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9 最終局面

「なるほど、覇王の領域(エンペラーギア)か」


 煉獄阿修羅からアッシュヴァルトの声が響く。


「見事だ。私の動きはすべて読まれているようだな。どれほどのパワーやスピードの差があろうと、前もって動くことのできるお前には通じない」


「──なら、どうする?」


 たずねる冥。


 降参するはずはない。

 これくらいで戦意を失うような甘い相手でもない。


 ならば、相手の次の行動は──。


 冥はモニターに映る煉獄阿修羅を注視した。


 視界が、そして意識そのものまでもがクリアになっていく感覚。

 どこまでも研ぎ澄まされていく感覚。


 すべての動きが視える。

 すべての動きが分かる。


 そんな──全能にして万能なる感覚。


(次は、どうくる……アッシュヴァルト)


 先ほどの彼の台詞にこめられた感情の流れを読み、感情の起伏を推測し、意図を考察する。


 同時に煉獄阿修羅のわずかな動きやその周辺の空気の流れ、床の震動──コクピットから感じられるすべての情報を総合して、相手の動きを予測する。


 限りなく未来予知に近い精度で。

 普段の龍心眼(ドラグーンアイ)以上に、圧倒的な精度で。


「問うまでもあるまい。私は戦う。このアッシュヴァルト、戦場において戦う以外の行動は知らぬ! ゆえに──」


 煉獄阿修羅が突進した。


 ──左。


 冥は素早く相手の攻撃の軌道に対応し、エルシオンをあらかじめ後退させる。

 一瞬前まで自機がいた空間を、六本の剣が次々と薙いだ。


「そこだ──」


 敵機が剣を振りおろし、腕が伸びきった瞬間を狙い、冥は剣を繰り出す。


 たとえどれほど装甲が強固でも、関節部は別だ。

 無防備になったそこを、エルシオンの剣が切り裂く。


 バチィッと火花を散らし、煉獄阿修羅の腕が肘から切断された。


「まず一本──」


「まだ五本ある。この程度で!」


 アッシュヴァルトはまったく闘志を萎えさせず、むしろますます奮い立ち、ふたたび突進する。


 今度は左右に機体を揺らすような動き。

 先ほどの豪快な攻撃とは一転、複雑なフェイントを織り交ぜ、冥を幻惑する。


「無駄だよ。僕にフェイクは通じない」


 冥の瞳にはすべてが映っている。

 煉獄阿修羅がたどる未来の軌道が。


 ゆえに、いかなるフェイントも無意味。


 ふたたびエルシオンが煉獄阿修羅の斬撃を避け、先ほどと同じく腕を一本斬り飛ばす。


「ちいっ……」


 さらに三度、四度、五度──。

 攻防のたびに煉獄阿修羅の腕を一本ずつ切断していく。


 とうとう一本腕になった敵機はバーニアを全開にして、エルシオンから大きく距離を離した。


「残るは一本」


 冥は冷然と告げた。


 気は緩めない。

 いくら相手の動きを予知レベルで先読みできるとはいえ、もともとの性能差は圧倒的である。


 わずかな隙も見せられない。

 ほんの一撃、直撃を受けただけでも戦況はあっけなく逆転するだろう。


 最後まで確実に──冷徹なまでに確実に、敵を仕留める。


「追い詰めたつもりか、それで」


 アッシュヴァルトがうなった。


「ならば見せよう。我が最速の剣を」


 煉獄阿修羅の背部にある日輪状のバインダーが本体から分離した。


 唯一残った腕でそれをつかむ。

 ヴ……ン、とうなりながら、バインダーが振動を始めた。


 一種の高周波ブレードだろうか。


「龍王機の性能は乗り手との同調によって大きく上下する。追い詰められ、背水の陣を敷いた私の、全霊の一撃だ」


 ごくりと息を飲んだ。


 魔族の武人の気迫がここまで伝わってくるようだ。


「お前の読みよりも早く──いや、読まれていてもなお防げないほど早く、私の剣がお前を斬る」


 アッシュヴァルトが宣言する。


「受けてみろ、勇者」


「受けてやる、魔族」


 冥は闘志をむき出しに告げた。


 血が湧きたつのを感じる。


 覇王の領域に入った影響か。

 あるいは、アッシュヴァルトの武人気質に触発されたのか。


 戦いの喜びが込み上げてくる──。


 無論、勇者としての使命も、ユナやシエラを守りたいという気持ちも、決して薄れたわけではない。

 むしろ、ますます激しく燃え盛っている。


 ただ、それとは別に、強敵との戦いを喜悦する心が冥に宿っていた。


 おそらくは、現実世界でロボット格闘ゲームの王者として数多の強敵と戦ってきたときの心境と極めて近いものだ。


 自分を震えさせるような猛者と相対できる喜びを。

 満足感を。

 充実感を。


 存分に感じ、冥はエルシオンのレバーを握り直す。


「いくぞ、アッシュヴァルト。これで決着だ──」

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