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トリガーハッピー!  作者: 赤色ぼっち
3/16

開戦


 【南校舎・視聴覚室】


 東洋大学附属姫路高等学校、通称『東洋』は田舎の、それも山の麓に建てられている。校舎は北と南に分かれており、その中間に公園のような中庭、そこから少し東に行ったところに食堂がある。北校舎の裏にある階段を登ると山に囲われたグラウンドと体育館があり、文化祭の準備に向けて泊りで作業する生徒たちを監視する教師の宿直室もそこにある。


 正面玄関がある南校舎は、買い出しに出かける生徒らのために午前四時を過ぎた今も開放されており、現に今も南校舎一階、玄関から左へ進んだところにある視聴覚室の中では、誰が買い出しに行くかで話し合いが行われている最中だった。

 時刻はすでに午前四時を回っている。“作業とかこつけて”視聴覚室に居座っていた彼らは時間相応に疲れ果てており、話し合う声は自然と小さくなっている。しかし、それ故に気付いたのだろう。


「今外で何か物音しなかったか?」

 扉の最も近くに座っていた生徒がぽつりと言った。視聴覚室の扉を開ければすぐ隣に二階へと続く階段があり、扉から真っ直ぐ廊下がのびて玄関へと繋がる。全ての照明が落とされ誰もいない廊下は音がよく響くのだ。しかしとはいえこんな時間、そこには誰もいるはずがない。


「そうか? 見張りも交代したばかりだろ」

「いや絶対聞こえた。ちょっと見てくる」

 外の見張りはついさっき交代したばかりだし、戻ってくることはまずない。仮眠の交代もまだ先だ。ならばこんな時間に誰がやってくる?

 まさか、奴らが来たのか……?

 どうしても気になったその生徒は扉を開き、外の様子を確認するために立ち上がった。だが扉に手をかけるその前に、閉じられていた扉が外から大きく開かれた。


「こんばんは」

「!?」

 全身の毛が総毛立ち、思わず身構える。が、そこにいたのは見覚えのない一人の女子生徒だった。制服は同じだが、少なくとも三年十組の生徒ではない。

「あんたは、誰だ?」

 戸惑い気味の男子生徒に、少女はにっこりと微笑んだ。


「私、二年三組の佐倉美鈴といいます。実は生徒会長から伝言を頼まれてきたんです」

 佐倉と名乗った少女は背中に回していた右腕をゆっくりと持ち上げた。その手の先に握られているのは――

 鈍い輝きを放つアサルトライフル、《G36C》だ。セーラー服に機関銃、華奢な少女には不釣り合いなその銃が見慣れた校舎の中で奇妙な非現実を形作っている。

 ――生徒会長、氷堂真冬の遣い。まさかこいつは!?


「全員、死んでください」

 佐倉の一言が終わる前に、反射で横へと飛び退いた。それと同時に《G36C》のトリガーが引かれ、重い発射音と共に銃弾がばら撒かれる。突然の銃声にそれまで傍観していた男子たちが腰を浮かせた。体を躱した生徒は叫んだ。


「敵襲! “女子”がきたぞぉーー!!」


 視聴覚室にいた全員が臨戦態勢に入ると同時に、扉の向こうから複数の足音がどたばたと近付いてくる。

 初撃を躱した生徒が急ぎ扉を閉めようとするが、間に合わない。押し寄せる女子らによって部屋の中に銃弾の雨が降り注がれる。奥へと逃れる男子たちが次々に背中を撃たれその場に倒れた。あまりに突然の襲撃に武器を取り出す暇もない。しかし仲間が撃たれた隙に数人の男子が積み上げられた資材の影に飛び込んだ。仮にも文化祭の準備という名目で校内に宿泊することを許されているのだ、部屋の中にはその資材が大量に積み上げられている。

 撃ち漏らした男子を追うように射撃が重ねられるが、遮蔽物に当たり跳弾となって命中しない。焦れた女子達が追撃をかけるために駆け寄ろうとするが、


「これでもくらえ!」

 そんな彼女らの眼前に凄まじい勢いで白い粉塵が舞い踊った。資材の影に飛び込んだ生徒が部屋に備え付けられた消火器を使ったのだ。反撃されるとは思っていなかった女子たちは目潰しをまともに食らい、目に見えて怯んだ。

「きゃ、きゃあああ!?」

「今のうちに敵襲の報を京介と神崎に知らせろ! 敵の数は十余名、全員が銃器を所持しているぞ!」

 白い煙の中で誰かの叫び声が聞こえた。ついで窓が開き駆け出していく足音も。


 真っ白に煙り一メートル先も見えない部屋の中を幾度かの射撃音が響くが、でたらめに放たれる銃弾は目標を捉えない。

「撃つのをやめて! 同士討ちになります!」

 銃を持っていない手で目を庇いながら叫んだ佐倉の声で銃撃が止んだ。消火器はすでに投げ捨てられた音がしており、使用した生徒ももうここにはいない。


 やがて粉塵が収まると、部屋の中には白い粉にまみれた女子だけが残った。全員が激しく咳きこんでいる。

 佐倉が部屋の中を見渡すと中庭へと続く窓が開いている。どうやら二、三人逃がしてしまったらしい。できれば皆殺しにしてやりたかったのだが――

「思ったよりやりますね」

 床に転がっている男子を数えると六名。それでも不意を突かれて逃げのびた者がいるというのは、さすがというべきか。

 ともあれ、これで自分たちの存在は敵の知るところとなった。ここからは油断なく、本腰を入れて挑んだほうがいいだろう。


「くそ、逃げられた!」

 仲間の一人が悔しそうに床を蹴り、佐倉はそれをいさめた。

「大丈夫ですよ。窓から中庭に逃げたのなら問題ありません。それより、敵が本格的に動き出す前に北校舎に攻め入りますよ。おそらく簡単にはいかないでしょうから、気を引き締めていきましょう」


 佐倉は窓から向こう、敵の本陣のある北校舎を見つめ、下唇をぺろりと舐めた。







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