6話目
ども。
やっとこさ6話目です。
+×+×+×+×+×+×+×
今日。
文目ちゃんは学校を休んだ。
風邪を引いて熱を出してしまったらしい。
連絡をしてみよう……と思ったのだが、残念ながら僕は文目ちゃんの携帯電話の番号もアドレスも知らないのだ。
一番後ろ。窓側の席。
普段は文目ちゃんが座っているはずの席には、当然だけど今日は誰も座っていない。
「…?」
ふと見ると、文目ちゃんの机からB5サイズのノートがはみ出している。
ところどころくたびれてしまっている、汚れている----というより、古びているノートだ。
少しだけ気になって、いけないとは思いつつもそのノートを机の中から取り出してみた。
表紙には、
『みまさか あやめ』
と、平仮名で名前が書いてある。
みまさか…?
確か、文目ちゃんの前の苗字がそんな名前だった。その頃から文目ちゃんはこのノートを使っているんだろうか。
パラパラとページをめくっていく。
書いてあることは、数学の練習問題だったり、日記らしきものだったり、小説の一部分だったり、落書きみたいな絵だったり、とにかく支離滅裂だった。
ページごとに、全く違うことが書いてある。
そして、最後のページには。
『ごめんなさい』
と。
ただ一言。
それだけが、文目ちゃん独特の、丸っこい字で書いてあった。
彼女が誰に謝っているかなんて分かるわけ無く、そもそも誰かに、あるいは何かに謝るつもりでこんなことを書いたのか分からないけれど、僕の体には急速に恐怖が走り抜け、ノートを触ってはいけないもののように投げ捨ててしまった。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
気持ち悪い?
何が? このノートが?
違う。
僕が怯えているのは。
僕が生理的嫌悪を覚えているのは。
文目ちゃんに対してだ。
だって、これは。
この『ごめんなさい』という文字は。
明らかに鉛筆で書かれたものではない。
シャープペンでもクレヨンでも色鉛筆でも絵の具でもない。
どう見たって--------乾いた血液の色だ。
このページだけではない。
いろいろなページのいろいろなところに、血痕がついている。
この血痕が誰の血液かなんて、明白だ。
明らかだ。
白々しいほどに。
「ひ……ぅ…うぅぅ……っ」
さしずめ、文目ちゃんに鋸を向けられたときのように、無様な声になら無い悲鳴を上げて、僕は教室を出た。
今にも吐きそうなくらい、気分が悪い。
急いで下駄箱を出て、校門へ向かう。
--------そのとき。
「そこの君。」
と、聞き慣れない声に呼び止められた。
見ると、決して都会とはいえないこの街に不釣り合いなけばけばしい女性が立っていた。
金色に染め上げたショートカットの髪。
赤いカラーコンタクト。
ピアスだらけの耳に、露出の多い服。
「そう、君だ。ちょっと聞きたいことがあんだけど……良いかな?」
かすれた声で、女性は僕に言う。僕はおずおずと女性に向かい、『何ですか』と答えた。
「ここの生徒で、『椚田文目』っているはずなんだけど……知らないかい?」
文目ちゃんの名前に、反射的にビクついてしまう。吐き気は消えない。
「文目ちゃん……は、今日は休みました。」
「そうなのかい? あー……畜生、無駄足だったねえ。」
至極残念そうに、女性はため息をつく。
「あの……あなたは…」
「ん?あぁ、あたしは美作小詩っつー者だよ。文目の、叔母にあたる人間だ。」
+×+×+×+×+×+×+×
6話目でした。
そう言えば、こんな駄作をお気に入りしてくれてる方が数人おられて驚き桃の木です。めちゃくちゃ歓喜してます。
ありがとうございます。