11 光と闇の決戦
冥の剣が、白いモヤのような世界を切り裂く。
次の瞬間、景色が反転し、切り替わった。
「っ……!」
目の前にユナがいた。
驚いたような顔でこちらを見ている。
「元に戻れた……のか」
自分の体を見下ろした。
「くっ……」
体の力が、抜ける。
黒い冥に乗っ取られていた影響なのか、異常なほど体力を消耗していた。
「おのれ……!」
目の前には、その黒い冥がいる。
「弾き出された、か……!」
悔しげにこちらをにらんでいる。
意識内の世界で黒い冥を倒したことで、乗っ取られた状態から、彼を外に追い出せたようだ。
「もういい。お前を殺せば済むことだ」
憎々しげな眼光が冥に浴びせられた。
「お前の体を乗っ取ることにこだわる必要なんてなかった。この精神さえあれば──本物の肉体なんてなくても、僕こそが竜ヶ崎冥だ。お前さえ殺せば、ね!」
言って、黒い冥は身をひるがえす。
「行くぞ、エルシオン。僕とともに敵を殺す」
ヴ……ン、とエルシオンのカメラアイが光る。
だが、その光は悲しげに見えた。
冥には、愛機の悲しみを感じ取れた。
「お前だって、本当はあんな奴と一緒に戦いたくないよな……」
「ディーヴァで立ち向かいましょう、冥」
と、ユナ。
「ディーヴァ? そうか、ここまで持ってきたんだね」
「ええ、シエラに操縦してもらって……」
言ったところで、どさり、と音がした。
振り返ると、シエラが倒れている。
先ほど、黒い冥が生み出した檻はいつの間にか消滅していた。
おそらく冥が彼を打ち破ったことによるのだろう。
「大丈夫ですか、シエラ?」
「はあ、はあ、はあ……力が……入らない……」
黒い檻に捕らわれていた影響か、シエラの声は弱々しい。
戦える状態ではなさそうだった。
「大丈夫。後は僕がやるよ。この──ディーヴァで」
後方に待機している黄金の機体を振りかえる。
実際に操縦するのは、シエラとの模擬戦以来だ。
「冥、私にも戦わせてください」
「えっ」
「シエラほどではありませんが、あなたも消耗しているようです」
確かに、体力をかなり失っていた。
「……あいつに乗っ取られていたせいか、体調が万全じゃないんだ」
ユナに説明する冥。
意識の中での戦いとはいえ、命のやり取りを繰り広げたのだ。
思った以上に身も心も消耗してしまったらしい。
体が鉛のように重いことに、今さらながらに気づく。
「おそらく、相手は冥と同じ力──あるいは似た力を持つ存在。消耗した状態では不利です」
「ユナ……」
「その分を、私が補います。手伝わせてください」
ユナが冥を見つめた。
「あなたを守りたいのです」
「……分かった。一緒に戦おう」
冥はユナとともにディーヴァに乗りこんだ。
前方には、黒い冥が乗ったエルシオンがいる。
予言とは少し違うが、おおむね似たような形になったわけだ。
──冥とユナの戦い。
──そして冥が乗ったエルシオンと、ユナが乗ったディーヴァの戦い。
「いくよ、ユナ」
冥はかたわらの少女に告げた。
「ええ、あなたとともに」
こくん、とうなずくユナ。
「これが──最後の戦いだ!」
言って、冥はディーヴァを前進させた。
二機はともに地を蹴り、大きく跳び上がった。
第八層の上空で、黄金の騎士と純白の騎士が向かい合う。
「いくぞ、本物として君臨するのは──この僕だ!」
エルシオンが翼状のバインダーを開き、バーニアを全開にして向かってきた。
冥もディーヴァの背部にある四枚のバインダーを開く。
同じく推力全開でエルシオンを迎え撃った。
冥と黒い冥は、同じ能力を持っている。
龍心眼。
そして覇王の領域も、おそらく相手も使えるのだろう。
乗り手の力が五分なら、勝敗の要となるのは龍王機の力だ。
性能なら、ディーヴァの方がはるかに上回っている。
「このまま──押し切るっ」
冥はその性能に任せて、押しこんだ。
クレスティアに二度目の召喚を受けてから、シエラとの模擬戦を除けば、自機が相手の性能を上回っている戦いは初めてだ。
いつもならば性能の低さを、自身の先読みで補うのだが、今回は違う。
『機体性能の差』というアドバンテージをいかに保つか、という戦い方だ。
「勘違いしていないか、冥」
黒い冥が笑った。
「くっ……!?」
エルシオンの剣を避けきれず、ディーヴァの胸元が切り裂かれた。