11 次の階層へ ~第三層編エピローグ~
「終わりだ、アッシュヴァルト」
冥は四本の剣を煉獄阿修羅に突きつけた体勢で、静かに告げた。
「──殺せ」
アッシュヴァルトがうめく。
「私の負けだ」
「相手が魔族だからって命を奪うつもりはないよ」
まして魔族の中には元人間もいるのだ。
彼らは魔王の支配が解かれれば、本来の善良な人間に戻れるのである。
「私とて武人の端くれ。敵の情けは受けん。さっさと殺せ!」
アッシュヴァルトが吠えた。
「殺さねば、いずれ私は今度こそお前を殺しに行くぞ」
「そのときは返り討ちにするよ」
冥は淡々と言い放った。
「そして、また──命を奪わずに勝つ」
不遜やうぬぼれではない。
ただ、勝負がついた以上、もはや殺し合いには発展させたくなかった。
「僕の目的は殺すことじゃない。魔王を討ち、この世界に平和を取り戻すこと。そのための最短距離を突き進む」
言って、冥は剣を引いた。
煉獄阿修羅が抵抗できないよう、関節部はすべて切断し、破壊しておく。
「お前という男は……ふん、まあ勝ったのはお前だ。好きにするがいい」
アッシュヴァルトはわずかに苦笑したようだ。
動かなくなった敵機に背を向け、エルシオンはユナやシエラの元に進んだ。
「終わったよ、ユナ、シエラ」
エルシオンから降りた冥は、二人の傍まで歩み寄った。
「無事でよかったです」
ユナが真っ先に駆けより、冥の両手を握る。
柔らかな手のぬくもりが、戦いの緊張感をゆっくりと解してくれた。
「今まで以上の強敵でしたね。心配しました……」
ユナのクールな美貌にはほとんど変化がないが、その瞳はかすかに潤んでいた。
「あ、もちろん、冥のことは信じています。それでも心配が尽きることはありませんから……」
「うん、本当に強い相手だった」
うなずく冥。
正直、敗北も覚悟した。
だが、自分が負けるということは、大切な二人の少女と、世界の命運が尽きるということだ。
その想いの重さが、冥にさらなる力を与えてくれた。
そして勝つことができた。
そう、思う。
「あたしはいいところなしだった……」
シエラがぽつりとつぶやいた。
「ありがとう、勇者様。勝ってくれて」
「シエラだって、ここまでがんばってくれたからね」
一瞬で敗れてしまったことを気に病んでいる様子のシエラに、冥は微笑みを返した。
「サラマンドラは、どう?」
「修理に時間がかかりそう……」
シエラがため息をついた。
煉獄阿修羅の斬撃を受け、四肢を切断されてしまったのだ。
「いえ、次の第四層は龍王機の製造を受け持つ階層です。ここを取り戻せば、サラマンドラだけでなく味方の機体の修理や改修──そして増強も可能でしょう」
ユナが告げた。
「なるほど……」
確か第四層はクレスティアの中でもっとも機械文明が発達した世界のはずだ。
冥は記憶をたどる。
龍王機は機械的な機構と魔法的な機構を併せ持つが、前者はほとんどが第四層で製造されているのだ。
「じゃあ、さっさと取り戻さないとね」
力強く告げる冥。
「魔族の手から、第四層を」
「……また勇者様に負担をかけちゃうね。ごめんね」
「ううん、気にしないで」
冥はにっこりと笑った。
「今は──誰が来ても負ける気がしないから」
「慢心はよくありませんよ」
「慢心じゃないよ」
ユナに微笑む冥。
「確信だ」
そう、アッシュヴァルトとの戦いを通じて、一つ確信したことがある。
自分が『覇王の領域』を会得したことを。
今までは偶発的にしか入れなかった領域に、今は自らの意志で自在に入ることができる。
さすがに、アッシュヴァルトとの最終局面で見せた、あの域までは無理だが。
それでも、もはや並の魔族では、冥の前では一分ともたないだろう。
この力でもって、第四層を、そしてさらに上の階層も突破してみせる。
一刻も早く魔王の元までたどり着き、世界を解放してみせる──。
「行こう。次は第四層だ」
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