10 光と闇の対峙
「僕は……」
軽く頭を振る。
少しずつ意識がはっきりしてきた。
そう、自分の心の中で、黒い鎧をまとった冥と出会い、戦い、そして打ち倒された。
「あいつに、僕は──」
眼前にスクリーンのようなものが広がり、『外』の光景が映し出された。
「あれは──」
冥は驚きに目を見開く。
黒い鎧をまとった冥が、ユナやシエラと向き合っていた。
戦っている──。
剣から漆黒のエネルギー波を放つ、黒い冥。
ユナが魔法でそれを防ぎ、シエラが槍で打ちかかる。
だが、黒い冥が手をかざすと、紫色のエネルギーの檻が現れ、彼女を閉じこめてしまった。
残るは、ユナだけだ。
「やめろ! 二人に手を出すな!」
叫ぶものの、冥の声は外まで届かない。
そこでハッと気づいた。
「これって──」
第一層で見た、予言のような光景そっくりだ。
第八層で対峙し、戦う冥とユナ。
やがて二人の戦いは龍王機を使ったものへと移行し、冥のエルシオンとユナのディーヴァが激突していた。
「予言通り……なのか」
ごくりと喉を鳴らす。
その間も、黒い冥とユナは戦っていた。
斬撃と魔法。
強大な力を持つエネルギー同士がぶつかり合い、火花を散らす。
黒い冥──それは、冥自身の心の一部。
クレスティアへの渇望と、現実世界への不満や失望などが合わさった想念が、この世界で実体化したもの。
「嫌だ……駄目だ……」
冥の大切な少女たちを、冥自身の心が殺そうとしている。
「そんなの、絶対駄目だ……なら、僕が」
自分の心ならば、自分で封じるしかない。
自分で、乗り越えるしかない。
「そうだ。僕は──」
告げる。
「僕が、竜ヶ崎冥だ」
自分の名を。
「他の誰にも渡さない。たとえ僕の中にどんな心が眠っていようとも──どんな醜い感情があっても、それを乗り越えて、大切なものすべてを守れるように、強くなる。なってみせる!」
はっきりと──強い意志を込めて。
同時に、全身を白い鎧が覆った。
右手には勇者のための剣が。
「僕は自分の弱さを否定して、ここから──出る!」
それを振りおろし、白いモヤを切り裂いた。
一閃──。
空間が大きく裂ける。
どくん、と胸の鼓動が痛いほどに高鳴った。
どくん、どくん、どくんっ、どくどくどく……どくんっ!
胸が破れそうなほど早鐘を打ち、全身の血が沸騰しそうなほど熱くなる。
自分の中の何かが燃え盛っているような感覚。
自分の中にある『異物』が暴れ回っているような感覚。
そして──。
空間の裂け目から、黒い鎧をまとった冥が現れる。
「胸の中が妙に騒ぐから戻ってきてみれば……貴様、まだ動けたのか!」
黒い冥が、忌々しげに叫んだ。
剥き出しの敵意が吹きつけてくる。
自分こそが本物の竜ヶ崎冥だ、と彼は言っていた。
自己の存在を肯定するために──彼にとって、冥は存在してはならない不純物。
永遠に封じこめておかなければならない『敵』──ということか。
(でも、僕だって)
一方的に、打ちのめされてなんていられない。
彼が自分自身を守るために戦うならば。
僕は──大切な人たちを守るために戦う。
そのための『僕』を、ここで確立する。
勝ち取ってみせる──。
「今度こそ負けない。僕はお前に勝って──自分自身を取り戻す」
「やってみろ! また叩きのめしてやる」
どう猛に吠え、斬りかかる黒い冥。
冥は剣を構えてそれを待ち受けた。
剣術の心得などない。
龍王機ならともかく、生身での戦いはとても得手とは言えない。
だが、この勝負だけは負けられない。
「本物は僕だ! 貴様なんてぇぇぇぇっ!」
「悪いけど、僕も譲れない」
打ち下ろされた剣を、冥は勇者の剣で受け止めた。
先ほどの戦いでは圧倒された。
黒い冥の正体に驚き、その思いに気圧されていたのだ。
同時に、今回の戦いの発端が自分の心だと知らされ、打ちのめされたこともある。
「だけど──いや、だからこそ!」
自分の手で終わらせなければならない。
「お前は僕の一部だ。この世界の人たちをこれ以上苦しめることは許さない!」
「だから否定するのか? 僕を殺すのか?」
「殺すんじゃない」
冥が押す。
想いのすべてを込めて、押しこむ。
「乗り越えるんだ!」
さらに──押す。
「くっ……」
バランスを崩した黒い冥を。
勇者の剣が、切り裂いた──。
お昼の日間総合ランキング(連載中)で下のほうに入っていました。ジャンル別はともかく総合にまで届くとは思っていなかったので、とても嬉しいです(*´∀`*)
さすがにここがポイントのピークだと思うので、後はたぶん落ちていくだけw
最終回前にいい記念になりました。
ここ数日は特にブックマークや評価ポイントが伸びていて励みになっています。
本当にありがとうございました!
あと4~5話で完結予定です<(_ _)>