12 VS九天守護神
「僕らの力は互角じゃない。基本能力は五分でも、今の君は激しく疲労しているはず。だから──僕が勝つ」
さらに二閃、三閃。
エルシオンの攻撃は、冥の読みの先を行っていた。
疲労した冥の龍心眼より、体力全開である黒い冥の龍心眼の方が精度が上なのだ。
「まずい……」
冥は唇を噛んだ。
「このままだと、やられる」
龍心眼が互角なら、機体性能で押し切ることができる、と踏んでいた。
だが互いの龍心眼に優劣がついている、今の状態なら──。
機体の性能差は意味をなさない。
龍心眼とは、それをひっくり返すことができる力なのだから。
冥はその力で、ここまで勝ち続けてきたのだから──。
「終わりだね! そして今度こそ──僕が真の竜ヶ崎冥となる!」
黒い冥が哄笑する。
エルシオンが左右の剣を振りかぶった。
──避けられるか。
冥は自問する。
エルシオンの構えを、わずかな重心の変化を、駆動音の高まりを、大気の熱を、空気の流れを──あらゆる状況を感じとり、未来の動きを予測する。
予知にも等しい、その先読みこそが龍心眼の力だ。
だが、相手も同じことができる。
こちらの先読みを、さらに先読みし、こちらはそれをまた先読みして──。
結局は、読み合いの勝負。
ならば、体力が万全の状態の黒い冥のほうが精度は上である。
駄目だ、どうやっても競り負ける──。
冥の龍心眼がそう結論を出した。
「さあ、幕引きだ!」
叫んで、エルシオンが突っこんできた。
冥はディーヴァを斜め後ろに後退させる。
フェイントを交え、相手の攻撃をいなそうとする。
だが、それが読まれていることも分かっていた。
最後には相手の読みが上回り、ディーヴァをどう動かそうとも剣で切り裂かれるだろう。
あと一手欲しい。
黒い冥が予測できない、何かが。
もしもその一手で、相手の動きをわずかでも崩すことができれば──。
そこから派生する動きを先読みし、冥が一歩先へ行ける。
逆転のチャンスがあるとすれば、そこだけだ。
「まず腕を奪う! 抵抗できないようにね!」
エルシオンの右の剣がうなりを上げ──、
ごうんっ!
その瞬間、爆光が弾けた。
「っ……!?」
「私を忘れないでくださいね」
ユナが全身から魔力のオーラを放ち、凛と告げる。
「今のは、ユナの魔法……!?」
エルシオンの背後に無数の火球や雷撃弾が出現し、いっせいに着弾したのだ。
「私の行動を読みに入れてなかったのですか? 龍王機戦では、私は取るに足りない存在だと?」
「くっ、貴様……!」
背部に受けた爆発の衝撃で、エルシオンの体が大きく揺らぐ。
「私の魔法で龍王機を倒すことはできない。でも、バランスを崩すことくらいはできます」
エルシオンは、まだ体勢を立て直せない。
最新型の龍王機ならともかく、旧式のバランサーでは時間がかかるのだ。
最新型に比べて、数秒ほど。
超越の予測能力を持つ冥にとっては、値千金の数秒。
そして──相手にとっては、致命の数秒だろう。
「さあ、冥。今こそ」
ユナが冥を見つめた。
この局面を持ってくるためだけに、ずっと狙っていたのだろう。
「すべてを終わらせましょう」
「ありがとう、ユナ」
土壇場で最高の働きをしてくれた仲間に──愛しい少女に冥は微笑んだ。
「いくぞ、ディーヴァ」
ディーヴァに剣を構えさせる。
同時に四枚の翼が大きく広がった。
サブアームになっている翼の先端から、それぞれ剣が伸びる。
「祝福の雷閃・六聖斬!」
エルシオンの奥の手をディーヴァで再現したこれは──いわば六刀流の斬撃だ。
閃いた六つの輝きが、エルシオンの左右の剣を弾き、二枚の翼を斬り飛ばし、左腕を切断し──最後にコクピットハッチを切っ先でこじ開けた。
「僕が……負ける!? そんな──」
愕然とした様子の黒い冥が見えた。
冥はディーヴァのコクピットハッチを開き、彼を見据える。
距離は五メートルほどだろうか。
互いの視線が絡み合い、火花を散らした。
「悪いけど、竜ヶ崎冥は僕だ。僕の存在をお前に渡すことはできない」
黒い冥に言い放つ。
「これからも僕は僕として生きていきたい。大切な人たちと一緒に」
かたわらのユナを横抱きにした。
「僕は……消えるのみ、か」
黒い冥がつぶやいた、そのとき。
上空から飛来した輝きが、彼の胸元を貫いた。
「が……はっ……!?」
「えっ……!?」
黒い冥の苦鳴と、冥の驚きの声が重なる。
「な、何だ、一体……!?」
慌ててコクピットハッチを閉めた。
が、そのときにはすでに二撃目が飛んできていた。
レーザー光線に似たその輝きが、ディーヴァの両足を吹き飛ばした。
あと2話で完結予定です。
もう少しだけお付き合いいただけましたら幸いです<(_ _)>
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