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階層世界の龍王機(ドラグーンフレーム) ~先読み能力を持つ勇者、最弱の機体を最強へと押し上げる~  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第5章 星天世界、勇者の選択

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9 虚無の中で

 闇が一面に広がる漆黒の空間。


 冥はそこに浮かんでいた。

 足場がないため、全身がふわふわとして落ち着かない。


 目の前には、黒いローブをまとったような巨大な人影がたたずんでいた。


「来たか、勇者よ」


 影──魔王ヴァルザーガが言った。

 全身を震わせ、黒い波動を放ちながら。


「余を討ちに来たのだな。だがこちらの世界では、余は惑星をも消滅させるほどの力を振るうことができる。生身の貴様に勝ち目などない」


「……かもね」


 冥はそれだけを答えるのがやっとだった。


 魔王ヴァルザーガの威圧感は圧倒的だった。

 物理的な風圧さえ感じるほどの、強烈きわまりないプレッシャー。


(前の大戦では、ここまで威圧感を感じなかった──)


 あのときはエルシオンという頼れる相棒に乗っていたし、傍らにはユナがいた。


 だけど、今は違う。


 何もない虚空で、冥は一人きりで魔王と向き合っているのだ。


 恐ろしい──。


 恐怖の感情だけで、心が埋め尽くされる。

 恐怖以外の感情が、まったく湧いてこない。


 同じ魔王でも、冥そっくりの顔をしたあの少年とは根源的に違う。


 体が動かない。

 のどが詰まり、息をすることすらままならない。


「ヘビににらまれたカエルといったところか。先の大戦では余を完膚なきまでに打ちのめした貴様が──哀れなことよ」


「…………」


「力の差は承知していただろう。にもかかわらず、なぜここに来たのだ。勇者よ」


「…………」


 冥は何も言わない。


 いや、言えないのだ。


 恐ろしくて、言葉を発することもできない。

 気を抜けば、失禁してしまいそうだ。


「誰よりも勇気があるから。誰よりも使命感を持っているから。誰よりも人と世界を愛しているから──」


 魔王が嘲笑した。


「──などというご立派な理由ではあるまい。見えるぞ、貴様の心が。日常に退屈し、異世界で選ばれた者として戦い、賞賛され、優越に浸り──さぞや気分がよかっただろう」


 笑い声が大きくなり、闇の空間いっぱいに響き渡る。


「貴様は、貴様の中の虚栄心を見たし、自己満足を得るために戦ったのだ」


「……僕は」


 ようやく言葉を発することができた。


 違う、と言いかけて、その言葉は喉元で引っかかる。


「そうなのかも、しれない」


 唇を噛みしめた。


「本当は世界の運命とか、そこに住む人たちのこととか、全部どうでもよくて……ただ、自分が特別な人間だって思いたかったのかもしれない」


 だとしたら、そんなものは勇者でもなんでもない。


「ふん、まあ貴様の心根などどうでもいい。余は前回の雪辱を晴らすために、ここまで来た。今度こそ余が勝たせてもらうぞ、勇者──いや、竜ヶ崎冥!」


 魔王の発するオーラが何百倍、何千倍もの濃度で膨れ上がる。

 まるで黒い炎のように広がり、この空間を覆い尽くしていく。


「くっ……!」


 やはり、生身で対峙するには、相手が圧倒的すぎる。

 前の戦いでは互いに龍王機に乗っていたため、冥が勝ったが──。


「小さき者よ。ひねりつぶしてやろう」


 魔王の黒いローブが広がる。


 ねじくれた手を冥に向かって伸ばした。

 その手に黒い輝きが宿る。


「『虚無の星砕き(ヴォイドストリーム)』」


 呪文とともに、魔力の弾丸が放たれた。


「龍王機に乗らぬ貴様など、虫けらに等しい──消えろ」


 冥は動けないままだ。

 まっすぐ迫る黒い魔力球をただ見つめることしかできない。


 ──ゆうしゃさま、がんばって──


 あの幼女の応援が、頭の中に響いた。


「!」


 金縛り状態だった体が、どうにか動く。

 すでに、目の前には黒い光弾が迫っていた。


(よけられるタイミングじゃない。どうする──)


 冥はほとんど反射的に腰の剣を抜いた。


 勇者の剣。


 小ぶりなその剣が、まばゆい閃光を放つ。


「むっ!?」


 魔王が戸惑いの声を上げた。


 閃光に触れた黒い光弾は、跡形もなく消え去ったのだ。

 大陸すら消し去る、魔王の光弾が。


「余の魔法を打ち消しただと……!?」


「これは……」


 驚いたのは冥も同じだ。

 呆然と剣を見つめる。


 見つめながら、不思議と心が落ち着いてきた。


 引き金となったのは、あの幼女の笑顔。

 そして異世界で出会った少女の微笑み。


「僕は──」


 冥がすうっと息を吐き出した。

 黄金の剣をかまえる。


「一度目に召喚されたときも、二度目のときも、僕はお前の言うような気持ちで戦っていたのかもしれない」


 自分が選ばれた特別な人間だと賞賛される気持ちよさ。

 圧倒的な力で敵を叩きのめす喜び。


 それを否定はできない。


「だけど──それだけが、僕の戦う理由じゃない」


「意志の光が増していく……なんだ、これは!?」


 魔王が狼狽の声を上げた。


「ええい、いまいましい。消えろ!」


 ふたたび黒い光弾が放たれる。


 しかも、さっきよりも巨大な──文字通り大陸一つを飲みこむほどのサイズだ。


(怖い……だけど、逃げない)


 冥はまっすぐに剣を構えた。


 恐怖も、不安も、不思議なほど感じなかった。


 きっと、それは自分の中で決意が固まったから。

 ずっとモヤモヤしていた自分の気持ちが、少しだけ整理できたから。


 そして何よりも──明確な目的を自覚したから。


「あの女の子や、他にもまだ世界に残っている人たちのために」


 掲げた剣がまばゆい光を発した。

 虚無の空間の闇をあまねく照らす、黄金の輝き。


「戦えない人たちの代わりに──僕が戦う!」


 渾身の力で振り下ろした剣が巨大な黒球を斬り散らした。

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あらすじ

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そのとき、クロムの中で『闇』が目覚める。それは絶望の中で手にした無敵のスキルだった。
さあ、この力で復讐を始めよう──。


   ※   ※   ※

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あらすじ

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