


 この世界の誰も、同じ真似はできない。


「だからシエラは違う方法を選んだんだ……」


 冥をはるかに凌ぐ動体視力と反射神経、そして野生の勘を持つシエラならではの戦法。

 経験値の不足をそれらで補うことにより、本家の冥には及ばないが、限りなく近い精度で相手の動きの先を読む。


「僕とは違う、もう一つの──」


 疑似的に再現した龍心眼。


 いわばシエラだけの──烈炎龍心眼ドラグーンアイ・オルタナティブ

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