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吉野くんの優しい笑顔に負けてしまった。
まっ……いいか……。
先生が頼んだことだし……
……教わらないのも逆に変だし……。
「じゃあ……吉野くん……よろしくお願いします」
吉野くんは私の言葉に、また、笑顔になってる。
そんな吉野くんの反応に嬉しくなってるし……私って単純……。
「こちらこそ。役に立てるように頑張るよ」
吉野くんは、真面目だなぁ……。
私の方が頼んでるのに真剣に答えてくれて……
「そんなに頑張らなくてもいいよ。それより、私が馬鹿すぎるからって呆れないでね」
「大丈夫。こつさえつかめば、すぐに分かるようになるよ」
「つかめればでしょう?自信ないな……」
教えるなんて……面倒なはずなのに……
やる気になってくれてるし……
真剣に頑張らないと!
吉野くんは真面目だな……
優し過ぎるし……。
みんなに人気があるっていうのも、今なら分かる気がする。
私は、吉野くんと一緒に教室に戻った。
すると、すぐに冬馬が寄ってきた。
もう!
冬馬……やっぱり待ってたんだ……。
「広夢!?どうしたんだよ?」
「先生に佐々木さんの勉強を教えるよう言われたんだよ。冬馬も一緒に勉強しない?」
ちょっと……!
吉野くん……!面倒だから冬馬を誘わないでよ!
「俺!?まじ、勘弁してよ!授業以外で勉強したくないし!……有紗?まじで勉強する気!?」
……する気だし……!!
別に、いいでしょ!?
人がせっかくやる気になってるのに!
放っておいてよ……!
「冬馬……!有紗は先生から言われてるんだから仕方ないでしょ!ほら、邪魔しないで部活に行くよ!」
恵梨が私の様子を見て……
無理矢理に冬馬を連れ出してくれた。
恵梨、ありがと!
後でお礼するから……!
私は、心の中で恵梨に手を合わせた。
「えっ帰るの?……みんなも一緒に勉強すればいいのにね?」
えっ……!?
吉野くん……本気で言ってるの!?
「……無理でしょ?みんな、出来るなら勉強したくないし……」
「そうかなぁ……?」
吉野くんは残念そう……。
そっか……!
お節介っていうより、吉野くんは素でずれてるんだ。
でも、そういう所が……
ほのぼのしてて……いいんだけど……。
……なんて……。
私も……
早く終わらせて帰ろう!
「じゃ、プリントやってみよう?最初の問題からやってみて……?」
吉野くん……ごめん。
実は…………
「……うん……。ごめん、最初から、全然、分かんないんだけど……」
「そうなんだ?ここはね……Xをここに……」
やっぱり、いい人だなぁ……。
最初から分からないと言っても……馬鹿にしないで教えてくれる。
……でも……
あの……
吉野くん……!?
真剣に教えてくれてるのは、分かるけど……
ちょっと、顔が近くない?
やばいよ……!
問題は聞いても分かんないし……。
ていうか……!
どきどきしてきて……
私……
だんだん……顔が赤くなってない!?
それに、なんか暑いし……!
「分かったかな……?」
吉野くんが私に聞いてきた。
私に振り向いた吉野くんの顔が……
……本当に近くて……!!
わざとやってない?
男の子と二人っきりになったぐらいで、こんなに動揺するなんて……!!
こんなこと今までないのに……!
「綺麗な爪だね?」
もう……!
人の気も知らないで……!
吉野くんが私の指を見て言ってきた。
「爪は磨いてるから……。こんなことばっかり興味があっても、駄目だよね……?」
吉野くんは、私の手を見てたんだ……!
びっくりした……!
じっと見つめてるから焦ったよ……!!
でも……吉野くんが近すぎて……!
吉野くんに……
私の心臓の音が聞こえてないかな……?
「佐々木さんは、いつも全体的に、手入れが行き届いてるよね?」
吉野くんは……普通にしてるのに……
私ばっかり……焦ってドキドキしてない……!?
「……この情熱が勉強にまわれば、天才になれるかもしれないのにね?って思ってる?」
平然を装って、明るく言ってみたけど……
吉野くんは、真剣な顔をして私を見てる。
何……??
どうしたの……?
そんなに見つめると……勘違いしてしまいそうになるから……見ないでよ。
「佐々木さんは将来、こういう道に進もうと思ってる?」
そういう意味で見てたんだ……!
本当に吉野くんは真面目なんだね。
もう、私ばっかり、焦って……!
馬鹿みたいだし……。
「……まだ何も考えてないよ。吉野くんは?」
「俺は……医者になりたい……って、思ってる……」
そうなんだ……!
吉野くんは、将来はお医者さんになるんだ……
なんか、吉野くんらしい。
「……吉野くんらしいよ。優しいし真面目だし、吉野くんなら、きっと、いいお医者さんになれるよ」
「困ったな……!医者の事は誰にも言った事なかったのに……。佐々木さんって、馬鹿にしないで何でも聞いてくれるから……言いやすいのかな……?」
えっっ……!!
逆だよ……!!
吉野くんの方がちゃんと話を聞いてくれてるよ。
でも……
吉野くんは、私の事をそんな風に思ってくれてたの?
吉野くんって……
初めからそうだよね?
外見なんかで、人を判断してないし……。
だから……吉野くんの話は素直にきけるのかも?
「吉野くんの話を馬鹿になんてしないよ。他の人もそうだと思うし……」
「ありがとう。佐々木さんは真っ直ぐだよね」
そう言って、吉野くんが私に笑いかけてきた。
えっ……!
その笑顔は反則だよ……!
それに……
「そんなことないから!それに性格ひねくれてるし!」
真っ直ぐとが……
そんなこと……言われると
照れるよ……!
……顔が熱くなってきてるのが分かる……!
もう……!
吉野くんは天然なんだから……!!
吉野くんに私が動揺してるって事が伝わったかな?
……どうしよう……?
「もう、変な事言わないでよ!早く続きしないと……帰れないよ!」
私が焦ってると……
吉野くんは……私を見て笑ってる!
私が焦ってるのばれてるし……!
もう、調子狂うな……!!
もしかして、遊ばれてる!?
「そうだね、続きは……?ここまでは分かった?」
「……うん」
「だから、この次も同じように考えたら、出来るよ」
問題を見てるのに……
どきどきして……問題が頭の中に入っていかないよ……!
「だからね、さっきと同じだよ?ここをこうすれば……考え方は同じだよ?」
吉野くんが、一生懸命教えてくれてるのに……!
しっかりやらないと……!
「ねっ?出来た!」
「本当だ!凄い、解けたよ!!」
「次も同じだから、一人でやってみて?」
「分かった。やってみる!」
凄い……!
難しい暗号の様な数式が……
簡単に解けた。
分かってくると……
案外……簡単なのかもしれない……。