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3 神速の槍、魔速の銃

「たった四人とは舐められたもんだな、ど畜生」


 響いた声は、前方からだった。


「ここは南エリアを支配する魔族──このドルトン様のお膝元だってのによぉ」


 砂の大地を揺らしながら歩いてきたのは、一機の龍王機だ。


 テンガロンハットに似た頭部装甲、コートを連想させる胴体装甲。

 まるで西部劇に出てくるガンマンのようなデザインだった。


「正面から堂々と乗りこんでくるとは舐められたもんだぜ。メリーベルもシフォンもお前にやられちまったって話だが──このドルトン様はそうはいかねぇ」


「舐めているのは、そちらではありませんか。兵も連れずに、一対一で勇者に勝てるとでも?」


 ユナが不敵に言い返す。


「どうせなら、兵だけでなく北エリアの魔族もつれて、総がかりで来てはいかが?」


「ユ、ユナ……?」


 挑発的なユナの態度に、冥は戸惑う。


 が、すぐに彼女の狙いを悟った。


 ユナは魔族の気を引きつけてくれている。

 その間に後方の輸送車まで行き、エルシオンに乗りこめということだろう。

 龍王機に乗っていない冥など、丸腰同然なのだから。


(ありがとう、ユナ)


 冥は視線だけで、感謝の念を送った。

 ユナがその視線を受けて、瞳で小さくうなずく。


(よし、今のうちに──)


「ふざけるな!」


 冥が輸送車まで走ろうとしたところで、魔族──ドルトンが怒鳴った。


「そんなみっともない真似ができるかぁ!」


「……なるほど。やはり、そういうことですか」


 ユナが納得したようにつぶやく。


「テメェは俺が倒す! 俺一人で、だ!」


 吠えるドルトン。


 ぶんっ……!


 その手元が蜃気楼のように揺らめいた。


「えっ……!?」


 それが超高速で動いた後の残像だと気付いたのは、一瞬の後。


 銃声とともに、冥の足元が火花を散らして弾ける。


「見えたか? 反応できたか?」


 煙を上げる銃口を構えたまま、ドルトン。


「俺がその気なら、お前は今ので撃ち殺されてた」


「どうかな」


 シエラが不敵に笑う。


「何?」


「そんな程度の腕で、勇者さまをむざむざと殺させたりしないよ。今のは殺気がないから止めなかったけど」


「ほう」


 ドルトンが獰猛に笑う。


「そんな程度、だと? ど畜生……言ってくれるじゃねーか、女」


 その腕が、ふたたび残像となって揺らめく。


 先ほどと同じだ。

 冥の動体視力では視認することすらできない、超高速の抜き撃ち。


 ドルトンはまさしく神速の──いや、魔速のガンマンだった。


 そして、その銃口はまっすぐシエラに向いて──。


 ちゅいんっ。


 短い金属音と火花が弾けた。


「なっ……!?」


 驚きのうめき声を漏らしたのは、ドルトンの方だ。


「いくら速くても──ちょっとした仕草とか目線の動きで弾道くらい読めるよ」


 いつの間にか抜き放った槍を構え、シエラがにっこりと笑う。

 槍の穂先がわずかに揺れていた。


 たった今、銃弾を弾いた衝撃の余韻で。


「シエラ……」


 冥は呆然と少女騎士を見つめた。


 冥自身が龍王機での戦いで用いる、超絶の先読み能力──龍心眼。

 それをシエラは、生身で行ったのだろう。


 もちろん生身の戦闘と龍王機の戦闘は別物だ。

 彼女が弾道を予測するほどの白兵戦能力を持っているからと言って、龍王機に乗っても同じことができるとは限らない。


「勇者さまの戦い方の、見様見真似だけど」


 シエラが照れたように笑う。


「ほら、勇者さまって敵の動きが前もって分かるみたいな動き方するでしょ? 模擬戦のときもそうだったし」


 言って、冥をまっすぐに見つめるシエラ。


 その眼差しはドキッとするほど純粋で強烈な憧憬を含んだものだった。


「あたしもあんな風に戦えるようになりたい、って。だから、あれから毎日、訓練してるんだよ」


「すごい、いつの間に──」


 全然、気づかなかった。


 天才的な腕前だけではない。それを裏打ちするだけの努力を実践している少女騎士に、今度は冥が憧憬の眼差しを送る。


「龍王機の操縦でも同じようにできれば、あたしはもっと強くなれる。あたしとサラマンドラの烈炎槍破(ブレイジングスピア)だって、もっと強く──」


 がうんっ!


 同時に銃声が響く。


 ドルトンの不意打ちだ。


 シエラは無造作に槍を振るい、その銃弾を弾き落とした。


「てめえ……!」


「隙ができたとでも思った? 甘いよ」


 こともなげに告げて、シエラは槍の穂先をドルトンに向ける。


「……人間にも、とんでもない戦闘能力を持った奴がいる、って聞いたが、お前がそうらしいな。ど畜生。だが龍王機ではこうはいかねぇ」


 ドルトンは不快げな顔で地面に唾を吐いた。


「銃で勝てなくても……俺の龍王機が、勇者の龍王機を倒せばすむことだ。その功績で、こんな底辺の第一層からはとっとと抜け出して、上の層の支配エリアをもらってみせる」


「龍王機の勝負なら負けない」


 冥の表情が引き締まった。


「そして、このエリアを解放する」


「……龍王機絡みになると、とたんに凛々しくなるんですよね」


 ユナが背後でぼそりとつぶやいた。


「行軍のときも、これくらい──」


「そ、それはもういいってば」


 冥が振り返って抗議する。


「と、とにかく、魔族は一騎打ちを挑んでるってことでしょ? じゃあ、僕は今から龍王機を持ってくるから……」


 今一つ締まらない雰囲気のまま、背後に走り出す。

 少し離れた場所に、輸送車に乗せたエルシオンがあるのだ。


「おっと、そうはいかねぇよ!」


 刹那、地面が沈んだ。

 流れる砂に足を取られ、冥がつんのめる。


「えっ……!?」


 砂の大地が崩れ始めていた。


「これは──」


 シエラがハッと叫ぶ。


「そこはもともと流砂地帯だ。俺の魔法で普段は固めてあるが、いつでも解除できる」


 ドルトンが笑った。

 そういえば、ユナが「この辺りに流砂地帯がある」と注意していた気がする。


「さ、さっき、一対一で戦うって──」


 抗議する冥。


「ばーか! 龍王機に乗って、正々堂々と戦うなんて言ってねぇよ!」


 ドルトンはせせら笑った。


「メリーベルもシフォンも馬鹿正直に正面から挑むからダメなんだ。勇者を倒す一番手っ取り早い方法はな──」


 砂の流れはどんどんと早くなる。

 あっという間に激流と化す。


「龍王機に乗る前にとっととぶっ殺しちまうことさ!」


 猛烈な勢いで流れる砂の渦に、冥たちは呑みこまれていく──。

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