6 VS銃鋼射手
砂の大地で二体の龍王機が激戦を繰り広げていた。
弾ける閃光。
間断なく続く爆発。
ドルトンが操る龍王機『銃鋼射手』の銃撃を、冥のエルシオンはまさしく紙一重の挙動で避け続ける。
「ど畜生っ、この俺の銃撃が──なんで当たらねぇっ」
敵魔族が苛立った声を上げた。
一方の冥は冷静だ。
その挙動を、駆動音を、そしてパイロットの心理状態さえも推測し、次の動作を予測する。
『龍心眼』。
現世で、全国のゲーマーから畏怖された冥の先読み能力。
螺旋回転しながら大気を裂いて迫る銃弾を、また一発、エルシオンは避けてみせた。
大地が爆裂して、小さなクレーターが形成される。
「レールガンか。前の大戦では試作段階だったはずだけど──」
相手の銃は外見こそ西部劇のリボルバー銃に似ているが、発射機構はまったく違う。
武器の種別的にはいわゆるレールガンと呼ばれるもの。
銃身内部で弾丸を電磁加速させて撃ち出す。
その威力は通常の銃砲の比ではない。
先の大戦では、まだ確立されていなかった技術である。
試作型のレールガンを積んだ敵機と戦ったことはあるが、実用化まではあと一歩という感じだった。
だが十年の月日を経て、通常兵器として龍王機に装備されるだけの技術が確立されたのだろう。
さすがにその威力は高い。
直撃すれば、旧型であるエルシオンの装甲など簡単に貫かれてしまう。
(当たれば、終わりだ)
戦況的にはこちらが優勢とはいえ、相手の銃撃を一発でも食らえば、簡単に逆転が起こり得る。
冥は極限まで精神を研ぎ澄ませた。
相手の動きを見切ることに集中する。
仮に剣で受けたとしても、下手をすればへし折れる。
とにかく、避け続けるしかない。
そして、相手の隙を待つ──。
「ど畜生っ」
怒声を上げてガンナーが突っこんできた。
冥は怪訝な気持ちで迫る敵機を見据える。
ガンナーの機体特性はあきらかに遠距離からの銃撃に特化している。
接近戦では不利になりこそすれ、有利になるはずがない。
あるいは──。
「距離を詰めて確実に銃撃を当てる気か」
冥がスッと瞳を細めた。
「そういうことだ──死ねぇっ」
ガンナーが銃を乱射しながら、距離を詰める。
近づくほどに、銃撃の精度が上がり、一発の弾丸がエルシオンの肩口をかすめた。
嫌な音を立てて、肩の装甲が半分吹き飛ぶ。
「旧型だけあって紙装甲だな! そうら、次で終わりだ!」
さらに近づいたガンナーが二丁拳銃を突きつける。
銃口に輝く電磁光があふれ、弾丸が放たれる──。
刹那、黄金の光が閃いた。
エルシオンの斬撃だ。
この距離なら、銃撃よりも早くこちらの斬撃を当てられる。
「ちいっ」
ガンナーの銃が翻った。
銃口付近から長大な刃が飛び出す。
「なに!?」
「ただの銃じゃねぇんだよ、これは」
リボルバー銃から銃剣へと変形した武器で、エルシオンの斬撃を受け止めるガンナー。
鍔迫り合いになった。
操縦桿を握る右腕に力を込めて、押し切ろうとする冥。
「うぐっ……!」
その瞬間、右腕に激痛が走った。
先ほどドルトンに撃ち抜かれた箇所だ。
力が入らない。
エルシオンの右腕にパワーを伝えられない。
「なんだ、それは? 攻撃のつもりかぁっ」
あっさりと押し切られ、右手の剣を叩き落とされてしまった。
「……なるほど、右腕が痛むわけか」
ガンナーからドルトンの笑い声が聞こえた。
「それじゃあ、まともな操縦なんてできねぇよな。おらぁっ」
もう一丁のリボルバー銃も銃剣に変形させ、二刀流で攻め立てるガンナー。
「くっ……ううっ」
対するエルシオンは右腕がほとんど使えない。
左手でもう一本の剣を抜き、なんとか敵の斬撃を防ぐ。
相手がセイレーンのような剣を主武器にする機体なら、そのまま撫で斬りにされていただろう。
だが、ガンナーはあくまでも銃をメイン武器とする機体。
斬撃の威力は高くない。
左の剣で相手の二刀流をしのぎつつ、全速で後退する。
なんとか距離を取った。
「へっ、勝負は見えたな」
ドルトンが勝ち誇る。
「悔しいが、俺の銃撃はお前に当たらない。けど、お前の攻撃も俺には当たらない。左手一本のしょぼい剣撃じゃあな」
冥は言葉を返せない。
「けど、俺の方は銃撃を続けていれば、いずれは当てられる」
ガンナーが銃剣をリボルバー銃形態へと戻した。
「いくらお前が素早くても永遠に避け続けるのは不可能だ」
向けられた二つの銃口が同時に火を噴く。
「……! し、しまっ──」
痛みで集中が薄れてしまった。
今までほど正確に、相手の攻撃を見切れない。
銃弾の一発がエルシオンの右足を撃ち抜いた。
「くっ……」
「はははははは! 腕に続いて、足もイカれたかよ! ますます勝負は見えたな」
ガンナーがふたたび二丁拳銃を構えた。
「その足じゃ、もう避けられねぇだろ。終わりだぜ、勇者さま!」
二発の銃撃がエルシオンを襲う──。