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 温かなモノに包まれながら幸せな夢を見ていた気がする。


 翌朝、いつもより遅い時間にぼんやりと意識が浮上する。

 あったか~い。気持ちいぃ。でも、なぜか身体が重い。身動きができない。何かが身体の上に乗っているようだ。それを退かそうと手を動かす。が、手も動かない。なんとか動かそうともがいていると、さらにきつく動けなくなる。どうやら、上に乗っているのではなく絡みついているようだ。と思ったところで、やっと目を開けた。目の前に白いシャツ。シーツではございません。シャツです。はて?そのまま目線を上げると…。

 はぁ~??色気だだ漏れの崇史さんが!微笑んでおりますよ!なんということでしょう。じゃなくって、どゆこと?


「おはよう、香織。」


 なんですか、その甘ったるい声!ちょっと気怠げで掠れた低い声。悩殺モノですよ!いえいえ、それよりも冷静になりましょう。


「……おはようございます。あの、これは一体どうゆうことでしょうか?」

「どうゆうことって。香織は俺の恋人なんだから普通だろう?」


 いや、恋人っていっても役で(仮)なんだから誰もいないとこでは意味ないでしょ。

 小さなため息が頭上で聞こえると、少し唇を歪めて言った。


「心配しなくてもいいよ。昨日はお互い疲れてたから、一緒に寝ただけだ。何もしてないよ。」

「そうですか…。」

「残念ながらね。」


 そんな言葉は華麗にスルーです。


「…あの、もうそろそろ離してもらえませんか?」

「イヤ。」

「イヤって言われてもですね~。」


 崇史さんはきっちりと私を抱き直してしまった。身動きできん!


「まだ時間あるんだから、ゆっくりしよう。」

「私、マッサージ行きたいんですけど。」

「マッサージなら俺がしてあげるよ?」

「イエ、ケッコウです。」


 マッサージは早々に諦めました。

 なんだか、寝起きでズレた会話をしているような気もしないでもない。マッサージに行きたい、じゃなく、そういう事はホントの彼女にしてくださいって言うべきだったよ。

 ぐっすり眠れて疲れはとれたはずなのに、頭痛がするのはどうゆうコトか。それでも私は崇史さんを押しのける事ができずに、そのままで話をするハメになった。


「香織。この前お母さんに会うって話、しただろ。」

「はい。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」


 この体勢でこの言葉使いってなにか違和感がありますね。


「それはいいんだ。香織の実家ってどこ?」

「大阪です。」

「へぇ~、大阪なんだ。そのわりに大阪弁出ないね。」

「大学からこっちにきてるんで普段は出ませんよ。ただ、地元に帰るとやっぱり出てきますけど。」

「そういうものなんだ。それで、時間ができるのがプロジェクト終了後だって話したけど、お盆休みとかはどう?」

「お盆休みですか?はい。大丈夫だと思います。」

「じゃあ、お盆に大阪に行こう。一泊か二泊して観光してこよう。香織、案内してくれるよね?」

「え!そんな、悪いですよ。母がこっちに来るって言ってましたから、わざわざ出向いていただかなくても…。」

「そうなのか?でも俺、大阪って出張でしか行ったことないから観光に行ってみたいんだよな。」

「はぁ。じゃあお願いします。」

「良かった。今から新幹線のグリーン席予約しておけば、乗れるよな。」


 崇史さんは上機嫌でニッコリ笑った。そのニッコリ笑いを目の前で見せないでください!すごく顔が熱くなってきたんですが!


「あの、もういい加減離してもらえます?用意して、お昼も食べないとですし。崇史さんも、今から帰るのは大変でしょう?良かったらお風呂使ってください。」

「そうだな。もうこんな時間か。もっとこのままでいたかったんだけどね。じゃ、風呂借りるよ。」


 私の頭を撫でてから、やっと離してくれました。はぁ~、すごい開放感!

 崇史さんは自分の荷物を持つとお風呂場へと向かった。私も今の内に着替えて用意しないと!




「風呂、ありがとう。」

「いえ、何か飲みますか?」

「冷たいもの、ある?」

「はい。水とお茶と牛乳とありますよ。」

「水。」

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」


 水を手にソファーへと座った。


「お昼ご飯、どうしますか?実は最近帰れてなかったんで、買い物にも行けてないんです。冷蔵庫のなか空っぽなんですよ。」

「そうだろうな。出勤途中にどこかで食べて行こう。」

「はい。」






 途中、昼食を取って二人で出社した。

 さすがに、皆の視線を集めたようで小さな声で囁いているのがわかる。


「大丈夫だ。気にするな。」

「…はい。」


 私たちはデスクへ着いた。


「原田さん、おはようございます。ゆっくりできましたか?」

「ああ。ま、時田たちほどではないけどな。」

「え、あの、……どういう。」

「あれ~?オレに言わせるの~?」

「原田、勘違いするなよ。」


 ニヤニヤしながら言う原田さんにどう返していいかわからずにいたら、崇史さんが釘を刺してくれた。


「どの勘違いだ~?今更隠さなくても~。」


 完全に面白がられている。崇史さんは無視。


「なんだ、面白くないな~。」


 私たちが何も言わないから諦めてくれたみたい。


「おい、今日もう一度、最終テストやるぞ。場所確保と全員に連絡。」

「ほ~い!」







 その後のテストでも問題なく稼動し、クライアントチェックもOKが出た。

 8月1日。

 予定通り、本格稼動。しばらくは注意が必要だけど、なんとか大丈夫そうだ。

 設計課のメイン担当者はもう少し担当として残るが、プロジェクト自体は無事終了。

 全員で打ち上げをする事になった。



 駅前のアジア風居酒屋。

 あの~これはどういう並びでしょうか。全員参加できたのは良い事なんですが、私の両隣が崇史さんと藤本さんって。両手にイケメンですよ!かたやクールビューティー。かたや王子様。いや~、幸せですな~。なんて思っているともう一人の女子、和泉さんに睨まれたような気がする。その和泉さんは、しっかり藤本さんの隣を確保しております。

 飲み物も料理も運ばれてきて、皆で乾杯をする。


「いや~、今回も大変だったね。水原、初めてだったけどどうだった?」


 私の向かいに座った原田さんはビールを一気に飲み干して聞いてくる。


「もう大変でした。Web事業部ってこんな事やってたんですね。毎回、こんな感じなんですか?」


 私もビールを飲みながら聞くと、隣から藤本さんが答えてくれる。


「毎回ってわけじゃないよ。大手からの仕事とかは、大変は大変だけど予算も日程も余裕があるから通常勤務プラス残業でなんとかなるよ。でも中堅企業や中小だと、そうはいかないから。今回は中堅だったけど、正直キツかった方だよ。これでも時田課長がついてスケジュール調整してくれたおかげで、この程度で済んだんだと思うよ。」

「そうなんですね~。」


 崇史さんを見るとこちらを横目で見ながらビールを飲んでいる。

 そこで和泉さんが会話に入り込んできた。


「そういえば、時田課長と水原さんて付き合ってるんですよね?」

「えっ、あの、付き合ってるというか…。」

「そうだ。」


 私が言い淀んでいる隙に崇史さんがきっぱりと言う。…恋人役をしているだけなのに、こんなに公にしていいのかな?


「課長、女子から人気あるのに水原さんは嫉妬とか受けてないんですか?」

「ははっ。和泉~、こいつが水原にそんな事するの許すわけないだろ。裏で全部潰してるよ。」


 原田さんが楽しそうに言うのを聞いて、私も和泉さんもビックリ。「わざわざ言うな。」と小さい声で崇史さんが咎めているけど、


「当然ですね。」


 そう言った藤本さんを振り向くと、私を見ながら話す。


「自分の好きな子を守るのは当然。自分のせいで水原さんに嫌な思いして欲しくないからね。」


 なぜかそう言った藤本さんから目が離せないでいると、後ろからそっと引き寄せられた。

 それを目敏く見つけた原田さんがニヤニヤしながら言った。


「おいおい、その程度で嫉妬するなよ。水原はただ話してるだけだろ。そんなに心配なら家に閉じ込めとけば~?」

「そうだな。それもいいか。」


 原田さんは冗談で言っただけなのに、崇史さんが真剣な顔で答えるから顔が熱くなるよりもちょっと引きつってしまった。冗談、ですよね?

 そんな恥ずかしい会話に耐えられず、ビールを呷る。


「おい、そんなに飲んで大丈夫か?」

「大丈夫です!」


 崇史さんの言葉に藤本さんも心配そうに見てくるけど、これが飲まずにやってられますか!?またしても羞恥プレイですか~?


 少し酔いを醒ますためにトイレに立った。席に戻る途中、和泉さんに会った。


「水原さん、課長と付き合ってるなら藤本さんに馴れ馴れしくするの、やめてくれない?」

「え?私、別に馴れ馴れしくしてるつもりないですけど。普通に話してるだけですよ?」

「それが馴れ馴れしいって言ってるのよ。用がないなら近づかないで貰いたいわ。」


 そんな理不尽な事、黙って聞いてるわたくしじゃございません!


「ほとんど藤本さんから話しかけてくるんですよ。そういう事なら藤本さんに言ってください。」

「…とにかく、貴方からは近づかないでちょうだい!」


 言うだけ言うと席に戻って行った。

 何なんだ。そんな事、私に言われてもどうしようもない。和泉さんは藤本さんが好きってことなんだろうけど、私に当たるなんて全くのお門違いよ!


 席に戻った私は鬱憤を晴らすため、とりあえず飲んだ。


「いい飲みっぷりだね~。やっとプロジェクト終わったんだから、飲んどけ〜!」


 原田さんに注がれるままに飲んでいると、身体が熱くなってきてなんだか楽しくなってきた!少し酔ってきたかな~。

 隣の崇史さんに話かける。


「課長、飲んでます~?やっと終わったんだから楽しみましょ~?」

「……酔ってるな?」

「ん~、すこ~し?」

「もう止めておけ。明日辛いぞ。」

「え~、明日はお休みじゃないですか~。もうちょっと飲むの~!」


 崇史さんは無言で酔っぱらいの私からビールを奪って代わりにウーロン茶を置く。


「ヤダ~。私のビール!崇史さん、ズル~イ!」


 崇史さんの呆れたような困ったような顔を見て、なんだか嬉しくなってきちゃった。

 完全酔っぱらいの私は他の皆がどんな顔をして私たちを見ているか、全く気にしていなかった。ただ、原田さんだけは面白がってるんだろう事は簡単にわかったけど。


「はぁ。香織、今日は帰るぞ。」

「ヤ・ダ!そんな怖い顔してる崇史さんと一緒に帰りたくない!」


 遠くで原田さんのバカ笑いが聞こえてきたが、そんな事はもうどうでもいい。いつもの崇史さんの優しい笑顔が見たいの。


「た・か・し・さ~ん!怖い顔はいや~。だってさ!水原、可愛い~!ぎゃはは!」

「原田…黙れ!」


 原田さんを睨む崇史さんの腕を少しだけひっぱりながら、さらに言う。


「崇史さん!いつもみたいに笑って~。お仕事終わったんだから、いいでしょ~?」


 小首を傾げながら言ってみる。「課長が笑う…。マジで?」呟きがどこからともなく聞こえてきた。

 崇史さんは原田さんを睨んだまま、こっちを向いてくれない。私は手を延ばして崇史さんの頬を両手で包むとこちらを向かせた。


「崇史さん?どうしてこっちを向いてくれないの?私といるの、嫌?」


 なんだか悲しくなってきて、崇史さんを見上げる。崇史さんは少し驚いた顔をしたが、口元を緩めて言ってくれた。


「そんな事あるわけないだろう。どんな香織も可愛いよ。」


 その言葉ですっかり気分の良くなった私はにっこり笑った。


「ありがとう。崇史さん!」


 原田さんが信じられないものでも見るように崇史さんを見て、小さく呟いた。「マジかよ…。」


「ほら、もういいだろう。帰るぞ。」

「は~い!」


 崇史さんが私の荷物を持って、私が立ち上がるのを待っていてくれる。


「皆、悪いが俺たちはこれで失礼する。原田、これで支払い済ませてくれ。」

「はいはい、どうも~。水原は大丈夫か?」

「ああ、たぶん大丈夫だろう。」


 立ち上がった私がふらついたのを見た崇史さんが、私を支えてくれる。そのままお店を出るとタクシーを止め、私を乗せてから崇史さんも乗り込んでくる。また、送ってくれるのかな~。


「香織。大丈夫か?」

「は~い。大丈夫です!」

「ふぅ~、この酔っぱらいが。君は酔うと甘えたになるのか?皆の前であんな姿を見せるなんて…。」

「え~、何がですか~?」

「……お仕置きだな。覚悟しろよ。」


 低い声で言われました~。なんで~?私、何も悪いことしてないのに~。


 タクシーが止まった。顔を上げると知らないマンションの前だった。


「?ここドコ?」

「香織、おいで。」


 崇史さんが優しい顔で言うから、躊躇なくタクシーを降りて付いて行く。

 オートロックを開けて広いロビーに入る。高級そうなマンションだった。


「キレイ~。高そ~。」

「そうでもないよ。」


 腰を抱かれたままエレベーターに乗り込み、最上階まで上がる。エレベーターが開くと、目の前の廊下には部屋が2つ。それも、玄関扉の前に門扉まで付いている。

 その内の奥にある部屋の扉を崇史さんが開けて私を玄関内へ導くと、扉を閉め後ろ手に鍵を掛けた。

 ニヤリと黒い笑みを浮かべて私を見る。


「ようこそ。俺のテリトリーへ。香織、今日は帰さないよ。」


 



酔っぱらい香織が書いてて楽しかったです!もう勝手にしゃべってましたよ。

あともう少しいちゃいちゃしたら、ちょっとシリアスに入っていきます。

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