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2 強敵、第七世代機

 冥たちの進軍が始まった。


 目的は、魔族に奪われた『紋章』を取り戻すこと。

 四つの紋章をすべて取り戻せば、魔族に変えられた第一層の住人を元に戻すことができるのだ。


 クレスティアの各層は東西南北の四エリアに分かれている。


 最初に向かうのは森林地帯が広がる西エリアだった。


「森林っていうか……ほとんどジャングルだよね、これ」


 熱帯特有の体にまとわりつくような湿気が不快だった。


 おまけに茂みで足を取られるし、周囲のいたるところから飛び出している枝や葉をかき分けないといけないし、進むのにも難儀するほど。


 冥が来ている勇者の衣装は通気性がよく、動きやすいのだが、それでもすぐ汗だくになってしまった。


「森林の奥に魔族の要塞があるんだっけ?」


 タオルで汗を拭きながら、冥。


「あとどれくらいかかるの?」


「それほど遠くはありません」


 隣を歩くユナが言った。


 普段のドレス姿ではなく、今は行軍に適した軽装だった。

 短いスカートからのぞく白い太ももが目にまぶしい。


「あと四キアラくらいでしょうか」


 ちなみにキアラとはこの世界の単位で、現実世界の一キロとほぼ同じだ。


「あと四キロか」


 ふう、とため息をついた。


 森林をかき分けながらの四キロは、たぶん平地での二倍、いや三倍くらいの疲労を感じるはずだ。


(体感なら、あと十二キロくらいか……はあ)


「勇者さまは輸送車に乗ってよいのですよ」


 ユナの言葉に背後を振り返る。


 エルシオンは巨大なトレーラーに乗せて移動中だ。

 運転は兵士たちが順番に行っていた。


「うーん、勇者が皆の前で楽すると、示しがつかないっていうか」


 変なところで頑固だな、と自分でも思う。

 とはいえ、女の子のユナやシエラたちを差し置いて、自分だけ楽な場所にいるのも気が引けた。


「ユナこそ、助手席に座ったほうがいいんじゃ?」


「指導者として、自分だけが楽をするわけにはまいりません」


 ユナが言い放つ。


「じゃあ、僕も楽できないよ。ユナと同じ理由で」


「……そうですか」


「うん、そうそう」


 にっこり笑うと、ユナが釣られたように少し微笑んだ。


 普段クールな態度を崩さないだけに、こういう笑顔を見られたのは嬉しい。

 暑さで削られていた体力が、少しだけ回復する。


「西エリアを支配する魔族──シフォン・ディグラムが守る要塞には、以前にも一度攻撃を仕掛けています」


 ユナが真顔に戻って説明した。


「連合にとって、人類圏の奪還を賭けた勝負でした」


「僕が召喚される前か」


「ええ。シエラのサラマンドラと兵士たちのエッジ七機で攻めたのですが、結果は……」


「あはは、面目ない」


 シエラが頭をかきながら、冥たちの元に歩み寄る。

 ばつが悪そうな顔だ。


「あの戦いでぼろ負けしちゃったから、最後の手段である勇者召還に踏み切ったんだよね、姫さまは」


「笑いごとではありませんよ」


 ムッとした顔のユナ。


「でもさ、はっきり言って、シフォンの龍王機は反則だよ。世界に数機しかない試作型の第七世代機だもん」


 シエラが反論する。


 ちなみに、この世界に配備されている龍王機は主に第五世代機だ。

 そしてシエラのサラマンドラや、前に戦ったセイレーンなどは最新鋭である第六世代機。


 が、その上に──試作型とはいえ、第七世代機というものが存在する。


 まさしく魔導科学の最先端を行く超兵器らしい。


「パワーもスピードも突出してるし。性能だけで押し切られちゃったもん」


「そんなにすごいんだ?」


 冥の問いかけに、シエラはため息混じりにうなずいた。


        ※ ※ ※


「ふん、人間どもがこのあたしのエリアにちょっかいかけてくるなんてな。身の程知らずもいいところだぜ」


 シエラの眼前には巨大な龍王機がいた。


 広大な森林の最深部に、支配者である魔族とその乗機がたずんでいる。


「『重装巨人(パンツァータイタン)』だ」


 乗り手である魔族シフォンが誇らしげに告げた。

 声からすると、シエラと同じくらいの年齢の少女だろう。


「こいつが──第七世代の龍王機」


 シエラは息を呑んだ。


 全身にまとった重装甲。

 両肩から突き出した禍々しいデザインの砲。

 右手に携えた柄の長い大斧。


 そして──通常の龍王機の二倍以上はあろうかというサイズ。


 いずれも、『巨人』の名にふさわしい威容だった。


「調子に乗るな、魔族め!」


 その巨人を七機の龍王機が取り囲む。

 人類連合の選りすぐりの兵士に支給された量産機『妖精の剣士(フェアリーズエッジ)』──通称エッジである。


 グレーのカラーリングで統一された七機の量産機が、前後左右の四方からタイタンに槍を突きつけた。


「これだけの巨体だ。動きは鈍いだろう」


 兵士の一人が勝ち誇る。

 年若い少女の声は勝気そのものだ。


「いくよ、皆! このまま串刺しにするっ」


「応!」


「待って、ルイーズ!」


 シエラは慌ててその兵士に呼びかけた。


 が、ルイーズの乗機を始めとした七機の動きは止まらない。


 四方から槍を突き出し、タイタンの巨体を貫き──。


 その姿が眼前から消えた。


「なっ!?」


「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い!」


 哄笑とともに、タイタンが七機の背後に現れる。


 その動きを捕えられたのは、シエラだけだろう。


 兵士たちにはまるで敵機が消えたように見えたはずだ。


 タイタンが巨大な斧を旋回させる。


 衝撃と突風で吹き飛ばされるエッジたち。


「一撃で七体を吹き飛ばすなんて──」


 恐るべきパワーとスピードだ。


 いや、恐るべきという範疇すら超えている。


 龍王機の常識を完全に覆すパワーとスピード。


「カカッ」


 奇妙な笑い声とともに、タイタンがサラマンドラに向き直った。


「今度はテメェか。赤いの」


 言うなり、両肩の砲から魔力弾を放つ。


「っ──!」


 慌てて回避行動を取った。


 危機一髪──。


 放たれた魔力弾は後方の森を飲みこみ、一瞬にして消滅させる。


「なんて火力──」


 おそらく、相手からすれば小手調べの一撃だったのだろう。


 それでも、受ければ一発で致命傷だ。

 背筋がゾッとなる。


「おっと、よそ見してていいのかよ」


 振り返ったときには、タイタンが突進を開始していた。


 一瞬にして間合いに侵入された。


 油断、していたわけではない。


 敵機の速度がシエラの想定を超えていたのだ。


 あまりにも──越えすぎていたのだ。


「そんな!?」


 愕然と叫ぶ。


 常識外れの性能だった。


 操縦技術の問題ではない。

 龍王機の基本的な運動性が違いすぎる──。

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