7
あの時、私はどうして酔っぱらってしまったんだ!皆の前で恥ずかしい醜態を曝して、崇史さんの部屋に何も疑わず入ってしまうなんて。いっその事、記憶がなければいいのに悲しいかな、私は今まで酔っぱらって記憶を無くした事がないんです。
「崇史さん?どうしたんですか~?」
「香織、とりあえず上がって。」
「は~い。広い玄関ですね~。靴がいっぱい置ける~。」
「はいはい。いいから、通路をまっすぐ進んだらリビングだから、そこのソファーに座って。」
「ん~、まっすぐ~!」
「まっすぐ進んでないぞ。」
崇史さんが抱きしめてくれて、リビングまで連れていかれた。そのリビングも私のワンルーム以上の広さがあり、大きな窓の外には輝く夜景が望める。
「はぁ~、キレイ~!」
「ほら、座って。水持ってくるから。」
「ん~。」
崇史さんが水を持ってきてくれて、私の隣に座った。
「はい。飲める?」
「は~い。」
受け取って、水を飲む。と、飲んでる途中に零してしまった。
「あ~、やっぱり零したか…。」
「ん~、冷たいです~。」
「結構濡れたな。洗濯するか。香織、ブラウス洗濯するから脱いで。ついでに風呂、入ってこい。あぁ、シャワーにしろよ?溺れたら大変だ。」
「はい。」
こっくんと頷けば、崇史さんは私の手を取ってお風呂場へ連れて行ってくれた。
「バスタオル、ここに置いておくからな。それから、着替え。俺のだけど、パジャマ置いとくから。」
「はい。ありがとうございます~。」
お風呂場のドアを開けてリビングへ行く。シャワーのおかげで少し酔いが醒めてきたようだ。
「崇史さん、出ました~。」
「やっぱり俺のパジャマ、大きかったな。可愛い。あ、髪乾かしてないじゃないか。ドライヤー、あっただろう。」
「ありました~?」
「いいから、ここ座って。」
私をソファーに座らせると、お風呂場へ行ってドライヤーを持ってきてくれた。貸してくれるのかと思ったら、そのままソファーの後ろに回ってドライヤーのスイッチを入れた。
「おとなしくしてて。」
「は~い。気持ちい~!」
「はいはい。ちゃんと座ってて。」
そう言って髪を乾かしてくれた。乾ききる頃には眠気が襲っていた。
「はい、乾いたよ。」
「ん。ありがとう、ございます。」
再び隣に座った崇史さんは私を抱き寄せて、髪を梳きながら言う。
「香織。今日みたいな姿は、他の男に見せては駄目だ。」
「はい…。すいません、醜態をお見せしてしまって。」
「いや、そうじゃない。あんな可愛い姿は俺の前でだけ、見せてくれたら良いと言ってるんだ。」
「え~、可愛いですか?ご迷惑かけてしまって…。」
「ふふっ。俺以外に甘えたの姿を見せたお仕置きだよ。」
なんだか悪い笑みを浮かべていま~す。これって、危険、ですかね~?私、もう眠くって。そのまま目を瞑って崇史さんの胸に凭れかかると、暖かく柔らかなものが頬に押しあてられる。続けて、唇にも。ぼんやりした意識の中でキスされてるんだ、と認識がされたところで深い眠りの中へ入っていった。
――香織の唇。柔らかくて気持ちいい。いつまでも味わっていたい。
何度も角度を変え、音を立てて唇を吸う。香織の表情が見たくて顔を上げると。
「寝てる…。」
またか!ここで寝るか?コイツ、どうしてくれよう。これだけで許すなんて…。
その時、俺の中に小さな悪戯心が芽生えた。
香織を横抱きにし、寝室へ連れていく。ベッドサイドのランプだけを点けた広いダブルベッドに香織を寝かす。ゆったり寝たいがためだけに、一人では広過ぎるかと思いつつダブルを買ったが正解だった。
香織を上から見下ろすと、ゆっくりとパジャマのボタンに手を延ばす。上から順番に2つ、3つとはずしていく。
その唇に軽く口づけ、優しく髪を掻きあげ右耳後ろのホクロを舐める。そのまま首筋に唇を這わせ鎖骨を小さく舐め上げる。その少し下へ強めに吸い付いた。赤い痕が残る。それを見て、うっすらと微笑む。
さらにの下へと移動していく。ボタンを外した胸元を寛げ、その胸に再度吸い付く。「ん…。」眠ったままの香織が小さく上げた声に気を良くし、何度も吸い付く。胸元にいくつも赤い痕が散らばっている。
「これくらいは許してもらわないとな。」
その痕をじっくり眺めて満足し、順番にボタンを嵌めていく。
そっと頬を撫でて香織を後ろから抱き込み右耳のホクロにキスをするとシャワーを浴びるためにゆっくりとベッドを後にした。
翌朝。
先に目を覚ました俺は、後ろから抱きしめたまま香織が起きるまで身動きせずにその身体の暖かさを堪能した。
香織の反応を楽しみにしながら待つ時間はとても幸せだった。こんなに寝起きから気分がいいのも珍しい。
腕の中の香織が身じろぎした。しかし、まだ目が覚めたわけではないようだ。香織を抱きしめた俺の腕の上に、無意識だろう香織の手が重ねられる。そのまま俺の腕を抱きしめるように力を込めるから、思わず腕に力が入る。
すると香織は「ん~。」と言う声とともに寝返りを打ち、こちらを向くとその頭を俺の胸に擦り付けてくる。
「なんだコレ…。可愛い!」呟いていた。香織はまだ起きない。その額に小さな音を立ててキスを落とす。早く起きて欲しいが、もう少しこのままでいても欲しい。そんな思いで香織の顔をじっと見つめる。
ふいに香織の瞼が動き、ゆっくりと目が開けられる。まだ寝ぼけたような目で俺を見上げる。しばらく見つめ合ったままでいると、徐々にその目が瞠られていく。そのまま硬直。俺はその様子を微笑みながら眺めていた。
「ぎゃっ!!」
私が今日の朝一番に上げた声です。またしても起きたら目の前に崇史さんの笑顔。そしてまたまた同じベッドで寝てしまったのか!顔が耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。早く離れないと、と思って崇史さんの腕から逃れようと身を捻るけど、がっしりと抱き込まれていて離れられない。近い近い!
「香織。何してるの。俺が逃がすわけないだろう?」
なんですか!その色っぽい笑顔!鼻血ものです。瞬殺です!直接響く甘く低い声にも、もうクラクラです~!
「あぁの、離して…。」
ちょっと涙目になってしまった。そんな私を見た崇史さんは当然、離してくれるわけはなく。
「ソレ、反則だろ!ああ、もう可愛過ぎる!」
そのまますごい勢いで私に覆い被さってベッドへ押さえつけられると、唇を塞がれてしまった!そのまま舌が侵入してきて、朝っぱらから超濃厚なキス。いきなり何するんですか~。こんなに濃厚なキスは初めての私は、今度は酸欠でクラクラしてきましたよ。ヤバい、キスで殺される!必死で崇史さんの背中を叩くと、やっと解放してくれた。空気、空気をプリーズ!
崇史さんは色気ムンムンの微笑みでそんな私を見つめ、やたら鎖骨の辺りを撫でまわしている。何かと思って視線を下げて見てみると…。
「何、コレ!」
赤い斑点が点々を無数にある。それもパジャマの中まで続いているようだ。
私の雄叫びを聞いた崇史さんは、「ふふっ。」と笑ってとっても嬉しそうだ。
「昨日、香織が寝てしまったのが悪いんだよ?君の可愛い姿を他の男に見せたお仕置きだって言ったよね。これだけで許してあげたんだから感謝して欲しいね。」
「これだけって…。」
絶句。結構な数ありますよ。それによく見えないけど、首元の痕は下手したら見えてしまいませんか。
……前々からもしかしてって思ってたけど、崇史さんってSっ気ありますよね?
そこでやっと私は部屋の様子に気づいた。私の部屋じゃない。って事は崇史さんの部屋ですか。そういえば、昨日連れて来られたような気がするけどリビングまでした見てなかった。という事はここは寝室って事ですね。一体、この部屋は何部屋あるんでしょうか。課長職ってこんな所に住めるほど、お給料良くないと思うんだけどな。
ちょっと現実逃避に走っていたら。
「今日は休みだから、一日中俺に付き合ってもらうよ。」
にっこり笑って私の手を引き起き上がらせてくれた。
「とりあえず、着替えて。昨日のブラウス、洗濯して乾いてるから。それからちょっと遅いけど朝食にしよう。」
「…ぁい。」
諦めて返事をするしかない。
着替えてリビングへ行くと、崇史さんが朝食を用意してくれていた。
「座って。簡単にパンとコーヒーだけど、いいかな。」
「はい。私、いつも朝はコーヒーだけなんで十分です。」
「そっか。でも、なるべく朝食は食べた方がいいよ。」
「ん~、わかってるんですけど、朝ご飯を食べる時間があったら寝てたいっていうか。」
「ああ。わかるよ。」
今日の崇史さんは、ご機嫌なようで終始笑顔を見せてくれる。
朝食後、コーヒーを持ってソファーへ移動してから、お盆休みの話をする。
崇史さんは何日に出発するか、新幹線の予約は何時に取るかを楽しそうに話してるですが。な・ぜ!私は崇史さんの膝の上でその話を聞いてるんでしょうか。横抱きにされ、両手でがっしり腰を固定されておりまして。これもお仕置きとやらの一環でしょうか。
「香織。聞いてるか?」
「ふぁい!」
「なんだ、その返事は。じゃあ、13日に出発で15日に帰ってくるのでいいな。今からだとギリギリ予約が取れるかってところかな。」
「いいと思います!」
「朝は…そうだな、10時発にしよう。帰りはちょっと早めにして17時着でどうだ?」
「はい、それで。」
「お義母さんに会うのは13日で構わないか?着いてすぐに挨拶に伺おう。残りの2日間は観光だな。」
「母に伝えておきます!」
「うん、よろしく。あとは、宿泊だな。香織の実家は大阪のどの辺りなんだ?」
「ウチは北の方ですよ。江坂です。新大阪からも北になるんで、宿泊は観光しやすい梅田辺りの方がいいと思いますよ。」
「そうなのか?出張のときの宿泊も梅田だったな。たしか、JR大阪駅と一緒になってるシティホテルだったよ。」
「ああ、あそこは便利ですもんね。」
「香織はどこのホテルがいい?」
「は?私は実家に…。」
「案内してくれるんだろう?一緒に決まってるじゃないか。」
「えっ。」
「当たり前だろう。」
至近距離から見つめられる。そんな訳にはいかないですよ。一緒に泊まるなんて…。あ!部屋は別なんですね!
「あの、部屋は…。」
「もちろん、一緒だよ。恋人同士が違う部屋なんておかしいだろう?」
いえ、あのですね…。何度も言うようですが、仮に!です。お互いの利害の一致です!複雑な顔をしていると、ふいに視界が暗くなった。途端、またキスされた!
「ちょっ!崇史さん、いいかげんにしてください!」
「どうして。嫌なのか?」
「嫌というより、ダメですよ!」
「嫌じゃないなら問題ない。」
と笑顔でまた近づいてくる。
「ちょ~と待った!」
私は崇史さんの胸に手を突っぱねて頑張る。
「恋人役でここまでする必要ないと思います!」
そうはっきり言うと、崇史さんの顔から笑顔が消えた。会社で見るような無表情。
「普段から本当の恋人として振る舞わないと、すぐにバレると言っただろう。それとも、香織はお義母さんの前でバレてもいいと?そうすれば、また見合い話が来るぞ。どうなんだ?」
「それは…、困りますけど。」
「なら、役とかフリとかは考えるな。」
吐き捨てるように言うと、素早く噛み付くようにキスをしてきた。今度は先程のように軽いキスではなく、寝起きの時のように濃厚な、でもすべてを奪い尽くすような激しく荒々しいキス。こんなキス、知らない。苦しくなって喘ぐように空気を求めて口をずらした私に、さらに深いキスがされる。
「ふぁ、ん…ん。」
全身の力が抜ける。崇史さんに凭れかかってしまうと、やっと唇を解放してくた。
「香織。わかったな?」
「……はい。」
私の背中を優しく擦りながら崇史さんが言った言葉に、思考のはっきりしないままそう答えた。ぼんやりと、仕事とは違った怖さを感じた。
崇史さん、二重人格?ちょっと暴走しちゃったかな〜。にしても、香織はすぐに寝ちゃいます。寝汚い子なんで(笑)
次回、大阪に行きます!