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たくさんの方に読んでいただけて、わたくし大変うれしゅうございますヾ(*´∇`*)ノ

ありがとうございます〜!

 土曜日、11時前。

 携帯が鳴った。知らない番号だ。

「…はい。」

「香織?俺、崇史。今マンションの下に着いたよ。」

「っ!はい!今降りていきます。」


 慌ててバッグを持って一応カーディガンも持って降りていくと。

 マンション入り口正面に黒のステーションワゴンが止まっていた。その助手席側に凭れて課長…崇史さんが立っていた。休日のせいか、今日はジーパンにグレーのVネックの薄手のニットを着ている。スーツではわかりくにかったが、適度に筋肉が付いていてスタイルが良い。所謂、細マッチョといわれる部類に入るだろう。前髪も上げてなく、サラサラの黒髪は自然に流されている。どちらかというと童顔なので、31歳という実年齢より確実に若く見える。会社とはあまりにも雰囲気が違うため、怖いとは思わない。


 崇史さんが私を見つけると、ゆっくり近づいてきた。


「おはよう。…可愛いな。」


 初めて見る崇史さんの姿に見とれていた事と、言われた言葉に頬に熱が集まるのがわかる。


「おはようございます!あの…、ありがとうございます。」


 私はさんざん悩んだ挙句、歩きまわるだろうからとスカートはやめて今日はショートパンツにニーハイソックスをあわせ、薄い緑色のチュニックを着ていた。


「乗って。」


 助手席のドアを開けてくれる。「お邪魔しま~す。」と言ってシートに収まると、ドアを閉めてくれて運転席に崇史さんが乗り込んできた。


「アウトレットに向かう途中でお昼にしようか。」

「はい。よろしくお願いします。」


 クスッと笑ってゆっくり車を発進させた。

 カーステレオからは、静かな音量でボサノバが流れている。休日の昼間にはぴったりだ。




 窓から外の風景を眺めながら、思い出す。

 そういえば、崇史さん、どうして私の携帯番号知ってたんだろ?教えてないと思うんだけど…。それに住所も。――会社で調べればわかるのかな~?聞いてみようかな。なんだかこの車も見た事あるような気もするし。


「あの、崇史さん?私の携帯…。」

「ああ、俺の番号登録しといて。携帯会社も一緒だからメールも送れるし。」

「あっ、わかりました。」


 携帯をいじって登録する。って、そうじゃなくって!なんかうまくはぐらかされた気がする。どうも教えてくれそうにないな~。…また今度でいっか。


「お昼、何が食べたい?」


 今日の課長…崇史さんは全く雰囲気が違ってちょっと戸惑う。普段はこんな感じなのかな。崇史さんの顔を眺めながらそんな事を考えていたので、反応が遅れてしまった。


「香織?」

「っはい!えっとお昼ご飯ですよね。崇史さんは何がいいですか?」

「そうだな、軽いものでいいかな。」

「じゃぁ、サンドウィッチとかパニーニとか。カフェ系なんかどうですかね?」

「ああ。そうしよう。よさそうな店見つけたら教えてくれないか。」

「は~い!」


 海沿いの国道を走っている車の外を眺めでいるとオシャレな外観のカフェレストランを見つけた。


「あ!あそこ、いいんじゃないですか?」

「いいよ。あそこにしよう。」



 たまたま見つけたカフェだったが食事はおいしくって大満足!軽く、のつもりだったのにメニューを見ると他のものに目移りをして。結局パエリアをがっつり食べてしました…。崇史さんは、BLTサンドだったのに。



 13時前にはアウトレットに到着した。

 さっそくいろんなお店を片っ端から覗いていく。男の人ってこういう所は退屈なんじゃないのかな~、と思いチラッと崇史さんを見ると。笑顔!なんか楽しそうなんですけど!?


「香織。これなんか似合いそうだよ。」


 そんな事を言いながら私の腰に腕を回してくるから、私、挙動不審です!なんですか、この“普通のらぶらぶカップル”って雰囲気!!なんか体中がむずむずする~。


「~っ、どれですか?」


 歩いて行きながら離れようと試みるが!さらに引き寄せられるって~(恥)なんかね、なんかね、肩に崇史さんの胸元が当たって筋肉質なのがわかってしまうのです~。それにイイ匂いもするのですよ。お願い、耳元でフフッて笑わないで!もう私、ドッキドキですぅ。顔が熱い!


 何の羞恥プレイか知りませんが、その後もそのままお店を見て回るという恥辱を味わい「歩きにくくないですか?」という私の小さな抵抗も虚しく。


「あの、私靴を見たいんですけど…。」

「どんなの?」

「あ、仕事で履けるのが欲しいなって。」


 シューズショップに入ると崇史さんが「これは?」と一足のパンプスを見つけた。


「あ、かわいい。履いてみますね。」


 イスに座って靴を脱ぐと、崇史さんがパンプスを持ったまま私の前に片膝をついて屈むと、すっとパンプスを履かせてくれた。


「え!あ、あの崇史さん?自分で出来ますから!」

「ん?俺にさせて?」

「~~」


 すっごい見られてます!遠巻きに見られてるよ~。「させて?」じゃなくって、恥ずかしいんですよ!なんなんですか、さっきから~!そんな事はホントの彼女にしてくださいよ。…私は彼女じゃないんだから。ちょっと寂しく感じてしまう。


 私は気を取り直して、パンプスを買うと今度は崇史さんが「その靴に合うスーツも見に行こう。」と言い出した。


「あの、私ほとんどスーツは着ないんですけど。」

「たまには良いだろう。それに外に打ち合わせに出向く事をあるんだしな。」

「そうなんですね。今までは制服だったんで、スーツなんて入社式で着た1着しか持ってないんです。」

「なら、丁度よかった。行こう。」


 そして嬉しそうにお店まで連行された。


「これ。着てみて。似合うと思うよ。」


 渡されたスーツはカーキの少しミリタリー調のスーツ。スカートはタイトじゃなくてマーメイドになっている。さっきのパンプスの時も思ったけど、私の好きそうなものを良く見つけてくるな~と思う。私は素直にそのスーツを手に取ると試着室へ入る。


「着たら一度見せてくれよ。」

「はい。」



「崇史さん。着ましたよ。どうですか?」


 試着室を出て崇史さんに声を掛ける。ちょっとスカート丈が短いかな?


「うん。いいね、似合ってるよ。可愛い。これにしよう。」


 決定?すごい笑顔です。会社での課長と同一人物とは思えない!なんか嬉しそうだからいいか…。

 羞恥プレイに疲れてきていた私は、崇史さんに逆らう事はせずに再び試着室に入り着替えた。

 試着室を出てきた私からスーツを受け取ると崇史さんはそのままレジへ。


「あっ。崇史さん、ちょっと待ってください。」


 靴を履きながら声を掛ける。


「ゆっくりおいで。このスーツは俺がプレゼントするよ。」

「えっ。大丈夫です。自分で買いますから!」

「いいから。その変わり、月曜に会社に着てきてくれる?」

「はぁ、わかりました。」


 私の返事に満足した崇史さんはニッコリ。完全にキャラが違ってます。会計を済ませた崇史さんに「ありがとうございます。」とお礼を言う。会計を終えても購入したスーツ、それに試着する時に預けたパンプスも当然のように崇史さんが持ってくれている。会社では怖いけど、この人がモテるのわかるかも。

 私は「ちょっとトイレに行ってきます。」と断って崇史さんの側を離れた。



 トイレから戻ると。ベンチに座った崇史さんが見えた。足を止めて見てしまう。この人、客観的に見てもかっこいいんだな~。そう言えば、崇史さんは彼女いないんだろうか。…いたら、私にこんな依頼してこないか。それに確かこの3年くらいは彼女いないって前に智美が言ってたような。なんか理由があるって。私に依頼した時もファンの人たちが迷惑だからって言ってたし、嫌な事があったのかも。

 ぼ~っと立っていると、隣から声を掛けられた。


「どうしたの?友達とはぐれた?」


 知らない男の人だった。私と同じ年くらいだろうか。


「一緒に探してあげようか?」

「あの、大丈夫です。連れならそこにいますから。」

「そうなの?あのさ、ちょっとだけ僕と話さない?コーヒー奢るからさ。」

「えっ。あの結構です。連れが待ってますから。」


 ちょっと強引な感じの人で困っていると、


「香織。こっちにおいで。」

「崇史さん!」


 助かった~。急いで崇史さんのところへ行くと、そのまま腰を引き寄せられた。


「彼女になにか?」

「あ、いえ、何もないです。」


 崇史さんがその男の人に会社にいるときみたいな怖い顔で見ると、すぐに行ってしまった。


「はぁ~、ありがとうございました。」

「…トイレに行っただけでどうして捕まるんだ。もうちょっと自覚して欲しいな。」

「すいません。」


 一気に不機嫌になった崇史さんを前に謝るしかできない。私、特に悪い事はしてないと思うんですが…。

 その表情に気づいた崇史さんは、


「本当にわかってるのか?君、今日のその格好もそうだけど、自分が美人でモテるんだって事を自覚してもらわないと。」

「はい~??」


 私がモテるですと!?んな訳ないし。貴方じゃないんだから!

 そんな私を見てため息を吐くと、


「心配だな…。君は可愛いんだから、もっと気をつけないといけない。」

「はぁ。」


 そしてまた腰をグイッと引き寄せられた。またですか~!勘違いしそうになるから本気で止めて欲しいんです、なんて言える訳もなく。

 終始その調子でぐったりと疲れてしまった私は、帰りの車の中で不覚にも眠り込んでしまった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ――帰りの車の中。

 

 香織は疲れてしまったらしく、可愛い寝顔を俺に向けてぐっすり眠っている。

 彼女はわかっているんだろうか。俺が彼女にだけ笑顔を見せている事を。彼女にだけは何でもしてあげたいと、優しくしたいと思っている事を。



 今まで付き合ってきた女たちには、正直こんな感情を持ったことはなかった。付き合っても普段、会社にいる時と態度は変わらないから、よく「冷たい」とか「優しくない」とか言われていた。そんな事を言われても俺は何も思わなかったし、「そうか」だけで済ませていた。「本当に私のこと、好き?」なんて聞いてくる女はそれだけで鬱陶しい。いつも向こうから勝手に寄ってきて、勝手なことを言い始めて「なら、別れよう」で終わり。今日の香織みたいに他の男に言い寄られている所を見て嫉妬したこともないし、ずっと触れていたいと思ったこともなかった。



 やはり香織は違う。特別なんだ。

 最初は美人の新入社員が受付にいると聞いて。何度か見かけたが確かにキレイな子だな、と思っただけだ。1年経った頃、偶然エレベータの中で一緒になった事があった。たぶん、どこかの部署に預かった書類を届けに行くところだったんだろう。封筒を持って俺の前に立った。その時、初めて気づいたんだが、女性にしては思ったより背が高いということとスタイルが良くて足がキレイだという事。受付に座っていると足は見えないから。それから香水じゃない甘い香りがした。その香りに誘われるように後ろから彼女を眺めると、右耳の後ろに栗色の髪に隠れるようにホクロが見えた。それがやけに色っぽくてじっと見つめてしまった。


 それからだ。彼女が気になり始めたのは。話したことは、ない。見るだけ。当時俺は27歳。いい年した男が見るだけとは。その時、俺には一応彼女はいたが特別な感情はなかった。今から思えばあの時点で香織の事が好きだったんだろう。当時の彼女を抱く時も香織の事を思い出していたような気がする。

 自分の気持ちにはっきりと気づいたのはそれからさらに1年後。気づいてからは彼女と別れてどうしたら香織に近づけるか考えて。もともと部署も違うし、営業のように頻繁に外にでるような事もないから受付も通らない。来客もそうそうないから話すこともない。だから、せめてと昼飯は原田と一緒に外で取るようにした。その時だけは香織を見れるから。原田には散々からかわれたが。

 原田にはバレないように、俺は休日も香織の様子を度々見に行っていた。マンションの正面玄関が見える道路脇に車を止めて、私服姿の香織が見られたらいいなと。その頃、香織の住所と一緒に携帯番号も手に入れた。どうやら香織のファンは思ったよりいるらしい。俺の知らない所で他の男が香織に接触するんじゃないかと心配だった。


 接点が持てないまま3年も思い続けて。すると原田がどこからか聞きつけてきた。香織が美大卒だと。俺はこの貴重な情報を逃す気はなかった。少し強引かと思ったが部長と人事になんとか香織の移動をねじ込む事ができた時はやっと手に入ると喜んだものだ。

 だが、実際に香織と接すると必要な事以外は話しかけてこない。原田や藤本とは仲良さそうに話しているのに。どうやら俺はこの無表情と淡々とした話し方、雰囲気で怖がられているようだ。


 すぐに手を出すのは控えたほうが良さそうだと考えた俺は、まず恐怖心を取り除く事が先決だと思った。だから少し遠回りだが確実に手に入れるため、“付き合うふりをする”という選択をした。おかげで今日、こうして連れ出せて怖いという感情も薄まったように感じる。

 こうして俺に寝顔を見せてくれているのだから。


 車を道路脇に止める。

 すでに暗くなった車内に対向車のヘッドライトが当たり、香織の顔が照らされる。エンジンの音が低くなり、寝息が聞こえてくる。


 俺は香織の整った顔をじっくりと眺め、そっと頬に手を添える。愛おしい、という感情が沸き上がってくる。初めての感情。今すぐにで手に入れたい衝動に駆られる。が、焦って失敗するわけにはいかない。3年待ったんだ。あと、少しくらいは待ってみせるさ。

 頬に添えた手を柔らかい髪に絡ませ玩ぶ。心地良い。そっと髪を掻き揚げ、右耳の後ろにあるホクロへ唇を寄せた。

 今は、これで。

 もう一度、香織を見てから車を発進させた。



崇史さんがちょっとヤバい!!勝手に動き出したんですよ。…どうしよう、キャラが崩れだしました。

次回はちょっと短くなるかもです。

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