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1 紋章奪還戦、開始

「先ほどの魔族の襲撃により、私たちは戦力の大半を失いました。我々の陣営に残された戦力は旧型のエルシオンと、かろうじて大破を免れたサラマンドラのみです」


 ユナが集まった兵士たちに説明していた。


(さすがに雰囲気が暗いな)


 冥が周囲を見回す。


 戦いの激しさを物語るように、一帯は爆炎に包まれていた。


 格納庫はほとんど燃え落ち、七機のエッジはもちろん、勇者専用機として用意されたディーヴァも真っ二つにされている。


 いずれも破壊がひどく、修復には数か月を要するとか。


 ディーヴァの場合はもっと深刻で、もしかしたら再稼働できるまでに一年以上もかかるかもしれないという。


 幸いにもサラマンドラだけは中破状態で済んだが、当然しばらくは出撃できない。


 完全に無事なのはエルシオンのみ。

 連合の戦力は、壊滅状態だった。


「ですが、勇者さまはエルシオンで戦ってくださると仰いました。魔族の最新鋭機との戦力差は歴然。その分は、私たちがバックアップしていかねばなりません」


 ユナの言葉にも、兵士たちの反応は芳しくない。


 すでに人類の希望は潰えたかのような──そんな諦念すら漂っている。


「みんな、暗いよー。元気出していこー!」


 シエラだけは明るかった。

 まるで暗闇に差しこむ陽光だ。


「そう言われてもなぁ……」

「あの骨董品でどこまで……」

「いくら勇者でも、第四世代機で最新鋭の第六世代機を相手にするなんてメチャクチャだ……」

「勝てるわけがない……」


 兵士たちの口から漏れ聞こえるのは、いずれも不安の言葉ばかり。


「むー、なんとか言ってやってよ、勇者さま」


 シエラが拗ねたように口を尖らせた。


「え、僕?」


「勇者さまはあのメリーベルを追い払ったじゃない。かっこよかったよ~!」


 いきなり抱きつかれた。


「わわわっ、シエラ!?」


 たぶん恋愛的な意味のアプローチではない。


 おそらくスポーツ選手が試合に勝った後に喜びで抱き合うような、そんな感覚なのだろう。


 とはいえ、相手は同じ年ごろの女の子で、しかもとびっきりの美少女で。


 柔らかい。

 温かい。

 いい匂いがする。


 ふくよかな胸の感触や、しなやかな体つきを思いっきり意識してしまう。


「こほん」


 背後で、ユナがわざとらしく咳払いをした。


「公衆の面前ですよ。二人とも破廉恥な行為はお控えください」


「あ……ご、ごめんなさい、つい……」


 至福の感触に浸っていた冥から、シエラは照れたように離れた。


 その顔が薔薇色に上気している。


(可愛いな、シエラって)


 思わずときめいてしまう。


「勇者さまも、あまりデレデレしないでくださいね」


 やけにツンケンした口調のユナ。


(いや、ツンケンしているのは再会したときからだっけ……?)


「と、とにかくっ」


 気を取り直したように拳を振り上げて叫ぶシエラ。


「勇者さまなら旧型のポンコツに乗っても、十分に戦えるよねっ」


「旧型のポンコツって……そこまで言われると」


(いちおう僕の愛機なんですけど)


 冥は少し憮然となる。


 前大戦をともに戦い抜いた相棒なのだ。


 確かにこの時代では型遅れなのだろうし、シエラに悪気はないと分かっていても、複雑な気持ちになってしまう。


「……あ、ごめん。勇者さまの機体をけなすつもりはなかったの」


 そんな冥の心中を察したのか、シエラがハッとした顔で謝った。


 それからエルシオンに向き直り、


「さっきも立派に戦ったもんね。エルシオンも。ポンコツなんて言ってごめんなさい」


 まるで人間に対するように頭を下げる。


 なんだかクスリとしてしまった。


「みんな、心配しないで」


 冥はあらためて兵士たちを見回した。


 青ざめて暗い顔、顔、顔──。


 ここは自分が元気づけなければ、と大きく深呼吸をする。


「僕はその旧型で最新鋭の第六世代機と魔族のエリート騎士を撃退したんだ。みんなだって見てたでしょ?」


 できるだけ威厳を込めて、自信に満ちた声になるように宣言する。


「そ、それは……」

「確かに、さっきの戦いはすごかったよな……」


 ざわめく兵士たち。


「僕の実力をもってすれば、相手が最新鋭機だろうと楽勝だって。他の魔族もさっきみたいに蹴散らしてみせる」


 冥が強気に言い放つ。


「むしろ旧型のエルシオンに乗るくらいでちょうどいいハンデだよ、あはは」


 ちょっと強気すぎる発言の気もしたが、とりあえず勢いで押し切ることにした。


「……少し調子がよすぎませんかしら」


 ユナがボソッとつぶやく。


「先ほども、紙一重の戦いでしたわよ。油断なさらないでくださいね」


「う、やっぱり」


 振り返って、冥は顔をひきつらせた。


「ですが、兵士たちを鼓舞するには十分ですわね」


 言われて、ユナからふたたび兵士たちに視線を戻した。


 彼らの顔からは、いつの間にか不安の色が消えている。


 こちらを見つめる視線には、いずれも希望が宿り始めていた。




「あらためて説明させていただきますね、勇者さま。この世界には『大いなる紋章(メタ・クレスト)』というものがあります」


 壇上から戻ってきたユナが冥に言った。


「『紋章』は、この世界の人間の『心』を司る秘宝です。四枚一組でクレスティアの各層に配置されて、人々の心を守っています。ですが──ひと月前の魔王軍の侵攻により、この紋章がすべて魔族に奪われてしまいました」


(前の戦いのときと同じだな)


 あのときも先代の魔王は『紋章』の力を使って人々から良き心を奪い、悪の心を植えつけた。


 そして、人は魔族へと堕ちた。


 それは今回も同様らしい。

 クレスティアの住人のほとんどは、今や魔王の手先である魔族なのだ。


「私たち人類連合の目的は、この『紋章』を取り戻すことです」


 と、ユナ。


「そしてもう一度、人々に良き心を取り戻します。魔族に変えられた者たちを元の善良な人間に戻すことができますから」


 そうなれば、人と魔族の戦力差は一気に逆転する。


 何せ今まで敵だった魔族が、全て味方の人間に戻るのだ。


「ただし──魔族側も当然それは承知しています。各エリアの最重要拠点で『紋章』を守っているのです」


 各エリアを支配する精鋭の魔族と専用機である強力な龍王機。


 これらを倒さなければ、『紋章』の奪取も各エリアの奪還もままならない。


「勇者さまにお願いしたいのは、ただ一つ」


 ユナがまっすぐ冥を見つめる。


「エリアを支配する魔族とその乗機である龍王機を倒すことです──」




 ──二日後、その最初の目的地である西エリアへの進軍が始まった。

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