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5 勇者の実力

「な、なぜ旧型のくせに……こんなに速く動けるのデスかっ……!?」


 魔族マシウスは驚愕の声を上げた。


 空中から放った銃撃のすべてを、エルシオンはやすやすと避けていく。


 弾幕が密集している場所からはスラスターを全開にしての高速移動で離脱し、弾幕が薄い場所へと。

 そこの弾幕を厚くすると、また別の手薄な場所へと再移動。


 それでも避けきれない銃弾は両手の剣で弾き飛ばし、機体への着弾はゼロ。


 攻撃の軌道もタイミングも、すべて予測されているのだ。


 いや、予測などという生易しいものではない。


 まるで予知だった。

 勇者には、未来が見えている。


 こちらの攻撃など、当たるはずがない。


「で、ですが、ワタクシの機体は空中にいマス。アナタの攻撃は届きませ──ひいっ!?」


 突然エルシオンが反転したかと思うと、右手に持った剣をこちらへ投げつけた。


 完全に虚を突かれたマシウスは反応が遅れる。

 慌ててホバーマシンを上昇させ、剣を避けようとした。


 ──が、間に合わない。


 ガシィッ、と装甲が破壊される嫌な音が響き、愛機の左足が膝下から切断された。


「くっ……!」


 サーフボード状のホバーマシンから転げ落ちそうになり、マシウスは必死で挙動を立て直した。


 ボードに愛機の両手をつかせる。

 四つん這いのような情けない格好で、どうにかホバーマシンにしがみついた。


 こちらのアドバンテージは、相手の数倍の火力。

 そして相手からは攻撃できない、空中という絶対安全圏にいることだ。


 だが、いくら火力があっても当たらなければ意味がない。

 しかもホバーマシンから地面に落ちれば、空中というアドバンテージまで失うことになる。


 圧倒的に有利なはずの自分が、まったく優位に立つことなく押されている──。

 戦慄でマシウスの全身に汗がにじんだ。


 と、


「──エルシオンがいない!?」


 モニターに視線を戻したマシウスは、ふたたび驚愕した。


 急いで画像を切り替え、ズームにする。

 白い機影が一直線に近づいていた。


 一瞬──ほんの一瞬目を離した隙に、エルシオンは跳んでいたのだ。


 地面を蹴って大ジャンプ。

 さらに全開にしたスラスターから青白い炎を吐き出しながら、猛スピードで迫る。


 最初からモニターを注視していれば、苦もなく対応できる攻撃だ。

 相手がジャンプした瞬間に、ホバーマシンを上昇させればエルシオンは追ってこられない。


 だが、マシウスの意識がモニターから一瞬逸れたことで、反応が遅れてしまった。


 もはやホバーを上昇させても、間に合わない。

 相手の攻撃が、こちらへ到達するほうが速い──。


「すべて……計算ずくだったというのデスか……」


 頬をぬるい汗が伝った。


 砲撃をひたすら避け続け、こちらの油断を誘ったことも。

 虚を突いて剣を投げつけ、体勢を崩したことも。


 そして意識が一瞬モニターから逸れた隙に跳び上がり、攻撃を仕掛けてきたことまでも──。


 なぜこうなったのか、わけが分からない。

 圧倒的に勝る戦力で勇者に攻撃を仕掛けたつもりが、気がつけば立場は逆転し、一方的に追い詰められている。


「化け物……デスか、アナタは……」


 マシウスは恐怖とともにうめいた。


 今まで幾多の魔族が、性能で劣るエルシオンにことごとく敗れてきた理由が分かった気がした。


 ──勝てない。


 あの勇者は、自分とは根本的に違う。


 ──勝てるはずが、ない。


 闘志が折れた瞬間、モニターに黄金の光が閃く。

 同時にコクピットを激しい衝撃が襲う。


 すれ違いざまの斬撃が、テンペストの胴体を両断していた。


        ※ ※ ※


「お疲れさまでした、冥」


 エルシオンから降りると、ユナが真っ先に駆け寄ってきた。


「すごい、勇者さま。圧勝だったね♪」


 と、シエラもやってくる。


 着替えている暇がなかったせいで、二人とも水着姿だ。


「とんだオフになっちゃったけどね」


 苦笑する冥。


「これで第二層の魔族は三人撃破。あと一人を倒せば、この階層も解放できます」


 ユナが微笑む。


「第一層に比べると、ホント順調だよね~」


「やはり連合のエースである先輩のお力ですね」


 しみじみとつぶやくシエラに、ルイーズが笑う。


「第一層は途中まで勇者……いえ、誰かさんの龍王機しかなかったせいで、苦戦続きでしたし。それが第二層に入った途端、この楽勝ペース。やはり先輩のお力あってこそです」


「今、確実に勇者って言ったよね」


「あら、誰かさんとしか言ってませんよ。勇者さまが弱いなんて、一言も」


 ジト目で冥を見るルイーズ。

 あいかわらず彼に対しては辛らつだ。


「そもそも、その条件にあてはまるの、僕しかいないんだけど……」


 冥は少しだけ憮然となりつつ、


「あれ? コーデリアは?」


 と、周囲を見渡した。


 先ほどまでユナたちと一緒にいたはずのコーデリアの姿が見当たらない。

 まさか、流れ弾にでも巻きこまれたのだろうか。


「コーデリア……?」


 心配になって駆けだそうとした刹那、腹の底を揺るがすような爆音が響き渡った。


「えっ……!?」


 呆然と背後を振り返る。


 視界に映ったのは、炎に包まれる白い愛機。


「そんな!」


 エルシオンが砲撃を受けていた。


「敵は倒したのに──」


 驚いて叫ぶ冥。


 爆音がふたたび響いた。

 砲撃で胴体部の装甲を砕かれ、右足を吹き飛ばされ、エルシオンが崩れ落ちる。


 ゆらめく炎の向こう側にたたずんでいるのは──。


 巨大な鳥を思わせるシルエットだ。


「ごめんね、冥くん。これが私の結論なの」


 バスターイカロスからコーデリアの切なげな声が響く。


「あなたを殺して──永遠に、私だけのものにする」

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   ※   ※   ※

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