表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/117

9 闇の予兆

 気が付くと、冥は極彩色の光の中にいた。


 まばゆい輝きの中心部に、黒い何かがある。


 いや……目を凝らせば、それは人のようだった。

 誰かが、いる。


「君は……」


「やっとここまで来たね」


 声が響く。


 まぶしくてよく見えないが、どうやら黒いローブをまとった人影らしい。


「紋章には『心』を司る力がある。その力でお互いの精神をリンクさせた」


「精神を……リンク……」


「心を通わせている状態、ってところかな。こうでもしないと接触できないからね。今は、まだ──」


 人影が苦笑したようだった。


「君は……誰?」


「見せたいものがあって来たんだ」


 問いかけには答えず、人影が告げた。


「うっ……!?」


 次の瞬間、視界が暗転する。

 目の前がスクリーンのようになり、何かの映像が映った。


「あれ……は……」


 天空に浮かぶ、八つの巨大な大陸。


 階層世界クレスティアだ。

 その大陸の一つ一つが──第一層から第八層までのすべてが、音を立てて崩れ、消え去っていく。


 まさしく世界の崩壊だった。


「クレスティアが──」


 さらに目を凝らすと、第八層の上空で二つの人影が対峙していた。


 白い鎧をまとった黒髪の少年。

 桃色の髪をなびかせ、白いドレスを着た少女。


 二人はともに宙に浮かび、数メートルの距離で向き合っている。


「僕と……ユナ……!?」


 互いに怒りの表情を浮かべているように見えた。

 憎んでいるようにすら、見える。


 時折、天空から雷鳴が響き、黄金の稲光が二人の姿を照らす。


 次の瞬間、二人は同時に動いた。


 冥が勇者の剣で斬りかかる。

 ユナが魔法でそれを迎え撃つ。


 二人の間に無数の銀光と爆光が閃き、激突しては離れ、離れては激突する。


 死闘だった。


「やめ……ろ……」


 冥は思わずうめいた。


 ──ゆうしゃさま──


 幼女だったユナの笑顔が脳裏をよぎる。


 彼を慕う、あどけない笑顔。


 そして同い年の少女として再会した、現在のユナの顔が次に浮かんだ。


 凍りつくような瞳。

 勇者を裏切り者と断罪し、他者を信じることを止めた冷徹な顔。


 だけど、その心は昔と変わらず優しいままだ、と信じていた。


 ユナは、誰よりも大切な仲間だ。

 昔も、今も。


「こんなのは、駄目だ……」


 見ているだけで、胸が苦しくなる。


 目の前では死闘が続いていた。


 冥が剣で斬りつけ、ユナが魔法で迎え撃つ。

 互いに傷つき、傷つけあい、血を流しあう。


 そして生身の戦いは、やがて龍王機同士の戦いへと移行した。


 白い愛機を駆る冥に、ユナが黄金に輝く機体で突進する。

 エルシオンとディーヴァだ。


(なんだ……これ……?)


 意味不明の光景の連続だった。


 これはおかしい。

 あまりにも──おかしい。


 冥がユナと戦うはずがない。

 戦いたいとも思わない。


 なのに、互いに剣や魔法で殺し合おうとしている。


 おまけにユナが──龍王機に乗れないはずの彼女が、ディーヴァに乗って冥と戦い、殺そうと──。


「いいかげんにしろ……!」


 冥は怒りの声を影に叩きつけた。

 悪趣味にもほどがある。


 一体、こんな映像を見せて、彼は冥に何をしたいのか。


「なんなんだよ! なんなんだよ、これは……!」


「予言さ」


 影が笑う。


「いずれ、この世界で起こる最後の戦いの──ね」


「何が予言だ! こんなの、おかしいよ! 全部でたらめだ!」


 冥は叫んだ。

 絶叫が、光の空間いっぱいに響き渡る。


「……信じたくなければ、それでいい。未来は不確定だ。この通りになるとは限らない」


 影の笑みが濃くなった。


 光の加減が変わったのか、その顔がわずかに照らされる。

 逆光で見えなかった顔が、少しだけ判別できた。


「あ……」


 冥が言葉を失う。


 風もないのになびく黒髪。

 そして、目元を覆うゴーグル。


(こいつ、まさか──)


 ハッと顔をこわばらせる。


「楽しみだよ。君と彼女がいずれ憎しみあうのか、それとも予言を覆して心を通わせるのか──」


「僕が、ユナと戦うはずがない」


 冥がうめいた。

 だが、その声には力がない。


「……君が知らない真実を知ってもなお、そう言えるかな?」


「真実……だと?」


「今回の戦いの……そして、魔王の──」


 黒い人影の声が徐々にくぐもっていく。


 その姿が、ゆっくりとかすんだ。

 まるで陽炎のように揺らぎ、薄れていく。


「……アクセスできるのは……まだ……これくらいか。もっと……濃密な、想念が……必要……」


 ザザ……と声にノイズが混じり出した。


「待ってるよ、竜ヶ崎冥」


 声が告げた。

 その声には、どこか聞き覚えがあった。


(だけど、どこで……?)


 記憶がはっきりしない。

 意識がはっきりしない。


 やがて、冥の視界はだんだんと薄れていき──。




「……さま? 勇者さま!」


 気が付くと、ユナが心配そうに見つめていた。

「どうかなさったのですか? 突然、立ち尽くして」


「あれ……? ここは──」


 元の、祭壇の前だ。

 ユナに紋章を渡そうとしていたところだった。


(さっきのは、なんだったんだ)


 冥とユナが、剣と魔法で戦う光景。

 そして互いに龍王機に乗り、殺しあう光景。


(変な幻を見ただけだ。そうに決まってる)


 だが、心の隅に小さな不安は残った。




 こうして。


 消えない、黒い予兆を残したまま──。

 西エリア攻略戦は終わりを告げた。

面白かった、続きが気になる、と感じていただけましたら、最新話のページ下部より評価を入れてもらえると嬉しいです(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人を寝取られ、勇者パーティから追放されたけど、EXスキル【固定ダメージ】に目覚めて無敵の存在に。さあ、復讐を始めよう。
Mノベルス様から書籍版1巻が10月30日発売されます! 画像クリックで公式ページに飛びます
et8aiqi0itmpfugg4fvggwzr5p9_wek_f5_m8_5dti

あらすじ

クロムは勇者パーティの一員として、仲間たちともに魔王軍と戦っている。
だが恋人のイリーナは勇者ユーノと通じており、クロムを勇者強化のための生け贄に捧げる。
魔力を奪われ、パーティから追放されるクロム。瀕死の状態で魔物に囲まれ、絶体絶命──。
そのとき、クロムの中で『闇』が目覚める。それは絶望の中で手にした無敵のスキルだった。
さあ、この力で復讐を始めよう──。


   ※   ※   ※

【朗報】駄女神のうっかりミスで全ステータスMAXになったので、これからの人生が究極イージーモードな件【勝ち組】
(新作です。こちらもよろしくお願いいたします)


あらすじ

冒険者ギルドの職員として平凡な生活を送っている青年、クレイヴ。
ある日、女神フィーラと出会った彼は、以前におこなった善行のご褒美として、ステータスをちょっぴり上げてもらう。
──はずだったのだが、駄女神のうっかりミスで、クレイヴはあらゆるステータスが最高レベルに生まれ変わる。
おかげで、クレイヴの人生は究極勝ち組モードに突入する!
大金ゲットにハーレム構築、さらに最高レベルの魔法やスキルで快適スローライフを実現させていく──。



小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ