6 吹雪の激闘
「ちいっ」
冥は舌打ち混じりに機体を後退させた。
背後に転がるようにして敵機から距離を取る。
ばちっ、ばちっ、と切り裂かれた肩口から火花が散っていた。
装甲だけでなく内部構造までえぐられたようだ。
「……右腕はもう駄目か」
操縦レバーを引いてみるが、右腕はほとんど動かなかった。
左手に剣を持ちかえ、さらに距離を取る。
「よく避けましたねぇ。ですが、次は腕だけではすみませんよ」
ゲイルが一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。
スピードは当然、相手が上。
しかも雪原用に調整された機体だ。
対するこちらは性能が絶対的に劣るうえに、量産機との戦いで消耗している。
(視ろ──)
冥は集中した。
今まで以上に。
(もっと深く)
相手の動きの先を読む。
未来を見切る。
敵機と自機の戦力差は歴然だ。
生半可な先読みでは対応できない。
だから──。
(もっと、遠い未来を)
ゲイルが四肢をたわめた。
飛びかかる体勢だ。
「これで終わりですっ」
雪の塊を蹴り飛ばしながら、ゲイルが突進した。
吹雪の中、猛スピードで一気に肉薄する。
「来る! 左──」
相手の攻撃方向を予測し、冥はエルシオンを横に跳ばせた。
足場の悪い雪原を爪先でえぐるようにして、少しでも速く──。
刹那、
オォォォォォォンッ!
ゲイルの機体が唸るような震動音を上げた。
まさしく名前の通り、狼の遠吠えに似た音を。
「なんだ!?」
驚く冥の前で──。
狼を模した頭部が後方へスライドする。
両手両足の関節が逆に曲がり、胴体部の装甲が展開する。
くるりと一回転した機体は、人型から狼のような姿へと変形していた。
「可変機構──!?」
龍心眼で見切ったのは、あくまでも『人型』のゲイルの攻撃だ。
『獣型』のゲイルの攻撃は、完全に想定外。
「はははは、遅い遅い遅い遅い遅いっ!」
先読みし、予測したスピードよりも、さらにもう一段階速く──。
狼の姿をした龍王機がエルシオンに迫る。
前足の鋭利な爪が、胸部に突き立てられた。
その奥にある操縦席まで貫く勢いで。
鮮血が、散った。
「く……ううっ」
冥の右腕から鮮血がしたたっていた。
ゲイルの爪がかすめたのだ。
ただし、傷は浅い。
龍王機サイズの巨大な爪で操縦席近くまで貫かれ、この程度の傷で済んだのは幸運だった。
スラスターを全開にして、エルシオンはゲイルから離れた。
(下手したら死んでた……助かった)
冥は深々と息をつく。
戦いの興奮のためか、恐怖の余韻のせいか、切り裂かれた右上腕部の痛みはほとんど感じない。
わずかに痺れる程度だ。
代わりに心臓が爆発しそうなほど鼓動を打っていた。
(これが、戦いなんだ)
殺し合いなのだという実感が、冥の全身を震わせる。
「ほう、また避けましたか」
一方の魔族は余裕の態度だった。
互いの機体の性能差、そして攻撃を何度も当てている自信が、そうさせるのだろう。
実際、この戦いは冥が一方的に押されている。
「なかなか運がいいですねぇ。ですがその幸運もこれ以上は続きません。次はコクピットを貫きますよ。確実にね……くふふふ」
「冥……!」
ユナがこちらを見つめていた。
心配そうな顔で。
もちろん、巻き添えを食わないように彼女たちは戦場から離れた場所にいる。
これはモニターによる拡大画像だ。
──私は勇者なんて信じない──
かつて、吐き捨てるようにユナはそう言った。
今でも『勇者』に対する不信感をぬぐい去れたわけではないだろう。
裏切られた心の傷が癒えたわけではないだろう。
それでも少しずつ、ユナは前向きに冥と向き合うようになってくれている。
祭のときに見せてくれた、はにかんだ笑み。
先ほどの、照れたような顔。
そして今の、心配そうにこちらを見つめる瞳。
「負けないで、冥!」
ユナが悲痛な顔で叫んだ。
「大丈夫だよ、ユナ」
彼女には見えないのを承知で、冥は微笑んでみせた。
必ず勝つから。
勝って、君の元に戻るから──。
「来い、魔族」
敢然と言い放った。
「ふむ、死ぬ覚悟はできたようですねぇ」
「違う」
冥が凛々しく告げる。
「お前を倒す覚悟だ」
今回の敵機の変形はワタル2の新星邪虎丸っぽいイメージです。
あっちは狼じゃなくて虎だけどw
無印や超の邪虎丸もかっこいいけど新星も好き(=^・^=)