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81話 魔力測定




 俺の部屋は俺の意志とは全く関係の無いところで決まってしまった。

さらば、俺の平穏な学生生活。


「すまぬ。わざとでは無いのだ。だが、そのような顔をされては余とて傷付くぞ」

「ごめんね、僕たちのせいで……」


 俺があからさまにがっかりするのを見て、さすがに悪いと思ったのかレオンとルーカスが揃って眉尻を下げて謝ってくる。


 俺だって二人がわざと俺を陥れようだなんて思うやつでは無い事などわかっていた。

レオンが認証システムの詳細を気にするとは思えないし、人の心がよくわかるルーカスは強引な手段は好まない。

狙ってこういう悪事を働くのは現世ではまだ見ぬ公爵子息たちだ。


「もういいよ。さっさとネームプレートを奪い返さなかった俺も不注意だったし。別にお前たちが嫌いな訳じゃない。ただ、静かに考え事をする時間がほしくなった時の事を考えて、角部屋がいいと思っただけなんだ」

「本当に良いの?」

「うん」


 見ていれば口先だけの謝罪でなく、心底すまなかった、悪い事をしたと思っている事くらいは判る。

頷く俺を見て、ルーカスらはやっと固い表情を弛めた。


「それより、他のみんなの部屋もさっさと決めてしまおうよ。イルメラちゃんはどこにするか決まった?」

「ええ、私はこの部屋にしますわ」


 重い雰囲気を振り払うべく、わざと高い声を出して建設的に振る舞う。

不幸中のさいわいと言うべきか、一連のいざこざの間にイルメラは希望の部屋を決めたらしく、ディーが希望する部屋の隣、俺の真正面にある扉の前に立つ。

あとは具体的な希望を言ってないのはバルトロメウスだけか。


「うん? 私はそうだな……。この部屋にしよう」


 パサリとバルトロメスが大仰な仕草をする度に、頭に盛りつけられた羽根が抜け落ちて宙を舞う。

そこへさっきの俺の認証の様子を見て何か感化されたのか、さっきのまばゆい後光スタイルから淡い発光へとバルトロメウスは演出を切り替えてきた。

それに何の意味があるのかは全くもって理解出来ないが、芸の細かいやつだなぁと思う。


 彼が希望したのはさっきイルメラの選んだ部屋の隣で、結局誰も希望が被らずに俺の部屋決めに際して一悶着あった他は何も揉める事無く、日中に一番日当たりの良い部屋にレオン、そこから右隣に俺、ルーカスと続き、通路を挟んで反対側にディー、イルメラ、バルトロメウスの順に並ぶ事となった。


 ちなみに、所有者の決まった部屋の中ではエントランスからはルーカス、バルトロメウスの部屋が近く、レオン、ディーの部屋が遠い。

バルトロメウスの部屋がエントランスから近い事に若干不安を覚えるものの、まあ何かあったら全力で壁ドンをするなり、何なりで彼の暴走を止めよう。


 他の皆が認証登録をする中、俺は一足先に今し方自分のものとなった部屋に改めて入る。


 ゆっくりと中を見回し、窓から中庭が見える事を確認した後に、上等な革張りのソファーへとゆっくりと腰を下ろす。

まだ荷物も運び込まれていないから、ここが自分の部屋という実感は無いな。

だけど不思議と居心地は悪くない感じがする。


 みんな少し落ち着いたら、自分好みに内装をアレンジするのだろう。

ベースが同じなだけに、それぞれの個性が出そうだ。

イルメラは女の子らしく、レース素材を使ったり、ぬいぐるみを置いたりするんだろうか?


 六年間慣れ親しんだ家を離れるのが寂しくないと言えば嘘になるが、今はこれまでと違った生活に対する期待の方が大きい。


「たのもー!」


 静かな室内で色々と考えを巡らせていると、そこへ割り込むように扉の外から声がした。

姿を見なくても誰だかなんて容易に判別出来る。

すぐに駆け寄ってドアを開けてやりながら言い放った。


「レオン、道場破りや決闘の申し込みじゃないんだから、その掛け声はやめろ」

「アルト、枕投げだ。余は枕投げを所望する」

「わかった、わかった。後でしてやるから。これから身体測定があるから、また後でな」

「むぅ~。絶対だぞ?」

「わかったから、ほら。お前がそこに居座ると俺が出られないんだ」


 ぶうたれるレオンを先に促して部屋を出ると、あちらもちょうど出てきたところらしいイルメラと目が合う。


「どうだった?」

「ど……、どうだったもこうだったもありませんわ」


 思わずニコッと微笑みかけると、ふいと顔を逸らされてしまった。

慣れない状況に驚いたのだろうか?

それともまだ今朝の事を怒っているのか?


 イルメラの隣室から出てきたディーが視線だけ動かして妹と俺を見比べている。


「アルトくん、早くしないと遅れちゃうよ?」

「待たせたな、諸君!」


 既に部屋を出て待っていたルーカスに急かされ、俺はその場の疑問をそのままに、背景で流星雨を降らせるバルトロメウスを引きずりながら身体測定の会場である、訓練場へと向かった。



「やっ、やめよ! くすぐったいではないか!」

「ですから、暴れないで下さい!」

「ひゃっ。だからやめよと、うにゃっ、申しておるではないか!」


 メジャーのようなものを持った職員さんの手で行われた身体測定では、レオンが大暴れだった。

身体を這うメジャーと、微妙な力加減で触れる職員さんの手がこそばゆくて仕方ないらしい。


 俺も何やらぞわりとしたが、そこはえいやと気合いで堪え、ルーカスも涙目になりながら堪え、反対にバルトロメウスは測定に邪魔だからと頭上の羽根を残らず毟られながらも、人目を憚る事なく紙吹雪のようなものを舞わせて大声で笑っていた。

揃いも揃ってわき腹が弱いらしい。


 どこか退屈そうな雰囲気ながらも、わき腹への侵攻を平然と受け流せたのはディーくらいのもので、その物憂げな表情に男女問わず見とれている者が結構な数いた。



「イルメラちゃんお帰り」

「ううっ……」


 女の子だからという理由で、白陽寮メンバーの中で一人別会場に行っていたイルメラはちょうどレオンがメジャーの包囲網から解放されたタイミングで戻ってきた。


「イルメラ?」

「なっ、何でもございませんわ……」


 別行動をする前とした後で、明らかに様子の異なるイルメラを見てディーが首を傾げる。

妹の様子の変化には気付く事が出来たディーであったが、まだ共感には程遠いようだ。


「くそう……。ぐぬぬ、余はあの長いニョロニョロが好かぬ」

「お前はどんどん嫌いなものが増えていくな」

「好かぬものは好かぬのだ」


 敗北感いっぱいに宣言するレオンの発言は短絡的ながらも素直で、別会場で乱れて彼に負けず劣らずげっそりしていたイルメラの溜飲もそれによって密かに下がったのだった。


「今日の予定はこれで終わりなんだっけ?」

「ディーは終わりだけど、俺たちはまだやる事が残ってるよ」

「むむっ、まだあるのか? 余は早く枕投げがしたいのだ。今日はもう終わりで良かろう?」

「まあまあ。魔力測定をして学生証を受け取ったら今日の予定は終わりだから」

「むしろ今日はこれからがメインイベントですわ。なんといっても生まれて初めて自分の魔力の量がわかる日なのよ」


 子供というのは立ち直りが早い。

さっきまではあんなに疲れた表情をしていたのに、レオンは枕投げの約束は忘れていないらしい。

今にも駆け出しそうな様子でその場で足踏みをする姿は失笑を禁じ得ない。


 イルメラはイルメラで魔力測定の方を楽しみにしていたようで、笑い疲れなんてなんのその、パッと顔を輝かせていた。

将来、魔法職志望の俺やイルメラにとっては確かに今日一番の重要イベントであるといえる。

もっとも、現時点ですでに剣術の道を目指すと決めたレオンにとってはイマイチ燃えないイベントでもある。


「そうだ、諸君! 学生証とはすなわちこの学園で学ぶ事を許された身であるという証明! さらに! この学生証はすむぐっ!」

「あー、はいはい。演説はいいからさっさと済ませような。ルーカス、手伝って」

「え、僕?」


 すでに研究者として活躍しているバルトロメウスの興味はどうやら魔力測定よりも学生証の方に向いている様子だった。

が、せっかく見た目の変人度合いが薄れたというのにまたやかましくなって周囲の耳目を集めては厄介だと口元を塞ぎながら引きずっていく事にする。


「お兄様は先に寮に戻っていて下さいませ。私もすぐに戻りますわ」

「いってらっしゃい」


 ひらひらと手を振るディーに見送られながら、俺たちは魔力測定のブースの行列に並んだ。



「測定を終えた者たちが手に持っておるのはなんだ?」

「あれが学生証だ。あそこを見たまえ。今まさに、水晶が学生証を吐き出しているだろう? あれぞまさに神秘だ!」

「おお!!」


 さっきまであれほど魔力測定なんかどうでもいいと言い張っていたレオンだったが、現金なもので好奇心旺盛な彼は後方から身を乗り出すようにして魔力測定の様子を見る。

そこに、どうやら魔力測定に関して一定の知識を持っているらしいバルトロメウスがこれまた鼻息荒く解説をする。

二人とも今日が初対面とは思えない程仲良しだ。


 よくよく考えればレオンは基本目新しいものには興味津々だし、バルトロメウスは研究者の性なのか隙あらば自分の知識を周囲にひけらかそうとするので、訊ねたい者と訊ねられたい者で相性がいいのかもしれない。

バルトロメウスの奇抜な服装すら、レオンにかかれば『格好いい!』と賞賛の対象になってしまっている。


 今回俺たちがする魔力測定は、やり方そのものはいつぞやした系統適正検査によく似ている。

ただ、あちらが色で判ったのに対し、こちらは水晶から出力される金属プレートにランクで明確に記されるのだ。

このプレートには各人の魔力が記録されるため、それをこの学園では学生証として流用しており、読み取り用の魔導具を用いる事で授業の出欠を取ったり、部屋のカードキーとして使用したりと学園生活の色んな場面で学生証は活用される。


「おお! あの者が出した学生証はおかしな色をしておるぞ!」

「良い質問だな! そう、基本は白い学生証だが時々神の気まぐれか、色違いのものが出てくる事があるのだよ」


 どどめ色の学生証を持った子をレオンが指差せば、バルトロメウスがさらに解説する。


 水晶が金属プレートを出力する様子は前世の知識がある俺には何度見ても不思議で、考えたら負けだとも思うがこれはいったいどういう仕組みなのか、そもそもどこから出てきているのかという違和感が拭えない。

レオンとは違った意味での驚きだ。


 バルトロメウスは吐き出すと表現したが、実際に見てみると気付けば既にそこに存在しているような感覚に近い。

人間の動体視力では捉えられないのか、どんなに目を凝らして見ていても出現の瞬間が判らないのだ。


「それはどうやるのだ?」


 レア版の学生証を出す気満々のレオンはここぞとばかりに目を輝かせてバルトロメウスの方に身を乗り出した。

珍しいもの好きだもんな、俺も人の事は言えないけれど。


 ルーカスがわりと話半分といった具合で聞いているのに対して、イルメラは興味無さそうなふりをしながらしっかり聞き耳を立てている。

というか、レオンとバルトロメウスの声がかなり大きいので、身内のみならず結構な人たちがこちらに注目していた。


「……ふふふふふっ。はははははっ。ハーッハッハ!!」


 周囲の耳目を集めたバルトロメウスは満足げに、どこぞの世界征服を目論む大魔王のように高らかに笑った。

多くの者が人目を憚らない不気味な笑いにドン引きし、また多くの者が笑うのはいいから早く話の続きをしろと思った事だろう。


「それはだな……私にもわからん!」


 誇らしげに宣言されたのはおそらくこの場の誰もが望んでいない答えだった。




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