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1 白熱の攻城戦

 ユナにとって勇者は憧れの相手であり、初恋の王子様だった。


 かつての大戦──先代魔王ヴァルザーガとの最終決戦の際、ユナは勇者とともにエルシオンに乗りこみ、ともに戦った。


「だいすきです、ゆうしゃさま。まおうをたおして、ユナをはなよめにしてください」


 うっとりと憧れの少年を見つめ、一世一代の告白をしたものだ。

 あのときは、体中が蕩けるような心地だった。


(これが恋なのですね)


 胸がどうしようもないほど切なく締めつけられ、甘酸っぱく疼いた感覚は今でも鮮明に残っている。


「ありがとう、ユナ」


 勇者の装束である黒いゴーグル越しに、温かな視線を感じた。


 魔王を倒したそのときには、ゴーグルを取って素顔を見せてほしい。

 召喚のときに一度見ただけの顔を、もう一度──。


(私はこの人が好き。大好き。ずっとそばにいたい……)


 それは六歳の乙女の、切なる願いだった。


(でも、あの人は私を裏切った)


 淡い恋心は踏みにじられ、砕け散った。


(私の気持ちを踏みにじった)


 魔王としてこの世界に再来し、征服し、多くの人々を苦しめるという最悪の形で。


 ──今でも、思い出す。


 クレスティアにふたたび魔王が降臨したあの日。

 第八層にある魔法王国の居城は、一瞬にして焼き払われた。


 ユナの父も、母も、姉も──炎の中に消えていった。


 かろうじて第一層まで逃れたのはユナただ一人。

 護衛の兵士たちも一人、また一人と彼女を守って倒れていった。


(絶対に許せない)


 自身の恋心を踏みにじられたことも。

 彼女の大切な人たちを傷つけたことも。


 だから──決着は、自分の手でつけたい。


 それが、ユナが人類連合を率いる理由の一つだった。


「姫さま、さがって!」


 シエラの声に、ユナは意識を目の前に戻した。


 石造りの城の中だ。今は、東エリアを支配する魔族メリーベル・シファーの魔城を攻めている最中である。


(いけない。今は目の前の戦いに集中しなければ)


 ユナは気を引き締め直す。


 前方からは、五体の龍王機が迫っていた。


 魔族の兵士が乗る量産機『魔龍の牙(エヴィルファング)』。

 通称『ファング』と呼ばれるダークブルーの敵機が、一斉にマシンガンを構え、弾丸の雨を降らせてきた。


「そんな攻撃──」


 降り注ぐ弾丸を、シエラの乗るサラマンドラは高速機動で避けてみせた。


 床の上を滑るように動きながら、ファングの軍団に肉薄する真紅の機体。


 どうやら修理は万全のようだ。

 いつものシエラらしい流麗な操縦技術。

 そしてそれに応えるサラマンドラの加速性と機動性。


 旋回した槍が虚空に銀の軌跡を描き、敵機を次々と切り裂いた。


 またたく間に沈黙する五体のファング。


「さすがはシエラですわ」


 ユナは、少女騎士とその愛機を頼もしい思いで見上げた。

 勇者がいなくても、シエラがいればまだ希望はある。


(いえ、シエラだけじゃない。私には共に戦う仲間がいる)


 人類の解放のために、ユナの呼びかけに応え、立ち上がってくれた者たち。


 ユナを守ってともに進む兵士たちをあらためて見つめた。

 いずれも、希望と使命感にあふれた顔だ。


(今は裏切り者の勇者のことより、仲間のことを考えなければ。そうよ、皆のためにも、私は──)


 この戦い、負けるわけにはいかない。

 そのために、ユナはユナにできることをする。


 人類を率いる者として。魔法王国の末裔として。


「天空より来たれ、雷撃の帝王」


 呪文とともに杖を振りかぶる。


「『破道雷襲(ブラスティボルト)』!」


 放たれた雷球が、一体のファングに命中した。


 爆発とともに敵機がよろめく。


 彼女の魔法の威力は絶大だ。人間同士の戦いなら、たとえどれほど卓抜した戦士であろうとユナに勝つことはできないだろう。


 だが相手が龍王機では──。


「やはり決定打にはなりませんわね……」


 ダークグレイの装甲はわずかに焦げ目がついただけ。ダメージらしいダメージは受けていない。


 天才魔法使いと呼ばれる彼女でさえ、量産機クラスをこうしてたじろがせるのが精一杯だった。

 龍王機に勝てるのは、同じ龍王機だけだ。


(だからお願い……シエラ)


 人類最後の希望である少女騎士を──その彼女が駆る赤い機体を、ユナは希望を込めて見据える。


 その声に応えるように、サラマンドラがよろめいた敵機を槍で貫いた。

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