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階層世界の龍王機(ドラグーンフレーム) ~先読み能力を持つ勇者、最弱の機体を最強へと押し上げる~  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第5章 星天世界、勇者の選択

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7 覚醒のメリーベル

 舞台は変わって階層世界クレスティア、その第一層──。


「次は右から行くぞ、シフォン。剣で薙ぎ払う。狙いはファングの左肩だ」


 メリーベルが淡々と告げた。


「……来い」


 対するシフォンは静かに答える。


 現在、二人は模擬戦の最中だ。

 勇者と戦うための特訓である。


 メリーベルは愛機である『銀閃の歌姫(セイレーン)』に、そしてシフォンは量産型の龍王機である『魔龍の牙(エヴィルファング)』に搭乗していた。


(相手は格下の機体だ。勇者と戦ったときと、同じ状況。スペックなら私のほうが圧倒的に有利……)


 メリーベルは心の中で状況を整理する。


 ファングは第五世代の龍王機である。

 勇者が乗るエルシオンよりは高性能だが、第六世代のセイレーンに比べれば格段に性能が劣る。


(だが、私はハンデを負っている)


 事前に自分の行動を宣言してから、メリーベルは動くのだ。

 すべては、以前に勇者と戦ったときの再現だった。


 ──相手の機体は、愛機よりも性能が劣る旧型。

 ──そして相手は自分の動きをことごとく先読みする。


 もちろん、シフォンにはそんな先読み能力はないが、メリーベルが事前に行動宣言することで、疑似的に勇者との戦いを再現しようという試みだった。


 そして──その状態でなおかつ、相手を上回ることができれば、実際に勇者と再戦しても勝てるかもしれない。


(だが、すでに五十七回シフォンに挑み、すべての攻撃を防がれている)


 シフォンとメリーベルはほぼ同等の技量である。

 まして、こちらの動きをすべて事前に知らせている状況では、相手に圧倒的なアドバンテージがあった。


 フェイントをいくつも重ねたり、ひたすら連続攻撃をしかけたり、ステルス機能である『迷彩魔甲(ミラージュメイル)』を併用したり──。


 しかし、小手先の攻めはいずれもシフォンに通用せず、返り討ちにあった。


(私は勝つ。この条件で勝てなければ、勇者にリベンジするなど夢のまた夢だ)


 メリーベルは自分を奮い立たせる。


「いくぞ」


 五十八回目の対峙が、始まった。


 狙いは宣言した通りだ。

 回りこむように突進し、そのまま全力の打ちおろし。


 シンプルきわまりない攻撃だった。


(どのみち、小手先の技は通用しない)


 ならば、最速最強の剣でもって敵を打ち砕くのみ──。


「へっ、来る方向も、攻撃の狙いも分かってるなら──」


 右側から回りこんだセイレーンをシフォンのファングが迎え撃つ。


 何しろこちらの動くコースが事前に分かっているのだ。

 まるで未来が見えるかのように、敵機は前もって迎撃態勢に入っている。


(ならば私は、その未来をも超える!)


 メリーベルが瞳を見開いた。


 ふいに、全身の血が熱く沸騰するような感覚が訪れる。

 それでいて頭の芯はやけに冷たく、澄んでいる。


 体の内に、炎と氷が同居するような不思議な感覚。


 敵機のナイフがカウンターとなって突きこまれるのが──まるでスローモーション映像のように見えた。


(これは──この感覚は──)


 迫りくる攻撃を刹那の瞬間に見極め、レバーを、ペダルを、操作する。


「……なんだと!?」


 シフォンが驚愕の声を上げた。


 突き出されたナイフの先に、セイレーンの姿はない。

 神速ともいえる回避反応。


 最小限の動きでナイフを避けたセイレーンは、すれ違いざまにファングの右腕を斬り落とした。


 まさしく会心の一撃だ。


「なるほど、これなら──」


 コクピットの中でメリーベルがうなずく。

 興奮と喜びで心臓が激しく鼓動を打っていた。


「勇者に勝てる」


「テメェ……」


 シフォンがうめいた。


「攻撃の方向も、狙いも、全部分かってたのに……」


「お前に、何度も何度も叩きのめされたおかげだ」


 メリーベルがふうっと息をつく。


 極限まで集中したせいか、わずかな時間の戦いだというのに全身が鉛のように重い。


「やっと、たどり着けた。ずっと目指していた──あの領域に」


 疲れはあるが、それ以上に爽快感があった。

 そして、達成感があった。


「『覇王の領域(エンペラーギア)』か。噂には聞いていたが、まさか、マジで体現できる奴がいるなんてな……」


 シフォンが呆れたようにつぶやく。


「礼を言うぞ、シフォン。お前がいなければ、習得できなかった」


「ちっ、テメェに礼なんて言われると背中がむず痒くなるぜ」


 シフォンは不快げだった。


「必ず勇者を倒せよ。そして、勇者を倒したテメェを──いつか、あたしが倒す」


「ああ」


 メリーベルは好敵手のエールに、微笑を浮かべて答えた。


「受けて立とう」




 かつ、かつ、と石の回廊に硬質の足音が響く。


「後は勇者を迎え撃つだけだ。早く来い」


 メリーベルは魔城の回廊を進んでいた。


「私に屈辱を与えたあの男……今度こそ、この手で討つ」


 生粋の魔族であるメリーベルにとって、人間など下等生物に過ぎない。

 その人間相手に──しかもスペックの劣る旧型の機体を相手に遅れを取ったなど、これ以上の屈辱はなかった。


 だがシフォンとの特訓で、ようやく勝てる見込みができた。


 後は戦いのときを待つのみだ。

 そしてそのときは、もう間近に迫っているはずだった。


 城内の最奥にある部屋──今は彼女が私室として使っている──に戻ると、ドアの前に長身の少女が立っていた。


「久しぶりだね、メリーベル」


 にこやかな笑みとともに、豪奢な金色の髪を軽くかき上げる彼女。

 花の香りがふわりと一面に広がった。


「ね、ね、姉さまっ!? どうしてここに!?」


 メリーベルが声をうわずらせる。

 たちまち心臓の鼓動が早鐘を討った。


「遊びに来たよ♪」


 最愛の姉、エルナ・シファーがにっこりと微笑んだ。


「ふわぁ……姉さまだぁ」


 たちまちメリーベルの怜悧な顔が、これ以上ないほど弛緩する。


 闘志に満ちた切れ長の瞳は、目尻がすうっと下がり、口元もだらしなく緩む。

 いわゆるデレ顔だ。


 おそらくシフォンあたりが見れば、腰を抜かすのではないだろうか。


 いや、メリーベルを知るすべての人間が呆然となるだろう。

 それほどの、すさまじい落差。


「姉さまぁ~!」


 メリーベルは、部下や他の誰にも出さないような甘えた声でエルナに駆け寄った。

 そのまま飛びつくようにして抱きつく。


「姉さま……大好きな姉さまぁ……」


 夢中でむしゃぶりついた。


 柔らかくしなやかな姉の体。

 豊かな胸に顔を埋め、メリーベルは至福の吐息を漏らした。


「半年ぶりだね、メル。元気にしてた?」


「は、はい、メルは……メルは、姉さまのことを思わない日はありませんでした。ああ、愛しいお姉さまぁ……」


「ボクもだよ、メル」


 彼女のことを『メル』と愛称で呼びながら、エルナが愛おしげに囁く。


「ふわぁぁぁぁ……」


 額に軽くキスをされ、メリーベルはそれだけで腰砕けになりそうだった。

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