表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/117

11 旅立ち ~第一層編エピローグ~

 天空から無数の光が雨となって降り注いだ。


 大いなる紋章による浄化の光だ。

 黒い鎧をまとった魔界の兵士たちは、その光に包まれ──。


「あ、あれ……?」


「俺、今まで何を……?」


「ど、どうなってるんだ、これ……?」


 元の、善良な人間の姿へと戻っていく。


 森林地帯の西エリアも。

 砂漠地帯の南エリアも。

 氷雪地帯の北エリアも。

 海洋地帯の東エリアも。


 第一層に住まう人々は魔王の侵略により魔族へと堕とされ、今また元の人間の姿と心を取り戻した。


 魔族から人間に戻ることができた人々の歓喜の声は、大きなうねりとなって第一層全土へ広がっていく──。


        ※ ※ ※


「ふうっ」


 ユナが大きく息を吐き出す。

「大丈夫、ユナ?」


 ふらついた体を、冥が横から支えた。


「さすがに第一層全体に紋章の力を行き渡らせるのは、疲れました」


 心なしか、青ざめた顔だ。

 かなりの魔力を消耗したのだろう。


「魔族に変えられた人たちは、これで元に戻るのかな……」


「手ごたえはありました。だから、きっと」


 ユナが微笑む。


 ふいに、声が聞こえた。


 笑い声のような。

 うなり声のような。

 泣き声のような。


 それらが混じり合った──これらは歓喜の声だ。


「……上手くいったみたいだね」


「やっと一歩前進です」


 冥の言葉にユナがにっこりとうなずいた。

 それから冥の胸に顔を埋めて、ギュッと抱きつく。


「ユナ……?」


「あのときみたいですね」


 思い出したように笑うユナ。


「十年前、先代の魔王ヴァルザーガと対峙したときも……こうして冥にしがみついていました。魔王が怖くて、恐ろしくて、でもこうしていると安心できました」


「エルシオンの操縦席に一緒に乗って戦ったよね」


 冥がにっこりとうなずく。


 あのときは彼の半分ほどの背丈しかなかった幼女が、今は胸に顔を埋めるくらいの身長にまで成長していた。


「私、あのときからずっと勇者さまを待っていました。再会できたら絶対に花嫁にしてもらうんだ、って」


 ユナが顔を上げてこちらを見上げていた。


 潤んだ瞳がまっすぐに冥を見つめている。

 熱っぽい吐息は、背筋がぞくりとするほど甘い。


「よかった……あなたが、魔王でなくて。十年間ずっと恋していた人と、またこうして旅ができるなんて──」


 震える桜色の唇はかすかに濡れて、やけに色っぽい。


「ユナ──」


 吸い寄せられるように、冥とユナは唇を触れあわせた。


 頭上には紋章の光がきらめき、二人を祝福するように照らしている。




 冥たちは第一層の辺縁にいた。


 眼前には巨大な大陸が浮いている。


 この第一層の上層に位置する第二層。

 全部で八つあるクレスティアの階層大陸の一つ。


 そう、冥たちはまだ八つの層の内の最下層を取り戻したに過ぎないのだ。


(あと七つ──必ず魔王の手から世界を取り戻す)


 冥は決意を新たにする。


 背後から大歓声が上がった。


 大勢の民衆が見送りに来ている。

 紋章の力によって、魔族から人間に戻った人たちだ。


 ──今日は出立の日だった。


 第一層を魔王軍の支配から解放した冥たちは、いよいよ次の第二層へと向かう。


「準備はいいですか、冥」


 ユナが歩み寄った。

 その頬が、少し赤い。


 昨日のキスを思い出し、冥も頬を熱くした。

 生まれて初めて触れた女の子の唇は、蕩けるように甘く、脳髄が痺れるようだった。

 今もその鮮烈な感触は唇に残っていた。


「……いつでも」


 照れくささを押し殺し、冥はうなずいた。

 はにかんだ顔でユナがうなずく。


「では、『レムリアの道』を作動させます」


 手にした杖を振ると、大地からまっすぐに虹色にきらめく光の柱が伸びていく。


 レムリアの道。

 階層の間をつなぐ亜空間通路──魔力によって作動する軌道エレベーターだ。


「第二層までは一刻ほどで到着するはずです。さあ、参りましょう」


 ユナが促す。


「ねーねー、勇者さま。あたしにも操縦のテクニックとか教えてよ。第二層に着くまで暇だと思うし」


 と、シエラが駆け寄ってきた。

 連合の貴重な戦力である彼女も、もちろん第二層に同行する。


 他にもルイーズたち精鋭兵士が。

 バラックを始めとする整備班が。


 そして、もちろん──。


「また頼むよ、エルシオン」


 背後にたたずむ巨大な白騎士を見上げる。


「メリーベルとの戦いもすごかったよね。あたし、ますます憧れちゃう♪」


 シエラが嬉しそうに冥の腕にしがみついてくる。


「わわっ」


 豊かな胸が二の腕に押しつけられ、極上の弾力が伝わってきた。


「……何をデレデレしているのですか」


 不機嫌そうなユナの声。


「あれ、姫さま、ひょっとしてヤキモチ?」


「っ……! 私は、別に……」


 たじろいだユナは、顔を真っ赤にしながら、


「い、いけませんか? ヤキモチを焼いては」


 シエラとは反対側から冥の腕にしがみついた。


「あ、やっと素直になったんだ?」


 悪戯っぽく笑いながら、シエラもなぜか顔を赤くした。


「……でも、あたしだって負けないからね」


 ますます冥に胸を押しつける。


「ふ、二人とも、胸、当たってるからっ……」


 両サイドから柔らかな感触を押し当てられて、冥は嬉しいやらドギマギするやら。

 新たな戦いが始まるとは思えない、緊張感のなさだった。


 だけど、そんな平和なひとときがずっと続いてほしいと思うから。

 冥は、その日が来るまで戦い続ける。


「行こう、次は第二層だ」

面白かった、続きが気になる、と感じていただけましたら、最新話のページ下部より評価を入れてもらえると嬉しいです(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人を寝取られ、勇者パーティから追放されたけど、EXスキル【固定ダメージ】に目覚めて無敵の存在に。さあ、復讐を始めよう。
Mノベルス様から書籍版1巻が10月30日発売されます! 画像クリックで公式ページに飛びます
et8aiqi0itmpfugg4fvggwzr5p9_wek_f5_m8_5dti

あらすじ

クロムは勇者パーティの一員として、仲間たちともに魔王軍と戦っている。
だが恋人のイリーナは勇者ユーノと通じており、クロムを勇者強化のための生け贄に捧げる。
魔力を奪われ、パーティから追放されるクロム。瀕死の状態で魔物に囲まれ、絶体絶命──。
そのとき、クロムの中で『闇』が目覚める。それは絶望の中で手にした無敵のスキルだった。
さあ、この力で復讐を始めよう──。


   ※   ※   ※

【朗報】駄女神のうっかりミスで全ステータスMAXになったので、これからの人生が究極イージーモードな件【勝ち組】
(新作です。こちらもよろしくお願いいたします)


あらすじ

冒険者ギルドの職員として平凡な生活を送っている青年、クレイヴ。
ある日、女神フィーラと出会った彼は、以前におこなった善行のご褒美として、ステータスをちょっぴり上げてもらう。
──はずだったのだが、駄女神のうっかりミスで、クレイヴはあらゆるステータスが最高レベルに生まれ変わる。
おかげで、クレイヴの人生は究極勝ち組モードに突入する!
大金ゲットにハーレム構築、さらに最高レベルの魔法やスキルで快適スローライフを実現させていく──。



小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ