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2 発動の虹色

「どうしたの? もうおしまい?」


 サラマンドラの操縦席でシエラが威勢よく叫んだ。


 ここは、メリーベルが守る魔城の最奥近く。

 事前にユナが魔力探知した結果、もう少し先に目的の紋章があるはずだ。

 第一層を人類の手に取り戻すための、最後の一枚が。


「な、なんという強さだ……!」


 魔族兵たちが戦慄の声を漏らした。

 いっせいに後退する五体のファング。


(さすがに機体の消耗が激しい……か)


 威勢のいい態度とは裏腹に、シエラは冷静に愛機の状態を分析していた。


 これでもう十体以上は倒しただろうか。

 連戦のダメージで装甲は傷だらけだし、駆動系も悲鳴を上げている。

 龍のうなり声ににたエンジン音が、時折苦鳴のような音を漏らした。


「ごめんね、サラマンドラ……無茶させて」


 シエラは愛機をいたわった。


「でも、もう少しだけがんばって。あたしも、がんばるから」


 レバーを握る両手に、あらためて力を込める。


 コクピットは前傾姿勢でシートに跨るような設計だ。サラマンドラが動くたびに、前屈みになっているシエラの豊かな胸も一緒に揺れ、弾む。

 汗で濡れた胸の谷間が艶めいた光沢を放っていた。


「やはり兵士たちでは歯が立たんか」


 前方の巨大な扉がゆっくりと左右に開いた。


 その向こうから銀色のシルエットが姿を現す。


 白銀の鎧をまとった騎士を思わせる姿。

 エルシオンが優美な白騎士なら、こちらは重装甲の雄々しい銀騎士といったところか。


 この城の主──メリーベル・シファーと、愛機のセイレーンだ。


「ボスの登場か。いよいよ決戦ってわけだね」


「ん? 勇者の姿が見えないようだが──」


 メリーベルが怪訝そうにたずねる。


「勇者なら、ここにいるよ」


 シエラが凛と告げた。


 冥はこの場にいない。

 だが、不安も恐怖もすでにない。


 ユナに誓ったのだ。

 自分が世界を救う勇者になって見せる──と。


 シエラは友への誓いを胸に、操縦桿を握り直す。


「あなたを倒して、そう呼ばせてみせる。いくよ──サラマンドラ!」


 愛機に呼びかけ、シエラはフットレバーを踏みこんだ。

 決戦が、始まった。




 城内に槍と剣の打ち合わされる音が響く。

 龍王機の武器同士のぶつかり合いは、さすがに大音響だ。


「いける──」


 勝負はサラマンドラが押していた。


「このまま押し切るよ、サラマンドラ!」


 シエラは手ごたえを感じて、スロットルを踏み込んだ。

 背部のバーニアを吹かして突進する赤い機体。


 彼女の戦闘スタイルは超攻撃型だ。

 多少の手傷を受けることなど恐れず、防御など考えず、とにかくガンガン攻める。


 そのスタイルが、加速と突進力に特化した高速強襲型のサラマンドラと抜群の相性を発揮していた。


「勇者でもないただの人間がここまで──」


 メリーベルのセイレーンは防戦一方だった。

 打ち込む槍を剣でいなしながら、避ける。


 逃がさないとばかりに、サラマンドラが追撃をかける。


「ちいっ、人間ごときが!」


 それをふたたび剣で防ぎつつ、さらに後退するセイレーン。


「人間を──舐めるなぁっ」


 メリーベルの罵倒にシエラが吠えた。


 槍が縦横に旋回し、セイレーンを打ち据える。

 切り裂かれた装甲から火花を散らしながら、銀の機体が後退した。


「このセイレーンに傷を負わせるとは──」


 メリーベルが告げる。

 静かな、殺意を秘めた声で。


「認めよう。お前を。人間の騎士にも強者がいる、と」


 ふいにゾクリと背筋が粟立った。

 嫌な予感が全身を駆け抜ける。


 戦いは一方的にシエラが押しているように思える。


 だが、違う。

 メリーベルはまだ何かを隠している──。


 シエラは緊張感を高めて、モニターに映る銀の騎士を見据えた。


「このメリーベル・シファーとセイレーンが全力で相手をさせてもらう」


 刹那、セイレーンが発光した。


 まばゆい虹色の光。


 各部の装甲がスライドし、剥き出しになった内部機構から虹色の光が漏れているのだ。

 全身が鋭角化し、頭部が変形し、より禍々しいフォルムへと姿を変える。


「これは──」


 シエラは驚きとともに、変形を終えたセイレーンを見つめた。


「変形、した……!?」


「これこそが改修を施したセイレーンの真の姿だ。セイレーン軍神形態(アレスモード)とでも呼ぼうか」


 告げると同時に、セイレーンの姿が消えた。


「えっ!?」


 消えたと錯覚するほどの超速機動。

 予備動作すら一切なく、一瞬にしてトップスピードまで加速したのだ。


 ゴウッ!


 サラマンドラの全身に衝撃波が叩きつけられる。


「が……あっ……!」


 重い衝撃にシエラは苦鳴を漏らした。


 虹色の残像に遅れて、音がついてくる。

 セイレーンの動きが音の速さを超えた証だ。


 信じられないほどの加速で背後に回りこまれる。


「なんて速さっ……」


「違うな。お前が遅すぎるのだよ」


 メリーベルの言葉とほぼ同時に、


「うああっ」


 サラマンドラの背中を強烈な一撃が襲った。

セイレーンの変形はガンダムUCのNTDみたいな感じをイメージしていただければうれしいです。

(いや文章だけで伝わるように書かなきゃいけないんですけどね。むずかしい……^^;)

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