三年十組の問題児たち
【南校舎・一階廊下】
「それで結局どっちが勝ったんですか?」
南校舎に散らばったBB弾を拾い集める十組一同。人差し指をあごに添え可愛らしく小首を傾げて佐倉が言った。
「俺だ」「私よ」
それに対し、京介と真冬の声が重なり火花を散らす。
「私の撃った弾は京介の心臓に当たったわ。京介の弾は私の右肩に当たった。つまり、私の勝ちよ」
「何でだ! 被弾したら部位に関わらず死亡ってルールだったろうが! 引き分けだ!」
互いに一歩も引かない二人を、傍らで見守っていた神崎がいさめる。
「まあ楽しかったんだし、いいんじゃないか? 学校でサバゲーなんて滅多にできない経験できたんだしな」
そうですよーと佐倉も口を添えるが、当人たちの機嫌はまだ直らない。だが神崎、佐倉を含む他の生徒たちはみなご満悦だ。
「そりゃお前らはいいよな。楽しむだけ楽しんで処分ねえんだからよー」
「そうよ、ちゃんとBB弾拾ってよね。弾が一個見つかるごとに反省文が十枚増えていくのよ……とんだ大作になりかねないわ」
喧嘩をしていても武田の処分に不平をこぼす二人は息ぴったりだ。なんだかんだと言いながら、仲のいい二人なのである。
「でも京介君ってけっこうサディストだよね。背中、すっごく痛かったんだけど」
そんな会話の輪には入らず、端で黙々と回収作業を続けていた香月が京介を見つめながらぼそりと呟いた。
「《M24A3》なんてごつい狙撃銃、どこから持ってきたのよ、あんなのに勝てるわけないじゃん、ずるっこー」
「あれは自前だ。お前だって何人も狙撃したんだろ? 仲間の仇だ」
仏頂面で京介は返すが、正直逃げようとしていた香月を背後から撃ったのは悪いと思わなくもなかった。
「でも京介先輩って喧嘩慣れしてるんですねー。先輩に投げ飛ばされた時は何が起きたか全然分かりませんでしたよ。まだ背中が痛くて立ってるのもやっとなんですから」
この中にいる唯一の二年生、佐倉美鈴は意地悪い微笑みを浮かべながら、京介にとっての爆弾を落とした。
「……京介、あなた柔道の段位を持っていながら素人の女の子を投げ飛ばしたの?」
「マジかよ……ひでえ」
「信じられんことをする奴だな」
途端に真冬をはじめ、周囲から冷ややかな視線が矢となって飛来する。
京介は慌てて手を振った。
「いや、し、仕方ないだろ! 俺だって佐倉から本気の蹴りもらってたんだ。あそこで佐倉を何とかしてなかったら男子は負けてたんだし……だ、誰か、俺の味方はいないのか!?」
だが弁解してみるも余計に傷口を広げる結果にしかならず。京介はまず間違いなくわざと言ったであろう佐倉に視線を向けるが、当の本人は手で顔を押さえて笑いを噛み殺していた。……なめやがってこの野郎。
「ああもう、俺が悪かった! 佐倉も、香月も! ……くそ、何で俺だけが謝る羽目になるんだ……」
結局いつもの通りに折れたのは京介で、そんな様子に全員が笑った。
およそ三十人が集まっている南校舎の中はどこまでも騒がしい。京介も真冬も、何だかんだと楽しかったので反省文もボランティアも甘んじて受けようと、そう思っていたのだが、
「でも、引き分けなら文化祭は結局何やるんだ?」
神崎がぽつりと呟いた一言によって全員に再び沈黙が訪れた。
「そりゃ演劇だろ」「コスプレ喫茶よ」
またしても京介と真冬の言葉が重なり視線がぶつかる。周りにいる生徒らもみな慣れたものでニヤニヤ笑いながら見守るのみ。誰も止めようとはしない。
京介が真冬に突っかかる。
「何ならもう一回勝負するか、相手になるぞ?」
「上等。私に挑んだことを後悔させてあげるわ」
例え相手が恋人でも無駄に血の気の多い二人だ、どちらも引き下がるような性格ではない。周囲の者たちも今度は何をやるんだ、と笑いを堪えながらその様子を眺めていたのだが、
「……どうやら反省文十枚じゃ反省したりんようだな」
廊下の奥から竹刀を片手に現れた武田先生に見下ろされ、全員が慌ててBB弾の回収作業に戻った。出し物は他の方法で決めよう……そう心に誓いながら。
――今日は九月十五日。東洋高校文化祭まで、後一か月。
トリガーハッピー/了
設定戦略配置などなど、ちぐはぐで曖昧、明らかにおかしな箇所多々ありかと思います。
本当にごめんなさい。




