ノアとペネロペー2
読んでくださったかた、ありがとうございます!
これからたくさん事件が起こっていくので、もう少し日常にお付き合いください。
ペネロペはその日中、恐ろしく不機嫌だった。
ことあるごとに周囲に不満をぶつけており、昼ご飯のパンがまずいと言ってノアに投げつけ、数学の授業が退屈だと言ってはノアの教科書に落書きし、自分に喋りかけてきた人間を悪魔でも見るような目つきで睨み返した。
そこで学校が終わる頃には、クラスの大半が、今日はペネロペに干渉するのはよそうという結論に達したようだった。
しかし、ノアに関してはそういうわけにはいかなかった。ペネロペはノアの隣の席だったし、彼女はたえずノアを険悪な目で眺めまわしては、何か言いたげに口を尖らせた。
「ねえ、ペネロペ。僕に言いたいこととかあるの?」
とうとう我慢できずにノアは尋ねた。
ペネロペは無言のまま大きな音をたてて椅子を引くと、どしどしと歩いてノアの机の前に立った。
「わたしね、今日はこの広ーい教室を、一人っきりで掃除するのよ」
掃除しなくちゃならないのが、ノアの責任であるというような言い方だった。
「・・・・・・・・それは、ペネロペが毎日遅刻しているからだろ」
ノアは小さな声でもごもごと答える。それに更に苛立ったように、ペネロペは目を吊り上げた。
「ノアがオノオ先生に何も言ってくれなかったからよ!」
それはあまりにも酷いと思ったが、ノアは黙り込むことしできなかった。ペネロペが怒ると、ノアは決まって何も言い返せないのだった。
「何て、言い返せばよかったんだよ」
やっと口からついて出たのは、そんな気の利かない言葉だった。
案の定ペネロペは、耳まで真っ赤になって、これ以上見たこともないくらいの憤怒の形相で、ノアの机をバシンッと叩いた。
「そんなことわたしが知ったことじゃないっ」
クラスメイト達が、また始まったと呆れ顔を二人に向ける。ちょっぴりノアに対する同情も混じっていた。可哀相に。また無理難題言われてるよ。
そんな顔をするなら、助けてくれたっていいじゃないか、とノアは恨めしく思った。僕が一体何をしたっていうんだろう。オノオ先生に反抗するなんて、自殺行為に近い。
「・・・・・・・・ごめんよ」
ノアは俯いて謝った。
「悪いって思ってるなら、お掃除手伝ってね」
悪いなんて、爪の先ほども思っちゃいない。それでもノアはうん、と頷いた。
ペネロペはそれで満足したようだ。来たときと同じように、またどしどしと自分の席へ戻って行く。
ノアは溜め息をついた。
これはどうしたって、掃除しなくちゃならないみたいだ。
午後の生暖かい陽気が差し込む埃っぽい教室を眺め、ノアはもう一度大きな溜め息をついた。