2 決戦に向けて
随分間が空いてしまいました。申し訳ありません。
なんとか最後まで書き切りたいところです。
第四層の戦いを終え、冥たちは今後の方針を話し合っていた。
「第五層には、サラマンドラの修理を終えてから行きましょう」
そう提案したのはユナだ。
第三層の戦いでサラマンドラは四肢を破壊され、戦闘不能状態になっている。
今までなら設備も資材もロクにない中での修理になり、時間を要したものだ。
だが、第四層を奪還したこれからは違う。
第四層にある最先端の整備工場を使えば、龍王機の修理や強化作業などは格段にはかどるだろう。
「整備長の報告によれば、修理にかかる時間はおおよそ三日。その間にエルシオンの改修も行います。そして、もう一つ──第一層で破壊されてしまった勇者専用機『烈界守護神』の修理も」
「ディーヴァ……を?」
冥がこの世界に召喚されて最初に迎えた実戦──メリーベルの急襲によって破壊されてしまった勇者専用の最新鋭機『ディーヴァ』。
それに乗り換えれば、冥はさらに大きな力を発揮することができるだろう。
「ここから先の階層で待ち受ける魔族は、より精鋭ぞろいになるはず。こちらも戦力強化は必須です」
ユナが言った。
「今まではあなたの技量で補ってきましたが、今後もそれが通用するとはかぎりません。何よりも──冥にいつまでもハンデを背負ったような戦いをしてほしくないんです」
こちらを見つめる瞳には、憂いの色が濃い。
きっと心配しているのだろう。
彼女は龍王機に乗る資質を持たない。
龍王機同士の戦いでは、魔法でサポートしてくれることもあるが、基本的には見守ることしかできないのだ。
それだけに、歯がゆい思いもあるのだろう。
だからせめて、もっと高性能な機体を与え、冥を手助けしたい──そんな思いが強いのかもしれない。
「……乗り換え、か」
正直、エルシオンとここまで一緒に戦ってきたから愛着はある。
最後まで愛機とともに戦い抜きたい、という一種の感傷もある。
だからといって、わざわざスペックの劣る機体で最後の戦いに臨むわけにはいかない。
これはゲームではなく、世界の命運をかけた戦いなのだから。
「ディーヴァの修復にはもう少し時間がかかるようですが、おそらく私たちが第八層に着くころには間に合うのではないか、と」
「分かった。そっちは修理が終わり次第、届けてもらうことにしよう。僕らはとりあえずエルシオンの改修とサラマンドラの修理が終わったら、すぐに第五層へ」
冥が自分の意見を述べる。
「魔王の軍勢に虐げられている人たちは、一刻も早く助けなきゃいけない。助けたいんだ。だから──」
「冥ならそう言うと思っていました」
「覇王の領域を会得したし、ディーヴァがなくても遅れは取らないよ」
「頼もしいね、勇者さま」
反対側からはシエラが寄ってくる。
「……そうですね」
なぜかユナが表情をわずかに険しくして、冥の腕にしがみついた。
「あ、負けないから」
シエラも少しだけ眉を寄せつつ、ユナとは反対側の腕にしがみつく。
「あ、あの、二人とも……?」
戸惑いつつも、冥は満更でもなかった。
大切な仲間であり、淡い想いを意識する彼女たちと体を寄せ合うのは。
柔らかな体や息遣いを感じ、微笑み混じりに見つめあうのは。
連戦で疲れていた心が、急速に癒されていく。
「戦いの合間くらい、こうしてあなたを感じていてもいいでしょう?」
「あたしも、あたしも~」
美少女二人に左右から寄り添われた格好だ。
しかも二人の柔らかな胸元が二の腕に思いっきり押しつけられている。
話し合いが終わり、冥は一人で整備工場に向かった。
激戦を潜り抜けてきたエルシオンも、全面的に改修中だ。
白い装甲の大半を外され、フレーム部が剥き出しになった愛機を、冥は見上げた。
「最後まで一緒に戦いたかったけど、いったんお別れみたいだ」
語りかける。
「今までありがとう。お前がいなければ、僕はここまで戦えなかった」
感謝を込めて、告げた。
万感の思いを込めて、礼を言った。
冥にとってエルシオンは単なる戦闘機械ではない。
最初に召喚されたときも、今回も──ずっと一緒に戦ってきた、戦友だ。
「──またね、エルシオン」
つぶやき、冥は背を向けた。