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少しビクビクしながら私はWeb事業部にたどりついた。今のところ、見られている感じはするがそれ以外には特に変わったことはなかった。ほっとしながら、デスクに着くと原田さんに話しかけられた。


「おはよ、水原。お前、一日で有名人になったんだな!」


 つい恨みがましく見てしまった。なんでそんなに嬉しそうなの!


「おはようございます。なんですか、有名人って。」

「ん?社内の女子から大注目だろう。大変だな~。しかも、時田とだし。時田のファンは本気度が高いから気をつけろよ~。なんなら時田になんとかしてもらえ?な~?」


 そう言って時田課長のほうを見る。そういえば、時田課長と原田さんって同期で仲良しだったんだよね。だから、あの怖い課長にもこんな風に言えるのか。

 言われた時田課長は…。


「水原。ちょっといいか。」


 私をチラッと見て廊下へ歩いていってしまう。私は「はい。」と答えて慌てて追いかけていった。


 時田課長は廊下の端にある会議室のドアを開けて私を待っていた。「すいません。」と言いながら会議室へ入ると課長も入ってきてなぜか鍵を掛ける音が小さく聞こえた。

 なんだろう?


「座って。」


 課長は言うと小さくため息を吐いてイスに座ると「すまなかったな。」と言った。


「いえ。私もびっくりしました。さっき、秘書課の友達から聞いてなんか噂になってるって…。」

「ああ、彼女たちの情報は早いからな…。」


 課長は表情を崩さず、私を見つめると話始めた。


「君に提案がある。いや、提案というより依頼かな。」

「依頼…ですか?」

「そうだ。自分で言うのも何なんだが、彼女たちは俺を待ち伏せたり用もないのに話しかけてきたりして迷惑でね…。それに集団になると何をしでかすかわからない。君に危害を加えることはないと信じたいが、迷惑を掛けることになるだろう。それなら、このまま俺と付き合っているという事にしておかないか。そうすれば、君を守ってやれるし、俺も彼女たちを遠ざけられる。どうだ?」

「…」


 えっと…。どうしよう。私、もしかして危ないのかな?ん~~?それに私が危ないのなら、付き合う事にするよりきっぱり関係ありませんって言った方がいいんじゃないかと。。


「あの、私の事なら噂を否定した方が早いんじゃ…。」

「俺はその方がいいんだ。だから依頼だと言っただろう。」

「…わかりました。ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」


 うん。こんな時はすぐに返事をせずに少し時間を置いて考えよう!


「…わかった。」


 課長はそう言うと席を立った。またドアを開けて待ってくれる。課長ってもしかして優しい?そう思った、その時!ドアを出ようとした私の背中にふわっと手を添えられ、歩くのを促されてドキッとしてしまった。思わず課長を見上げると、思ったより近くに顔があって。表情は変わらないのに目が優しく感じられた。その左目の泣きぼくろも手伝って、なぜかすごく色気が溢れていてさらにドキドキしてしまう。


「あの…。」

「仕事に戻ろう。」


 淡々と言う課長に何も言えず、そのまま部署の入り口まで歩いていった。その隣で課長が微笑んで私を見ている事など知らずに。






 課長からの依頼の件を考える暇もなく仕事を続け、やっと終わった時。デザイン課の藤本さんに話しかけられた。


「水原さん。ちょっと良い?」

「はい?」


 廊下へ連れて行かれる。


「水原さんさ、時田課長とホントに付き合ってるの?」

「えっ?あの、えっと…。」


 私がはっきり答えられずにいると、藤本さんは大きなため息を吐いた。


「僕さ、水原さんの事ちょっと気に入ってたんだけど…。僕が水原さんに話しかける度に、課長がスゴイ目で睨んでくるから。今も睨まれたし。課長があんな顔するなんて本気なんだろうね…。なんか困ったことがあったら、相談に乗るから頑張ってね!」

「え…。」


 そう言って藤本さんは帰って行った。…あの、それはどうゆう事でしょうか?なんか勝手に納得してなぜか応援して帰っていったんですけど…。

 なんか疲れた…。さっさと帰ろう。




 部屋に帰ると先月からたまに来るの母からのメールを思いだした。もしかして、課長からの依頼を受けたらお見合い、断れるんじゃないの?「いいかも…。」そんなにお見合いが嫌っていうわけじゃないけど、今はしたくないし、なにより面倒だ。私も課長に協力してもらえば、いいんだよ!そうしよう!明日さっそく課長に話そう。








「課長、ちょっとお時間よろしいですか?」


 翌日さっそくそう話しかけると課長は忙しいらしく、私を見ると、


「ああ。今は無理だな。仕事が終わったら晩飯に行こう。そこで聞くよ。」


 噂になってるのに皆の前で堂々と言われ、顔が熱くなってしまい俯いて小さく「はい。」と言う事しかできなかった。恥ずかしい!

 原田さんにはニヤニヤしながら見られた。イヤ~~!!

 とりあえず、仕事よ!今日も忙しいんだから、頑張らないと。

 私はイラレとフォトショを立ち上げながら冷静になろうと努める。まずは、スケジュールを確認しないとね。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ――その日の昼休み。

 時田と原田は近くの定食屋にいた。昼食を取りながら話す。主に原田が。


「お前ね、ちょっと浮かれ過ぎじゃないか~?皆の前で言う事ないだろ。水原、顔真っ赤だったぞ~」

「ああ、可愛かったな。それに、皆が聞いてるから言ったに決まってるだろう。」

「…お前な~。無表情で言うなよ。それにちゃんと付き合う事になったんじゃないんだろ?なんかややこしい事してるし。ちゃんと言えばいいのに。」

「俺は彼女に怖がられてるみたいだからな。慣らしてからの方がいいかと思って。」

「確かに怖がってるな。わかってるんなら優しくしてやればいいのに。」

「他の女どもが五月蝿いだろう。彼女が攻撃されないとも限らない。」

「そう思うなら皆の前であんな事言うなよな。それこそ、やっかみの対象になるぞ。」

「…俺が彼女を守ればいい話だ。」

「ま~な。お前なら裏から手を回してでも守るだろうな。そういえば、藤本が水原に告白したらしいぞ。」

「…」

「おい、オレを睨むなよ!それに告白はしたが、水原に近づくたびにお前に睨まれるからって諦めたって。お前、何やってんだよ…。」

「そうか、やっと諦めたか。」

「…笑うのはいいが、その悪い笑い方はやめろよ~。黒いぞ!ホント、今までの女と違うんだな。今までだと向こうが寄ってきてたしな~。お前から好きになったって、もしかして初めてじゃないのか?」

「ああ。彼女は違うな。なぜかずっと見ていたい。初めて独占欲の意味がわかったよ。どうやって近づけばいいか掴めなくて3年もかかったんだからな。」

「惚気かよ~。しかし長いよな~。やっと理由見つけてウチに引っ張って。周りから固め始めたってところか。あの噂もわざとなんじゃないのか~?お前なら、人の気配くらいはわかるだろ。」

「当たり前だ。あの女も邪魔だったし噂を広めるにはちょうど良かったよ。ま~、あの時間でその日の内にあそこまで広がるとは思ってなかったが。」

「自分の人気がわかってないね~。それに水原も密かに男どもに人気だからな。受付嬢やってたってのもあるが、美人の部類に入る顔してるし、長身だけど高すぎるって事もないし、スレンダーでスタイル良いからな。それに本人はしっかりしてるつもりだろうが、なかなかに抜けてる所もあって面白いしな。今回の噂の相手がお前だって聞いて本気で凹んだヤツは多いだろうな~。面白れ~!」

「いい牽制になったな。これで他の男が近づかなければいいんだが。…ま~、簡単にそうはいかないだろうな。」

「で?今日、晩飯一緒してとりあえずのお付き合いを断られたらどうするんんだ?」

「俺が許すはずがないだろう?きっちり捕まえるさ。」

「あ~、なんか水原が心配になってきた。お前、ちょっと抑えろよ?」

「わかってるさ。今はまだ早いからな。ここまで我慢したんだ。もう少し時間をかけてでも確実にするさ。」



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 お昼休みに二人がそんな話をしていたとは露知らず、終業時間を1時間ほど過ぎた頃私はやっと今日の業務を終わらせた。

 なんとかスケジュール通り。少し素材集めに時間がかかってしまったが。

 顔をあげると時田課長と目があった。


「水原、終わったか?」

「はい。なんとか。」

「そうか。じゃあ、行こうか。」

「…はい。」


 そんなに皆の前で堂々と言わない欲しい。なんか居たたまれない…。

 帰り支度を整えると、またしても課長が背中に手を添えてきて歩くように促す。

 あの~、皆が見てるんですけど。中にはびっくりした顔でこちらを凝視してくる人もいる。そうでしょうよ。あの怖い課長がこんな事するなんて!私は皆の顔がまともに見ることができなかった。


 そのまま会社を出ると、手を退けてくれるのかと思いきやその手は背中ではなく、少し下がって腰に添えられた。ちょっとパニックぎみになってきた頭では何も言葉は浮かばず、私は課長にされるがまま。いえ、別にそんな事された経験がないって訳じゃないんだけど、それをしてるのが課長だって事がね。どんな顔して歩いてるんだろ。…無表情なんだろうけどね~。わざわざ課長の顔を見る勇気のない私は、駅前のレストランバーに連れて行かれた。



 店内は混んでいた。特に気にしていなかったが、今日は金曜日だ。そりゃ多いよね。そんな中、私たちは奥の半個室に案内された。どうやら、課長が予約をしてくれていたようだ。席に着くと課長が適当に料理を注文してくれる。


「水原。ワインは?」

「あ、はい。少しいただきます。」


 ワインも注文してくれ、すぐに運ばれてきた。


「じゃあ、お疲れさま。」

「お疲れさまでした。」


 一口飲むと、


「おいしいっ!すごく飲みやすいですね!」


 実は私、お酒大好き。でもビールは苦手で量は飲めない。だから、ショートカクテルとかちょっとキツめのお酒を少し飲むようにしてる。このワインは度数は結構あるはずなのに飲みやすくって甘すぎずおいしい。

 そんな私を眺めて、課長が笑った。今回は紛れもなく笑いましたよ!


「そうか、よかった。」


 この人、笑うとホントに優しい雰囲気になる~。なんか、いいな。


「それで?答えは決まったみたいだね?」

「あ、はい。あの~、よろしくお願いします。」


 そう言って軽く頭を下げた。


「こちらこそ、よろしく。社内で何か言われたりされたりしたら、ちゃんと俺に言うんだよ?」


 ん?なんか、会社と全然違う。笑顔のせい?それとも話し方のせいかな?…そうだ、あの事をお願いしとかないと。


「あの~、それで私も課長に一つお願いがあるんですけど。」

「なに?」

「あのですね、先月から母にお見合いを勧められていまして。私、今は忙しいし面倒なので断ってるんですが母が気に入った人らしくって、なかなか諦めてくれないんです。なので、課長にちょっと協力していただければと、思い…まして…。」


 話している内にどんどん課長の顔が無表情に!さっきまで笑ってたのに!怖いですぅ。なんで!?


「わかったよ。俺がきっちり片付けるよ。そのかわり、君もちゃんと協力するんだよ?」


 今度は笑顔です。なんなんだ、恐いぞ。


「はい~。」


 それから。これ、ホントに課長かって言う満面の笑顔で話しだした。


「それでね?俺の事は今後、ちゃんと名前で呼ぶんだよ?香織?」


 ひぃぇ~!いきなり『香織』ですか!ドキドキする~。いや、バクバクか!って課長の名前…。はて?私、課長の名前って聞いたことあったっけ?満面の笑顔で待ち構えられて、いやな汗がタラッと…。課長の名前、知らね~!時田、としか。ヤバい。どうしよ…。

 私はヘラッと笑いながら。


「えっと、名前って…時田さん?」

「なんで名字なの?俺が香織って呼んでるのに。……崇史だよ。言ってみて。」


 なんか~、もしかして拗ねたの?軽く睨まれてるような気が。仕方ないじゃない、聞いた事なかったんだもん!


「えっと…、崇史さん?」

「そう。これからそう呼ぶようにね。」


 あ、笑顔になった。この人、ホントはとてもわかりやすい人なんじゃ…。

 そんなやり取りをしながら、運ばれてきた調理を食べる。


「ここの料理、おいしいですね!入社して5年経つのにこのお店、全然知りませんでした。」

「ああ、ちょっとわかりにくい所にあるからね。でもだいたいいつもいっぱいなんだよ。金曜は特に予約しないと、この時間だと入れないんだ。」

「へ~、そうなんですね~。わざわざ予約していただいて、ありがとうございました。」


 思ったより和やかな雰囲気で食事ができた。ちょっと課長が怖くなくたってきたかも…。ワイン効果かな?


「そう言えば、明日の土曜日は何か予定がある?」

「明日ですか?特には…。掃除でもしようと思ってたくらいですけど。」

「じゃあ、出掛けないか?」

「へっ?…いいですけど。」


 思わず首を傾げてしまった。課長…付き合ってる事にしようって。ホントに付き合う訳じゃないはずなのに。そこまでするの?

 そんな私の疑問に気づいたのか、


「…本当の恋人みたいに振る舞わないと、誰にバレるかわからないし雰囲気でわかるものだよ。そうなると、香織も困るだろう?」


 そういうものかな…。私も協力してもらわないといけないので「わかりました。」と答えた。


「明日は、そうだな11時頃に車で迎えに行くよ。どこかでランチをして新しくできたアウトレットにでも行ってみようか?」

「アウトレット!行きたいです!あそこ、車じゃないと行きにくいから自分じゃ行けなくって。」

「決まりだな。」


 その日はまだ時間が早かったため駅で別れて自分の部屋に帰りついた。

 崇史さん、か。なんだか変な感じ。ん~、恋人(仮)っていう事でいいのかな。なんかアウトレットに釣られてしまったけど、良かったのかな~。ま、行ってみたかったからいいか!楽しみ~。今日は疲れたし明日のために早く寝よ!




崇史さんのちょっと黒い顔が見え隠れ…。少〜し前進しました。

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