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6 旧型VS最新鋭機

「くくく……あーはっはっは!」


 メリーベルがふいに大笑いした。あからさまな嘲笑だ。


「かつての大戦ならともかく、第四世代機のエルシオンなど今や型遅れの骨董品。スクラップ未満の鉄屑ではないか。そんなもので、第六世代機である最新鋭のセイレーンに立ち向かおうとは──舐められたものだ」


「舐めてなんていない」


 冥はモニター越しに銀の機体をにらみつけた。


「ほう……?」


 メリーベルの笑みが止まる。


「エルシオンは鉄屑なんかじゃない」


 冥にとってエルシオンは前の大戦をともに戦い抜いた相棒だ。

 その相棒を馬鹿にされるのは、不快だった。


「勝負は、やってみなきゃ分からない」


「分かるさ」


 刹那、セイレーンの姿が消えた。


「──!?」


 否──側面から回り込んだのだ。


「ちいっ」


 冥は舌打ち混じりにエルシオンを旋回させた。

 背中から黄金の剣を抜き、セイレーンの剣を受け止める。


 腹の底にまで響くような重い金属音。


 エルシオンはあっけなく吹っ飛ばされる。


 反応が遅れたわけではない。

 防御の体勢が不十分だったわけでもない。


 単純に──パワーが違いすぎるのだ。


「なんだ、それは? 防御のつもりか」


 セイレーンがさらに斬撃を繰り出す。

 ふたたび黄金の剣で受けるエルシオン。


 今度は正面から受ける愚を犯さず、受け流すようにして、相手の斬撃の方向を逸らす。


 ──が、結果は大して変わらなかった。


 敵機が跳ね上げるようにして放った次の斬撃で、またしても軽々と吹き飛ばされてしまう。


「やはり、ぬるいな」


 メリーベルが嘲笑する。


「第四世代機と第六世代機──比較するのも馬鹿馬鹿しいほどの性能差もわきまえずに立ち向かおうなど! 甘いという言葉ですらぬるいわ!」


 セイレーンが繰り出す嵐のような連続斬撃。


 エルシオンは剣でそれらを弾き、いなし、逸らし──。


「くうっ……」


 だが、パワーの差が大きすぎる。とても受け切れない。


 冥はたまらず大きく後退した。


「距離を取る気か? させんぞっ」


 メリーベルは容赦しない。


 セイレーンが背部のバーニアを噴射して突進。

 エルシオンが下がるよりも早く間合いを詰め、ふたたび強烈な連撃を見舞う。


 ガキィッ!


 避けきれない一撃を受けて、エルシオンの胸部装甲が大きく切り裂かれた。




 似ている──。


 三年前、エルシオンの操縦席に初めて座ったときの感想だ。


『デュエルブレイク』。


 当時、大流行していたロボットアクション格闘ゲーム。

 戦闘ロボットの操縦席を模した筐体の中に入り、画面上の自機を操って戦うゲームである。


 その筐体と龍王機の操縦席は驚くほどよく似ていた。


 ゲームと同じ感覚で動かせるロボット。


 冥にとっての龍王機はそういう存在だった。


 だから、初めてエルシオンに乗ったときから、違和感なく操縦することができた。


 龍王機は魔力──すなわち『物事をイメージする力』によって、その性能が大きく左右される。


 冥はゲームを操作するときのイメージそのままに、エルシオンを操り、戦った。


 まるで水を得た魚だった。


 冥はエルシオンの力を存分に引き出し、発揮し、快進撃を続けた。


 魔王軍の並み居る強敵を次々と退け、征服された第一層から第八層までをまたたく間に奪い返した。


 無敵にして無敗、無双。


 それが冥にとってのエルシオンだ。


 かつての戦いでも。


 そして今も──。




 胸元を大きく切り裂かれ、白い装甲の破片をまき散らしながら、エルシオンが地面に倒れた。


「もうやめてください! いくらなんでも無茶です!」


 ユナの悲痛な叫び声が聞こえる。


「エルシオンはもはや時代遅れの旧型。敵うはずがありません!」


「無茶でもなんでも──」


 うめく冥。


「やらなきゃやられる。守れない。誰も」


「勇者さま……」


「戦えるのは僕だけだ。だから僕が──みんなを守る」


 再開される龍王機同士の戦い。


 だが戦況が圧倒的に不利なのは変わらない。


(駄目か。やっぱり、性能が根本的に違う)


 攻撃の方向もフェイントも冥にはすべてが見えている。予測できる。


 だが、機体の反応速度が追いつかなかった。


 操縦桿を引いても、フットレバーを踏み込んでも、エルシオンの動きがワンテンポ、ツーテンポ遅れる。


 その間に敵の攻撃を食らってしまう。


 現実の世界に例えるなら、さながらF1マシンと乗用車でレースをするようなものだ。


「これだけの差を見せつけられてもまだ諦めないか」


「当たり前だ」


 冥の闘志は衰えない。


「最後まで勇者として戦うと? ふん、健気なものだな」


 ふいにセイレーンが後退した。


「だが愚かだ」


 剣を地面に突き立て、腰だめの構えを取る。


(武器を手放した? 何をする気だ──)


 訝る冥に応えるように、セイレーンの胸部装甲がガシャンと音を立てて、左右にスライドした。

 剥き出しになった内部には、巨大な穴があった。


 いや、単なる穴ではない。


 それは砲口──。


「光栄に思うがいい。お前の健気さに応えて特別に見せてやろう。我がセイレーンの奥の手──『歌姫の旋律砲(ハウリングバースト)』」


 砲口が赤い輝きを宿した。


 敵機の周囲が陽炎のように揺らめいた。すさまじいエネルギーが砲口に収束しているのだ。


(ま、まずい……!)


 避けられるタイミングではない。


「過去の栄光とともに消えろ、エルシオン! そして勇者よ!」


 メリーベルの哄笑とともに、セイレーンからエネルギー弾が放たれる。


 赤く輝く光芒は一瞬にしてエルシオンを飲み込み、大爆発を巻き起こした。

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