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5 VS烈風の白狼

 ユナを、守りたい。


 その一心で冥はエルシオンを突進させる。

 目の前に立ちはだかった一機を、フェイントを織り交ぜた斬撃で両断した。


「まず一機! 次!」


 さらに側面から放たれたマシンガンの銃撃を、先読みして回避。

 相手の背後まで回りこみ、二機を続けざまに斬り伏せる。


「これで三機! ユナには誰も近づけさせない!」


 まさに、鬼神のごとき戦いぶり──。


 わずか一分のうちに、残り一機に減った。


「な、なんだ、こいつ……強すぎる……」


 怯えたように後ずさるファングに対し、冥は渾身の突きを見舞った。


 ガシィッ、と金属を貫く手ごたえがあり、黄金の剣がファングの胸部を深々と貫く。

 動力部を破壊され、敵機は沈黙した。


「冥、どうして……」


「ごめん」


 冥は今さらながらに、自分が作戦を無視したのだと実感する。

 込み上げる後悔と罪悪感。


「ユナが危ない目に遭うかも、って思ったら、止められなくて──」


 そして、彼女が無事でよかったという安堵感。


「……ありがとう。心配してくれて」


 ユナの表情が少しだけ和らいだ。


 その視線が白い機体へと向けられる。

 エルシオンの四肢から、かすかな白煙が立ち上っていた。


 正面から四体もの龍王機と連続して戦ったのだ。

 すでにオーバーヒート気味だった。


 本来の奇襲作戦なら、相手の虚を突き、もう少し機体の消耗を抑えられたのかもしれないが──。

 しかも、本命ともいうべき相手が、まだ待ち構えていた。


「ふん、姫を守る健気なナイトというわけですか?」


 吹雪の向こうから、その本命──新たな敵機が現れる。


烈風の白狼(ビーストゲイル)』。


 狼を模した頭部に、白い装甲をまとったしなやなか四肢。

 獣人のようなデザインだった。

 北エリアの支配者、魔族アシュレイの駆る専用機だ。


「もしかしたら、恋仲なんですか? ふふふふ」


 アシュレイが笑った。


「いいですねぇ。愛し合う二人」


「あ、愛し合う!?」


 ユナが裏返った声で叫ぶ。


「な、な、な、何を根拠にっ!? 私と冥は、別に、そんな……」


「照れる姿も可愛らしい。ますますいいですねぇ。本当に愛し合っている雰囲気が漂ってきますよ」


 甲高い中性的な声で笑うアシュレイ。


「最高ですねぇ。そんな二人を──引き裂く快感は」


 どうやらサディスティックな性格らしい。




 吹雪の舞う中で、白い騎士を思わせるエルシオンと、狼の獣人のシルエットを持つゲイルが対峙する。


「くふふふ、そんな旧型でこの私とゲイルに立ち向かおうなどと片腹痛いですねぇ」


 アシュレイが嘲笑した。


「もう、いい加減に聞き飽きたよ。その手の台詞」


 さすがに、ぼやきたくなる。


「旧型だからって舐めないでほしい」


 冥は不敵に言い放った。


「今までだって性能差を覆して勝ってきたんだ。だから、今度も──」


 冥は油断なく相手の挙動を見据え、その実力を推察する。


 ちょうど柔道の達人が、相手の柔道着の着方を見ただけで実力をある程度、推し量れるように。


 おそらくメリーベルやシフォンよりは格下だ。

 前回戦ったドルトンと同レベルくらいではないだろうか。


(大丈夫、勝てる。消耗したエルシオンでも)


「舐めているのはあなたでしょう。第六世代機のゲイルに第四世代機で挑もうなど、私に対する侮辱ですねぇ」


「その手の台詞も、聞き飽きた」


「なーに、二度と聞くことはありませんよ。あなたはここで死ぬ。今から。私の手で──」


 言うなり、ゲイルが飛びかかった。


 足場の悪い雪原をものともしないスピード。

 おそらく、雪の上でも機動を損なわないように特別な整備(チューン)を施しているのだろう。


 一方のエルシオンには、そんな便利な装備はない。


 人類連合は慢性的な物資不足だ。

 当然、龍王機用の部品も最低限のものしかそろっていない。


「くふふ、ほら見たことですか! 私とゲイルの動きについてこられないでしょう!」


 ゲイルの足から獣のような爪が飛び出し、白い大地を蹴る。


 雪の塊を吹き飛ばしつつ、急速旋回。

 繰り出した拳からも、足と同じように鋭い爪が飛び出した。


「くっ……!」


 エルシオンは背中から黄金の剣を抜き、迎撃しようとする。


 だが──遅い。

 想定していたよりもワンテンポ遅れて、腕が動く。足が動く。


 冥はもどかしい思いで操縦桿を握りしめた。


 オーバーヒート気味の機体は、思った以上に反応が鈍い。

 機体全体が熱を持ち、フレームからは軋むような音が鳴り続けている。

 装甲表面に雪が触れ、じゅっと蒸気を立てた。


(量産機と正面から戦ったせいで消耗がひどい……)


 唇を噛みしめた。


 作戦を無視したツケがきていた。

 ユナを助けたことに悔いはないが、厳しい戦況に追いこまれつつあるのも事実だ。


 それでも冥は龍心眼を最大限に活かして、敵の攻撃を見切る。

 かろうじてゲイルの爪撃を剣でいなした。


「よく防ぎました、と言いたいところですが──」


 いったんバックステップ、と見せかけて、ふたたび突進するゲイル。

 足場の悪い雪原をものともしない動きだった。


 さすがに気候に合わせた整備をしているだけのことはある。


「隙だらけですよ、勇者!」


 反対側の腕が閃いた。


 二連撃だ。


「く、ぅっ……!」


 その動きも冥の予測内だったが、機体の反応が間に合わない。

 ナイフのように鋭利な爪がエルシオンの右肩をえぐった。

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