4
祝!お気に入り150件突破!
皆さま、ありがとうございます〜(≧θ≦)
わたくし、感謝感激感涙でございます!結構、浮かれております(照)。
頑張って書いていくので、これからもよろしくお願いします〜。
「香織、着いたよ。起きて。」
肩を揺すられる感覚に私はゆっくりと目を開けた。目の前に崇史さんの顔。しかもドアップ!びっくりして目を見開いた。
「…大丈夫か?随分、疲れてたみたいだから、晩飯は止めて帰ってきたんだが。」
「あっ、はい!すいません。私、寝てしまってたんですね。起こしてくれて良かったのに。」
「香織の可愛い寝顔を堪能させてもらったよ。」
クスッと笑ってそんな事を言われた。恥ずかし過ぎる!
「す、すいません!」
「いいよ。それより明日はゆっくり休んで疲れを取っておくようにな。」
崇史さんは、運転席から助手席へ回ってドアを開けてくれた。そして後部座席から私の荷物を取り出すと、
「部屋まで運ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。そんなに重たくないし。」
「そうか…。じゃ、部屋に招待してもらうのはまた今度で。今日は楽しかったよ。おやすみ。」
「…こちらこそ、ありがとうございました。おやすみなさい。」
崇史さんは私の頭をひと撫でして車に乗り込むと帰って行った。
部屋に戻った私は簡単な夕食を取ったあと、早めにお風呂に入ってコーヒーを飲みながらほーっとしていた。
メールの着信音が鳴る。
“今日はお疲れ様。またデートしような。月曜はちゃんとスーツを着てくるように。おやすみ。”
…甘い。なんか画面がピンクに見える。いや、メールとしては普通なんだけど、これを崇史さんが送ってくるって事がポイントです。どうしよう、なんて返したら。。
“お疲れさまでした。今日は楽しかったです。ありがとうございました。月曜日、スーツ着ていきますね。おやすみなさい。”
絵文字も顔文字も一切ないメール。こんなのでいいのかな。普通のメールの方がいいよね。…だって彼女じゃないんだもん。
そのまま送信した。
たぶん、この頃から私は崇史さんのことが気になっていたんだと思う。無意識のうちに『私は彼女じゃない』って思うようになって、それが寂しいと感じた。
月曜日。崇史さんとの約束通り、買って貰ったスーツと新しいパンプスで出勤した。
ロビーで偶然、智美を見つけた。
「智美!おはよ!」
「おはよう。あれ?今日スーツなの?珍しいね。いいじゃない。それはそうと香織、その後どうなったのよ?全然教えてくれないんだから!」
「あ、ごめん。なんか色々あってわすれてた~。土曜日にね、アウトレットに連れてってもらって、このスーツ買ってくれたの。」
「はぁ~?どうなってんのよ…。もう時間がないわね。今日のお昼休み!香織に合わせて休憩とれるから、その時に聞かせてもらうわよ!」
「うん。わかった~。」
智美と別れて部署に入ると、
「あれ。水原さん?今日はスーツなんだね。似合ってるよ。なんかいいね、スーツ姿。」
先週、変に納得して去って行った藤本さんが話しかけてくる。
「ありがとうございます。」
「今日、何かあるの?」
「いえ?特になにもないですけど?」
「ふ~ん。デートか何かなのかと思った。」
「そんな訳ないじゃないですか。」
入り口近くで話していたら、後から部長が入ってきた。
「部長、おはようございます。」
「ん、おはよう。水原さん、スーツなんだね。いいね~。」
そう言ってデスクへ向かった。私も藤本さんに会釈してデスクへ向かう。やたらとスーツの事を言われるな~。いつもカジュアル系なんだけど、やっぱりスーツの方がいいんだろうか?でもWeb事業部ってスーツの人少ないししな~。役職付きの人くらいで。
デスクに近づくと崇史さんが座っているのが見えた。ちゃんと約束通り、スーツで来ましたよ!
「おはようございます。」
「おはよう。」
ちょっと素っ気ない挨拶に寂しくなってしまう。すると、正面のデスクから原田さんが聞いてきた。
「おはよ。水原、今日どうしたんだ?」
「どうもしませんよ?ただ新しいスーツを着てきただけです。」
「ふ~ん。」
そう言って偶然にも二人して隣の崇史さんをチラッと見た。今日の崇史さんは、いつもの会社モード。無表情なんだけど、どこか機嫌がよさそうだ。怖いオーラがあまり出てない気がする。
崇史さんは私たち二人を見て、
「今日の15時、プロジェクトのこれまでの進捗状況を確認する。水原、打ち合わせブースを確保してくれ。原田、他のメンバーに連絡を。それから、設計にテストページを確認すると言っておいてくれ。」
「了解です。」
「オッケー!」
あ、当たり前だけど仕事中はちゃんと名字呼びなのね。私も気をつけないと。
さぁ、今日も忙しいぞ~!
午前中もみっちり仕事をして、やっとお昼休み。ロビーに降りると智美が待っていた。
「駅裏のカフェまで行こ。あそこならちょっと離れてるから、社内の人間に話聞かれることもないでしょ。」
「うん。」
「で?どうなってるの?」
「うん。先週、噂になった日に…課長に会議室に呼ばれたの。で、依頼されたの。付き合うふりをするって事。」
「依頼?どういう事よ?付き合うんじゃなくて?」
「そう。なんかね、課長のファンの人たちが迷惑なんだって。だから、この噂で遠ざけたいって。それに、そのファンの人たちが私になにかしてくるかもしれないから、そうならないように守ってくれるって。」
「ふ~ん。じゃ、時田課長の恋人役をやるって事なのね。そんな事しなくても時田課長ならなんとかできると思うんだけどな~。」
「そうなの?私も課長にちょっと協力して欲しいことがあったから、その依頼を受けたんだけど。」
「協力して欲しいこと?」
「うん。先月からね、お母さんがお見合いしてみないかってしつこくて。なんか、お母さんが気に入ったみたいなんだよね。私、今忙しいからしないって言ってるんだけど、なかなか諦めてくれないのよ。で、断るのに課長に協力をね、お願いしたの。」
「お見合いか~。私のとこにはまだ何も言ってこないけど、これからありそうだな~。確かに断るには彼氏がいますって方が早いよね。」
「そう思って。」
「そんで、さっそくデートしたわけね。」
「そういう事。」
智美には本当の事を話した。大丈夫だよね。だって、バレたら後が恐いんだから!
15時。予定通り、打ち合わせブースにメンバー全員が集まった。
私以外で唯一の女子である和泉さんにはチラッと見られただけで、噂の事を聞いてくる事もなかったのでホッとした。
「とりあえず、今までで出来上がってる所までを確認しよう。松本さん、お願いします。」
「はい。では、表示します。トップから。今回のHP全体に共通する、ヘッダーがこのように表示されます。それから、サイドバーも共通です。フラッシュは写真を3・4枚入れ替えるようにしています。」
次々とページが表示され、説明されていく。次に、リンクされている箇所が確認されていく。
あとは、追加要望のあった動画を数種類見られるようにすることと、問い合わせページの書式や受信先の設定、管理ページの作成等だ。それから微調整をしてテストに入れる。
「今現在でこの段階だと納期に間に合わない。もう一度スケジュールを見直してから、あとで全員にメールで送信します。今よりはキツくなるが宜しくお願いします。以上。今日はこれで解散。」
はぁ~、さらにキツくなるのか~。もうちょっとスピードアップしないと!
打ち合わせブースを出ると、偶然、前に所属していた総務部の副部長に会った。
「あれ?水原くんじゃないか。スーツ姿、いいねぇ!似合ってるよ~。そうだ、コーヒーでも奢ってあげようか。」
「あ、お久しぶりです。ありがとうございます。」
私は副部長に連れられて休憩コーナーに行った。
しばらくして自分のデスクに戻ると、崇史さんが怖い顔をしていた。
さっき、忙しくなるってわかったばかりで休憩コーナーに行ってしまったのがマズかったのか。
小さく「すいません。」と言ってデスクに着くと仕事に集中するべく、取りかかった。
その日も残業をしていると、
「今日はここまでにしとこう。あんまり頑張っても後が続かないぞ~。」
原田さんの声で気がつくと、この部屋で残っているのは私と崇史さんと原田さんだけになっていた。
「そうですね。今日は帰ります。」
私が帰り支度を始めると、二人も支度を整えた。
「んじゃ、お疲れ~。」
原田さんが照明を消して先に帰っていくと、薄暗い中に私と崇史さんの二人きり。会社で二人きりって何だか気まずいような。
「香織。」
「はいっ!」
名前で呼ばれてちょっとビックリした。もう仕事モードから切り替えたんですね。
崇史さんは私を呼ぶと、ゆっくり近寄ってきた。照明が消されてるため崇史さんの表情がよく見えない。
「そのスーツ、評判が良かったみたいだな。」
声の調子はいつもの課長と同じ。
「はい。なぜか色んな人から声を掛けられたんです。それに、コーヒー奢ってくれたり、おやつをくれたり。そんなに珍しかったんですかね?」
「珍しかったからじゃない。それ、全部男だっただろう。……今後、スーツは着てくるな。」
「え?だって、せっかく崇史さんが買ってくれて、皆似合ってるって言ってくれたのに。」
崇史さんはさらに近づいてくる。窓からの薄明かりでやっと顔が見えるようになったが、いつも以上の無表情。すごい威圧感で本気で怖いと思ってしまい、無意識に後ずさってしまう。
「……崇史さん?どうしたんですか?」
「香織のスーツ姿は俺だけに見せてくれればいい。」
「崇史さんだけって…。スーツなんて仕事以外では滅多に着ないですよ?」
「それでも、だ。」
崇史さんの手がすっと私に延びてくる。左腕で腰を抱き込まれ、右手は頬に当てられて上を向かされる。
すぐ目の前には、崇史さんの整った顔。外の光を反射して、私を映した目で見つめられる。
キレイ…。ずっと見ていたい。
「香織。わかったか?」
あまりにも真剣に言う崇史さんを見つめていると、先程までの怖さを忘れ、無性に左目の下にある泣きぼくろに触れてみたくなった。
何も考えずに、ゆっくりと手を挙げる。
そっと泣きぼくろに触れてみた。
「……香織?」
目が瞠られ、少しの驚きを含んだ声が聞こえる。
私はハッとしてすぐに手を降ろした。
「っ!ごめんなさい!」
「……。」
「あの、わかりましたから、離してもらえませんか?」
じっと私を見つめていた崇史さんがゆっくりと私から離れると、表情を緩めて私に微笑みかけた。
「今日はもう帰ろうか。」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
――自宅へ帰った崇史は、ベッドに入るとぼんやり考えていた。
今日の香織はどうしたんだろう。彼女の方から手を延ばしてくれるなんて…。
あの時、声を掛けなければ良かったかもしれない。
そうすれば、もう少し香織の指先を感じていられたのに。
そうすれば、もう少し香織を抱きしめていられたのに。
もっと、香織に触れられたい。あの白くてほっそりとした長い指。少し冷たい指先は気持ちが良かった。
自分の左目の下を触れてみる。
いつまで、待てばいいんだろう。俺はいつまで、待てるんだろう。
崇史の意識はゆっくりと堕ちていった。
崇史さんのちょっとした嫉妬の巻でした。