5話目
ども。
5話目です。いえーい。
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「…特に、面白い話でもない、んですけど。」
ありきたりな話です、と。
文目ちゃんはぽつりと話し始めた。
「私のお母さん、は、その……風俗店、で、働いていました。その時に、私のお母さんは、私を身籠りました。ので、私のお父さんは、誰か分かりません。」
「…………」
「私のお母さんは、私のことが、嫌いだったみたい……です。私のお母さんは、私に、何もしてくれませんでした。ある日、……多分、私が小学4年生くらいのとき、だったと思います。私のお母さんは、天井から宙ぶらりんになって、冷たくなって、ました。」
自分の両手で首を包むようにしながら、文目ちゃんは言う。表情は、やはり無表情だ。
「それから、私は数年、施設…みたいな所で、暮らしてました。そこにいた大人はすごく優しかった、ですけど、でも、…何だか、不自然、でした。」
「…………」
「で、えっと……確か、私が中学校に入ったくらいのとき…だった、と、思います。遠い親戚の人が、私の家族になって、くれました。これが、私の今のお家、です。そのときに、苗字も前の苗字から"椚田"に変わり、ました。おしまい。」
ちゃんちゃん。と、軽い感じで文目ちゃんは言葉を締めくくった。
「……ねえ、文目ちゃん……ひとつ聞いても、良いかな?」
「"どうして私が、突然桜野さんにそんなことを喋ったか"…ですか?」
僕の台詞を先回りして、文目ちゃんは僕に問う。
「……うん。」
「さあ……どうして、でしょうね。桜野さん、は、とてもいい人、だったから。かもしれない。です。」
「かも、って…。」
「ちなみに、」
と、唐突に話題を変えられた。
文目ちゃんの話の脈絡無さや話題が変わるときの唐突さに関しては普段からクラスメートにもいじられているけれど、やはりそれはいつ如何なるときでも健在みたいだ。
「ちなみに、私の前の苗字……つまり、私のお母さんの苗字、は"美作"、でした。苗字で呼ぶなら、そっちで、呼んで、ください。」
「え、いや……やっぱり、文目ちゃんって呼ばせてもらうよ。」
「そうですか。」
少し残念そうに、文目ちゃんは頷いた。
「……あ、じゃあさ、どうして文目ちゃんは苗字で呼ばれたくないの?」
「うーん…………それは、あんまり言いたくない、です。」
「……そっか」
「…もしも、桜野さんが、体育を休んでいる"いろいろ"を私に教えてくれたら、私も喋り、ます。」
「そっか。」
「はい。」
こくん。と頷く文目ちゃんに、僕は少しだけ微笑んだ。彼女が僕にこんなことを話した理由も、僕の"いろいろ"に対して嬉しそうだった理由も、正直に言うと、よく分からない。分からないけれど、何となく、本当に何となく、僕の中で、文目ちゃんは『不気味な女の子』ではなく『不思議な女の子』になった。ような気がした。してしまった。
今思えばそれは、軽率な気持ち以外の何でもなかったのだろうけれど。
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5話目でした。読んでくださった方はありがとうございます。