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9 勇者と姫と少女騎士

 ユナはシエラとともにディーヴァのコクピットに乗りこんだ。


「私が、龍王機を操縦できたら──」


 唇をかむ。

 龍王機に乗るためには、機体との『同調』が必要になる。

 その適性がユナにはなかった。


(冥を救うための戦いで、もっと力になりたいのに──)


 歯がゆかった。


「大丈夫だよ、姫さま……ううん、ユナちゃん」


 シエラが昔の呼び名で、ユナに微笑みかける。


「二人で一緒に、勇者さまを取り戻そう。あたし、ユナちゃんが一緒にいてくれるだけで心強いよ。勇気が湧いてくるよ」

「……ありがとう、シエラ」


 親友の心遣いに礼を言うユナ。

 そうだ、龍王機の操縦はできなくても、自分にできることはきっとあるはず。

 それを見つけるのだ。


「行きましょう」

「だね」


 ディーヴァは発進した。


 四枚の翼を開き、スラスターを全開。

 大気を切り裂いて、あっという間に第七層から離脱する。


 さすがに最新鋭機だけあって、ディーヴァの性能は圧倒的だった。

 すさまじいスピードで数分のうちに第八層まで到達する。

 と、


 ごう……んっ!


 轟音とともに、巨大な黒い城が崩れ落ちた。


 魔王城だ。

 着いた早々、すでに第八層が落とされているとは。


「他愛もない。第七層の魔族たちでここを守りきるんじゃなかったのか?」


 嘲笑が響く。

 冥そっくりの声だ。


 エルシオンが魔王城を守っていた敵軍もろとも城を破壊したのだろう。

 城の瓦礫の上に、白い機体が降り立った。


「冥の──いえ、あの者の仕業ですね」


 つぶやくユナ。


「ここまで来たのか」


 エルシオンがこちらを向いた。

 コクピットハッチが開き、黒い鎧をまとった冥が地面に降り立つ。


「私たちも行きましょう、シエラ」

「うん、ユナちゃん」


 ディーヴァをその前に着地させ、ユナはシエラとともに地面に降りる。

 冥の元まで進んでいった。


「魔王城は破壊した。次は魔族どもを皆殺しにする。どうだい、二人とも? 僕こそがクレスティアを救った勇者だ。前回よりもはるかに強い魔族軍を、この僕が打ち倒したんだ」


 黒い冥が笑う。


「さあ、二人とも僕の元へ来るんだ。君たちを娶り、僕はこの世界で末永く幸せに暮らすとしよう。永久に語り継がれる勇者として──竜ヶ崎冥として」

「私が恋をしたのはあなたではありません」


 ユナはキッとした顔で彼をにらんだ。


「冥を返して」

「そうだよ。あたしだって──」


 シエラも怒りの表情だ。


「勇者さまは、あなたなんかとは違う!」

「──まだ僕を認めないのか」


 黒い冥の表情が醜く歪んだ。


「魔王城を攻略したのは僕だぞ。竜ヶ崎冥は僕だ!」

「何度でも言います──それは違う、と」


 ユナが首を振る。


「あなたは冥とは違う」

「そうだよ、あなたは勇者さまにはなれない」


 シエラが静かに告げる。


「勇者さまが勇者さまである証は──強さだけでは示せない」

「ふざけるな……!」


 黒い冥がうめく。


「あいつだって一騎打ちで僕が倒した! なぜ認めない! なぜ僕に心を寄せない! なぜ僕を愛さない! なぜだ!」


 絶叫だった。

 怒り、悲しみ、苦悩、嫉妬、憤怒、絶望──あらゆる負の感情が噴出したような叫び声だった。


 そんな彼を、ユナは悲しい思いで見つめた。

 恋しい少年そっくりの姿をした、けれど冥とはまったく違う少年の姿を。


「認めないなら、もういい」


 黒い冥が剣を抜いた。


「二人とも死ね。僕は、僕を認めてくれる者を探す」

「力でねじ伏せても、他者は心を開いてくれませんよ、冥」


 ユナが彼を見据える。


「それではまるで……勇者ではなく、魔王です」

「……!」


 黒い冥の表情がさらにこわばった。


「うぐっ……」


 苦しげに胸を押さえる。


「くそ、まだ僕の中で暴れるのか……鎮まれ……!」


 うめきながら、燃えるような目でユナをにらむ黒い冥。


「『魔王』が『僕』の本質だと? 違う! 魔王として振る舞ったのは、あくまでも手段だ。本当の僕は、誰からも愛され、誰からも敬われる勇者だ! だから──」

「認めない者は許さない、ですか? 冥はそんな人ではありませんよ」


 ユナは静かに諭した。


「彼は、ごく普通の少年でした。だけど、異世界であるこの世界の人たちのことを、私たちと同じように慈しみ、守ろうと体を張り、懸命に戦ってくれました。優しく、強く──そんな冥だからこそ、私は惹かれました」

「貴様……!」

「聞こえますか、冥」


 ユナは呼びかける。


 恋しい相手そっくりの少年に。

 その中にいるであろう、本当の冥に向かって。


「今、ほんのわずかですが──あなたの気配を感じました。彼の中に閉じこめられているのですか? ならば、私とシエラで助け出してみせます」

「要するに、悪い奴を倒して、勇者さまを取り戻せばいいんでしょ」


 シエラが得物である槍を構えた。

 ユナも魔法を使うべく、精神集中に入る。


「ちっ、僕と戦おうっていうのか? だったら──容赦はしない!」


 黒い冥は跳び上がって剣を掲げた。


「二人とも消し飛ばしてやる!」


 振り下ろされた剣から、漆黒のエネルギー波が放たれる。


「きゃあっ!」

「うああっ!」


 弾けた爆光が、ユナとシエラを吹き飛ばした。


    ※


 大切な人たちの悲鳴が聞こえる。

 想いを寄せてくれる少女たちの、呼ぶ声がする。


 いつまでも眠っている場合じゃない。


 自分を失ったまま──終わるわけにはいかない。


「うっ……」


 ほんの少し、眠っていたらしい。

 目を覚ました冥が目にしたのは、白いモヤが漂う空間だった。

異世界転生転移・その他の日間ランキング9位まで上がっていました。

もう少しで日間総合ランキングに入りそうですねw


今まで一度も日間総合に入れたことがなかったのですが、まさか最終回近くでこんなに上がるとは……何度も中断してしまったのに読んで下さっている方や、新規に読んで下さっている方、本当にありがとうございます。


感想やブックマーク、評価など励みになっております。感謝(*´∀`*)

あともう少しで完結しますので、よろしければお付き合いいただけましたら幸いです。

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そのとき、クロムの中で『闇』が目覚める。それは絶望の中で手にした無敵のスキルだった。
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   ※   ※   ※

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