1 進化する力
随分と間が空いてしまいました。久々に投下……(´・ω・`)
あいかわらず不定期更新ですが気長にお待ちいただけましたら幸いです<(_ _)>
林立する高層ビル群は、まるで現実世界に戻ってきたような錯覚を受ける。
第四層はクレスティアでも随一の、科学文明が進んだ階層だ。
──冥たちはまず東エリアに進んだ。
周囲の建物に比べても、一際高い塔のようなビル。
ここが東エリアを支配する魔族の本拠なのだ。
冥はエルシオンに乗り、ユナたちを守りながら進む。
「人類連合の勇者とやらか。ふん、そんな旧型機で攻めてくるとは!」
と、最上階からエリア支配者たる魔族が降りてきた。
乗機である巨大な龍王機に乗って。
「かつての大戦ではそのポンコツが魔王様を討ったらしいが、もはや時代は変わったのだ! この俺様が今、勇者伝説を打ち砕く!」
自信たっぷりに叫ぶ魔族と龍王機を、冥はコクピット内で静かに見つめた。
自分でも不思議なほど落ち着いていた。
戦いの場だとは思えないほど、穏やかな心境だ。
「見える──」
小さく息を吐き出す。
見る。
視る。
集中する。
感じ取る。
敵機のわずかな挙動を。
大気のかすかな揺らぎを。
大地の微細な震動を。
そしてそこから導き出される、相手の動きの先を。
その、先までを──。
「ん、何が見えるって──?」
魔族が聞き返したときには、すでにエルシオンは動いていた。
黄金の剣を一閃する。
そこへ敵機が突っこんできた。
まるで自分から斬られに来たような格好で。
「えっ……?」
呆気にとられたような、魔族の声。
一瞬にして四肢を断たれた魔族の龍王機は、その場に崩れ落ちた。
戦いにすらなっていない。
「冥──」
「勇者さま……?」
背後で呆然としたユナと、驚いたようなシエラの声が聞こえた。
傍から見れば、エルシオンが突き出した剣に、魔族の龍王機が突進し、自滅した──としか見えないだろう。
だが、違う。
冥は相手の動きを完璧な精度で読み切り、相手の進行ルートに向けて剣を出しただけ。
絶対に避けられない、ぎりぎりのタイミングを見極めて。
すべての予測と、すべてのタイミングが完璧にそろわなければ実現不可能な、まさに神域の動き。
「……完全に自分の意志で入れるみたいだ」
冥は軽く息を吐き出した。
覇王の領域。
今までは偶発的にしか入れなかった、その領域に──冥は自在に入ることができるようになっていた。
第三層でアッシュヴァルトとの死闘を繰り広げ、その中で会得したのだ。
今の冥には、並の敵などその動きが丸裸だった。
これまでとはけた違いの精度で先読みが可能だ。
先ほどのように、敵が動く先に剣を繰り出し、相手は自ら攻撃を受けにいくような格好で倒される。
どれほどパワーがあろうと、スピードがあろうと、どこにどう動くのかを前もって知っていれば対処は簡単だった。
ならば、相手がアッシュヴァルト以上でない限り、勝利は絶対だ。
苦戦すらもあり得ない。
たとえ自機の性能が、敵機より圧倒的に劣っていたとしても。
「──行こう、ユナ、シエラ」
冥は力強く告げた。
「足踏みはしない。この第四層は一気に駆け抜けるぞ」
いや、その先の第五層も、六層も、七層も──。
魔王がいる第八層まで最短距離で突っ走る。
そして、クレスティアを救うのだ。
勇者として、必ず。
──その後も、冥の快進撃は続いた。
「お前が勇者か! だが最新鋭の第七世代機を与えられた俺に勝てるか──がっ!?」
魔族の口上すら最後まで言わせず、エルシオンの剣が一閃した。
「悪いけど、先を急ぐ」
冥は静かに告げた。
性能差など、もはや関係ない。
今の相手は、第一層で初めて戦ったときに手こずらされた第七世代の龍王機だ。
だが、どれほどパワーやスピードに差があろうと、今の冥には動きのすべてが把握できる。
動き出す前に、未来の行動を予測し、見切り、そこに斬撃を叩きつけるだけだ。
最初に奪還した東エリアに続き、西を、南を、北を。
すべての魔族とその乗機をまさしく瞬殺。
四つのエリアは冥の活躍により、呆気ないほど簡単に奪還された──。