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100話 学園の七七七七不思議

若干のホラー要素あり。

苦手な方はご注意ください。



「学園の七七七七不思議というものを聞いたことはあるかい?」

「いや、多いって! 桁を間違えてない?」



 場所は変わって。


 寮内の談話スペースに移動した俺たちは、他の寮生たちも集めてテーブルを囲み、例のお化け騒動について話すことになった。


 今やっている研究が佳境に入ったとか言っていたバルトロメウス以外のメンバーはそれぞれ学園外で過ごしていたようだが、俺よりもみんな早く学園に戻ったらしい。


 俺の知らないところで、一番乗りだ、二番目だのと競い合っていたという話を、自室に鞄を起きに行く道中に聞かされて、少し悔しい気持ちになったのは秘密だ。



 バルトロメウスから『七七七七不思議』と聞いて、俺は何よりもまずその数の多さに驚嘆することとなった。


 七不思議とて、七不思議と言うくせに具体例を列挙すると有名どころだけでも七つ以上になるという、七つなんだか、九つなんだかよくわからないツッコミどころ満載のものだけど、そんなものの比ではない。


 それだけ多ければ、この数ヶ月間で何かしら遭遇していてもおかしくはないが、一つも記憶にないのは所詮は眉唾の噂話や作り話ということなのだろうか?



「七不思議なら聞いたことあるけど。真夜中に音楽室のピアノが鳴るとか、絵画の目が動くとかそういうの?」

「なんだ、知っているのではないか。その七七七七不思議だ」


 説明する気満々のバルトロメウスに向けて俺が七不思議の代表的な例を挙げると、彼はつまらなさそうに唇を尖らせながら首肯する。


 彼の背後では銅像が蠢いたり、半透明の幽霊っぽい物体が四つん這いになって縦横無尽に高速移動していたりと、とても騒がしい。


 これは多分、七不思議で言う、『真夜中の校庭を走り回る二宮金次郎像』と『時速百キロで迫り来るテケテケ』に相当するものだ。


 もちろんこれらはホンモノではなく、バルトロメウスお得意の演出魔法だが、ルーカスとイルメラは声無き悲鳴を上げて素早くバルトロメウスとの距離を取った。


 二人はお化けが苦手みたいだ。


 一人まったく動じていないどころか一切興味がなさそうなディーは、椅子の肘掛けに肘をついて頬杖をついていたが、隣に掛けていたイルメラが衝動的に縋りついたせいで、静かに椅子からずり落ちてしまった。



「お兄様!?」

「平気」


 落ちた本人より、イルメラの方がよほど慌てた様子なのが可笑しい。


「それで、その七七七七不思議とやらと今回の幽霊騒動は何か関係があるのか?」

「聞いて驚くでないぞ。七七七七不思議の一つ、『星詠塔(ほしよみとう)の夜泣き霊』が出たと学園中で噂になっているのだ!」


 ゆっくりと起き上がるディーと、甲斐甲斐しく兄の世話を焼くイルメラを横目に話を続けると、バルトロメウスに代わってレオンが身を乗り出しながら、興奮気味に語った。


「星詠塔っていうと、学園の敷地の端の方にある天文台のことだよな?」

「天文台とはなんだ?」


 頭の中に前世のゲーム画面で見た学園のマップを思い浮かべながら同意を求めた俺だが、質問に質問で返されてしまった。


 出鼻を挫かれたように思えてがっくりと肩を落としかけたが、よく考えてみればレオンが知らなくとも無理はないと思い直す。


 天文台なんて、およそ日常生活には縁遠い場所だろう。


「天文台っていうのは、星を見るために建てられた塔の事だよ。明るい場所だと明かりが邪魔になって星が見えにくいから、他の建物から離れた場所に建てられている事が多い」

「おお、そうなのか。でも、なにゆえ星を見るのだ?」

「星を見て、占いや願い事をするんだ。『今日はあの星が一際明るく輝いているから、これからいい事が起こるに違いない』とか、『明日あの子と会えますように』とか。流れ星に願い事を3回唱えると叶うって言い伝えもあるんだぞ」


 説明に対してさらに投げかけられた質問に、俺は少し考えながら答えた。


 現代日本にも天文台はあったけれど、あちらは天体観測だったり、科学的な意味合いが強い。


「星と余の身の回りの出来事に何の関係があるのだ? 星にお願いしたら、余もサムライになれるのか?」

「いや、そういう願い事は自分で叶えるものだろう

……」

「ならばやはり、意味が無いではないか!」

「別の言い伝えでは、星が流れる突然訪れたほんの僅かな時間でさえも強く願い続けている人だけが願いを叶えられるとも言われているんだ」

「むぅ……」

「と、とにかく、ただ見てるだけでも星は綺麗だろう?」


 会話の流れが怪しくなり始め、向かいの席からの視線が気になり始めたところで、これ以上質問が飛んで来ないようにやや強引ながら話を締め括る。


 これ以上続けると、スピリチュアル界隈や占いが好きな人に怒られそうだ。


 女の子って、占い好きな子が多いヨネ、ウン。


「俺自身は占いはあまり信じてないけど、話のタネとしては面白いと思ってるよ。だからそんなに睨まないで、イルメラちゃん!」

「なんでもございませんわ」

「いや、何でもないって顔してないからっ! 占いを否定したのは俺じゃないのに……」


 じと目のイルメラに弁解するも、とばっちりで塩対応されて今度こそ項垂れた。


 休暇明けで久々の再会なのに、あんまりだ。


「アルト、のんびりしておる場合ではないぞ。余と共に、オバケを成敗しに行くのだ!」

「なんで俺も行く前提なの?」


 肩を落とす俺の袖を尚も引っ張るのは、レオンだ。


 俺はゆっくり落ち込むことも許されないらしい。


 俺が頭を垂れている間に立ち上がったレオンは自分が元凶なのにもかかわらず、さらに俺を引き摺り回す気満々で早く立ち上がれと急かしてくる。


「学園の生徒たちが、オバケの正体を暴いてほしいと余に頼んできたのだ」

「でも、星詠塔は上級生になってから選択できる占い学の講義中以外は立ち入り禁止だろう? それに各寮や学園内の主だった施設からは離れているから、放っておけばそのうち噂も鎮まるんじゃないか?」

「学園の者たちは将来、余の民となる者たちだ。その者たちは、オバケが怖くて夜も眠れぬと震えておった。ゆえに、その頼みを捨て置くことなどできぬ」


 学園の規則を理由に反対する俺に、レオンは王族としての責務を持ち出して反論してきた。


 元から注目されていたところへきて、入学式の演説に決闘騒ぎと続けざまに、それも盛大にやらかしたこともあって、王子の入学は学園中に知れ渡っている。


 幼いながら、なかなかに人望も厚いようで幾人かの生徒たちが彼に泣きついたようだ。


 レオンが生徒たちから慕われ始めているのは喜ばしいことだが、王子自ら危険に飛び込むような真似は容認出来ない。


「それなら、先生とか誰か大人の人に伝えて然るべき対応を……」

「これは余に持ち込まれたお願い事なのだ。余が動かずしてどうする? こういうのは余が解決するべきではないのか?」


 レオンの瞳に宿るのは単なる好奇心だけではない。


「ははは、参ったなこれは。そう言われたら、俺も行かないわけにはいかないじゃないか」

「当然であろう! アルトは余の友で、右腕で、腹心なのだからな」


 ふんぞり返って俺への絶大なる信頼を口にする王子に、呆れつつも関心した俺は白旗を掲げた。


 レオン本人は多分気づいてなさそうだけど、さっき俺が言った『そういうのは自分で叶えるもの』という言葉を、そっくりそのまま返されてしまっている。


 ここで否定したら、自分の言葉を翻すことになる。


「ならば私も共に行こう。学園の七七七七不思議をこの目で確かめてやろうじゃないか」

「オバケは怖いけど、僕も一緒に行く。僕だって、レオンくんとアルトくんの友達だもん」


 俺が行くとなると、自分たちも同行するのが当たり前だと申し出たのがバルトロメウスとルーカス。


 バルトロメウスは混じり気なしの好奇心を、ルーカスは未知のものに対する恐怖心を。


 それぞれの顔色から窺える感情は全く異なるのに、同じ結論に至ったようだ。


「……なんだか楽しそうだから、僕も行こうかな」

「えっ、お兄様まで!? そ、それならわたくしもご一緒しますわ」


 意外だったのはディーで、最初は無関心で無表情だったはずなのに、今は薄らとだけど笑みを浮かべて楽しそうにしている。


 いったい、何が彼の琴線に触れたのだろうか?


 そこに便乗する形で、イルメラも参加の意思を示した。


 一応隠してはいるものの、一人では心細いのだろう。彼女の手は、隣に座る兄の腕をがっちりとホールドしている。


 これで、この場にいる全員が参加表明したことになる。



「皆の者、オバケを倒しに行くぞ!」


 やたら張り切って、大きな声で元気よく号令をかけるレオンに、まずはどうやって目立たず騒がず行動するように説得すべきか、俺は一人頭を悩ませることとなった。




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