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プロローグ

3.5 一部加筆修正致しました。


 俺の言語中枢は乙女ゲーに支配・占拠されている。



 例えば馬鹿正直にそう伝えたとして、眉をしかめない人間は果たしてどれ程いるのだろうか。

そしてそのうち何パーセントの人間が、「俺には前世の記憶がある」と聞いて、相手の正気を疑わずにいられることだろう?


 前世での俺の母親は乙女ゲーム専門のゲーマーだった。

女の子が暇潰しにスマートフォンのアプリで乙女ゲームをプレイするというくらいなら別に珍しい話でもなんでもない。

昨今、よくある話だ。


 しかし、当時の俺の母ののめり込み様といったら、それの比ではなかった。

父が寡黙で職人気質な頑固者であったのが余計に母をそうさせたのかもしれない。


 俺の生前の母は、乙女ゲームが生き甲斐と言えるような人で、画面の向こうの美少年・美青年たちに甘い言葉を投げ掛けてもらうべく、正しく寸暇を惜しんで乙女ゲームをプレイしていた。


 ――そう、“僕”という子育ての傍ら。



 母は、まだ右も左もよくわからない乳幼児な“僕”の寝物語に乙女ゲームを選んだ。


 今の俺ならばそこは普通、桃太郎とかあるだろう!と激しく突っ込みたいところだが、まだ世界は狭く、言語も発音すら危うい発達途上であった“僕”には何が一般的で、何が異端であるかなど、判るはずもなかった。


 クルクルと変わりゆく、キラキラとした眩しい絵柄、場面転換に合わせて流れる音楽に母子共々釘付けとなった。


 もちろん、“僕”は母みたいに萌えを感じたのではない。

音も出れば選択肢によってストーリーは様々な枝分かれをみせる。

何より、画面の向こうの登場人物が喋るのが大きい。

絵本よりずっとハイテクなそれに、子供心を擽られたのだ。


 そして、第一次成長期特有の柔らかな脳で、水を吸い取るスポンジの如く、“僕”は乙女ゲームから言語を学んだのだった。



 日本といえば侘び寂び、そして恥じらいの国である。

そんな国で、どう見ても純和風の平凡な容姿の少年がナチュラル芳香剤よろしく乙女ゲーな言語を駆使すれば周囲の目にどう映るか?


 ――変な子。

それが周りの“僕”に対する共通認識だった。



 自分に向けられる視線が何か生温かい。

そう気付いた時には既に遅かった。



 三つ子の魂百までも。

“僕”そして俺の言語中枢に深く根付いたそれは、意識したところで拭い去れるものではなかったのだ。


 何の因果か、よりにもよって母が一番気に入って“僕”の絵本代わりに選んでいた乙女ゲーム『運命の二人』の攻略キャラに転生してしまった事は、この先の人生が過酷なものであると暗示しているのでは無いだろうか?



 女の子に「おはよう」と言われると、「おはよう、僕の妖精さん」と返す。

それが俺、アルフレート・シックザールの前世である。





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