9 戦士たちの決意
バタバタして少し間が空いてしまいましたが続きです。
年末はなんだかんだ忙しいですね^^;
エルシオンは無残な姿をさらしていた。
右腕は肩のところから吹き飛び、右足も膝から下が千切れ飛んでいる。
胴体部は亀裂だらけだし、頭部も半分がた吹き飛んでいた。
夕日に照らされた装甲はオレンジ色に染まり、どことなく哀愁を漂わせる。
「ごめんよ、エルシオン……」
冥は沈痛な面持ちで愛機に頭を下げた。
彼が乗りこんだとき、すでにエルシオンは片腕と片足を失った状態だった。
さらにコーデリアとの激戦で無茶な制動を繰り返したため、内部の駆動系もあちこちが駄目になっている。
まさしく満身創痍──。
いや、それすらも通り越して、スクラップ一歩手前という状態だ。
「修理には最低でも一週間。下手をすれば二週間以上はかかるな」
整備長のバラックが仏頂面でうめいた。
「人間でいえば、命があったのが不思議なくらいの重傷だ」
「一週間……」
目の前が暗くなるような宣告だった。
「コーデリアは明日にはまた来るはずです。どうにか間に合わせることはできませんか」
「明日だと!? 無茶言うな」
バラックはますます顔をしかめた。
「俺たちは職人だ。中途半端な仕事はできねぇ。第一、仮に明日に間に合わせたとして、そんな半端な整備の機体で立ち向かえるような相手なのかよ」
「それは──」
冥は言葉を詰まらせる。
コーデリア・エフィルは天才的な乗り手だ。
魔弾の射手の異名は伊達ではない。
完全な状態のエルシオンに乗った冥ならば、銃撃の軌道を先読みして対抗することも可能だろう。
だが、まともに動かない愛機で立ち向かう自信はなかった。
愛機の元から離れた冥は、その足でユナのところまで報告に行った。
彼女は巨大なトレーラーの傍で忙しそうに指示を出していた。
このトレーラーは龍王機の輸送車であり連合の移動司令室も兼ねた車両だ。
ユナの傍にはシエラやルイーズ、そして数人の兵士がいる。
「冥、どうでした? エルシオンの状態は」
たずねる彼女に、冥は首を左右に振った。
「修理に三日はかかるって。迎撃には間に合わない」
「そうですか……」
きっとその答えを予想していたのだろう。
ユナは表情一つ変えず、ただうなずいただけだった。
「サラマンドラのほうは?」
「あと一日もあれば整備は終わるんだって」
シエラがにっこりと説明した。
こんな局面でも、彼女は明るい。
それこそが彼女の強さなのだろう、と冥は思う。
「じゃあ、僕にサラマンドラを貸してくれないか」
「えっ、勇者さま?」
驚いたようなシエラに、冥が告げる。
「僕がサラマンドラに乗って──コーデリアと戦う」
言いながら、声が震えてしまう。
いや、声だけではない。
腕が、足が、全身が──。
震えて、止まらない。
自分でも情けなかった。
──そう、戦うのだ。
さっきは彼女を『止める』ためにエルシオンに乗った。
だが、次はそうはいかない。
かつての仲間であり、今は敵になってしまった少女と戦わなければならない。
命のやり取りを、しなければならない。
(コーデリア……)
初めて会ったときの、はにかんだ笑顔を思い出す。
異性と話すことすら照れくさく、いつも冥から逃げていたコーデリア。
少しずつ打ち解け、やがてかけがえのない戦友としてともに幾多の戦場を潜り抜けてきた同志。
だが、そのコーデリアはもういない。
(いや、あるいは──)
今のコーデリアこそが彼女の本当の姿なのかもしれない。
冥が知っていた彼女は、ただの幻想だったのかもしれない。
(それでも立ち向かわくちゃ)
コーデリアは冥も、仲間たちも、全員殺すつもりだ。
狂気に彩られたあの瞳には、それを確信させるだけの凄みがあった。
(僕が、戦わなきゃ──)
「その様子じゃ無理だよ」
シエラが首を振る。
「でも、僕は──」
抗弁しようとした冥の手を、シエラがそっと握る。
柔らかくて、温かな手。
そのぬくもりが、動揺した心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「シエラ……?」
「勇者さまは戦えるような精神状態じゃないでしょ。それに慣れてないサラマンドラで、どこまで戦えるかは分からない。だから」
シエラがまっすぐに冥を見つめる。
ユナを、ルイーズを、連合の兵士たちや整備班を見つめる。
「コーデリアとは、あたしが戦う」